18話 シルフの依頼
「ところで、今日は何の用だ?」
「んとねぇ、実は、私の友達が困ってるのぉ」
「お前の友達が?」
「うん。それでね、助けて欲しいのぉ」
「まあ、いつものことだし、別に構わんけど」
「ありがとう!じゃあ、ちょっと待っててねぇ」
そう言うと、シルフは両手を前にかざして集中し始めた。
しばらくすると、彼女の身体の周りに風が集まってくる。
そして、それを一気に解き放った。
すると、俺達の周りを渦巻くように空気の流れが生まれる。
その流れに乗って、俺とアリルは空中に浮かび上がった。
おお、これは凄いな。
俺は自分の意思で空を飛ぶことが出来る。
まるで、自分が魔法を使っているような感覚だ。
下を見ると、街の景色が広がっている。
なるほど、これならすぐに目的地に辿り着けそうだ。
俺は高度を上げて、目的地に向かって飛んで行った。
「どうだ?初めての空の旅は?」
「うーん、なんというか、不思議な気分ね」
「そうか、まあ、そのうち慣れるさ」
「それならいいんだけど…………」
アリルは不安そうな表情を浮かべながら俺に寄り添ってきた。
俺はそんなアリルを安心させる為、慣れない笑顔を向けた。
「大丈夫だって、ちゃんと目的地まで連れていってやるから」
「…………」
アリルは何も言わずに俺の腕にしがみついてきた。
俺はそのまま目的地に向かって飛び続ける。
「アリル、そろそろ着くぞ」
「え?あ、本当だわ」
アリルは前方に広がる光景を眺めながら言った。
そこには大きな山があった。
頂上には、岩の体をした巨大な竜、ストーンドラゴンが佇んでいた。あれが、俺達の目的である場所らしい。
俺達はストーンドラゴンの近くへと降り立った。
俺はアリルを地面に降ろした後、彼女に声を掛けた。
だが、アリルは俺の言葉を無視して、目の前にある大きな建物を見つめていた。
それは、古ぼけた石造りの建物。
一見、ただの遺跡にしか見えないが、これが俺の目的の場所である。
「おーいっ!待たせてごめんねぇ!」
後からシルフもやって来た。彼女は息を切らしながら、俺達に謝っている。
「それにしてもシルフの風の精霊術はやっぱり凄いな!」
「えへへぇ!そんなことないよぉ!」
「わ、私の水の精霊術だって負けてないと思うんだけど!」
俺がシルフを褒めると、アリルはヤキモチを焼いたのか不機嫌そうに言った。
「まあまあ、落ち着いてよぉ、お姉さん。とりあえず、中に入ってぇ?」
「むぅ~」
アリルは不機嫌ながらも遺跡の中に入って行く。
その後を追うように俺達も中に入った。
「それで、シルフの友達が困ってるってどういうことだ?」
「うん、実はねぇ…………」
シルフは遺跡の奥から傷ついたストーンドラゴンの幼獣を連れて来た。
「この子、外のストーンドラゴンの子供なんだけど、魔術をかけられて弱ってるんだぁ」
「術式が複雑で私には解除できなくてぇ」
「だから、助けて欲しいんだぁ」
「ふーん、つまり、その子の魔術を解けばいい訳ね」
アリルは落ち着いた様子でそう言った。
「そういうことぉ!お願いできるかなぁ?」
「まあ、助けてあげるわよ」
アリルは微笑みながら、シルフの依頼を引き受けてくれた。
さすがはアリル、頼りになるな。
俺が感心していると、アリルは目を閉じて呪文を唱え始めた。彼女の周りから、魔力が集まり始める。
やがて、彼女の手に光が集まる。その光は球体となり、ゆっくりと宙に浮かび上がった。
おおっ、すげぇ…………!
アリルは光の球を幼獣に向けて放った。
光の球は幼獣の体に入り込むと、その体にかけられた魔術を破壊した。すると、幼獣の傷が癒えていく。
「ふう、これで大丈夫ね」
アリルは額の汗を拭いながら、一仕事終えたような感じで言った。
「ありがとう!お姉さん!助かったよぉ」
シルフは嬉しそうに笑いながら、アリルに抱きついた。
「ちょ、ちょっと!?」
アリルは顔を赤くして戸惑っている。
しかし、嫌がる素振りはなく、むしろ満更でもない表情を浮かべているように見えた。
そんな二人を見ながら、俺は微笑ましく思った。
まるで仲のいい姉妹に見えたからだ。
「でも、お礼は弾んでもらうわよ?」
「もちろんだよぉ!何でも言ってぇ!」
「じゃあ、わ、私のこと、あ、アリルって呼びなさい!」
「ふえっ?」
アリルは顔を赤くしながらそう言った。
「いいでしょ?別に減るものじゃないんだから」
「う、うん、わかったよぉ」
シルフは戸惑いながらもアリルの名前を呼ぶことにしたようだ。
「じゃあ、改めてよろしくねぇ、アリル」
「こちらこそ、シルフ」
アリルは満足そうに微笑んだ。
「さてと、問題が解決したなら俺達はもう行かないとな」
「あ、待ってぇ」
「どうした?」
「私も、一緒に連れて行って欲しいなぁ」
「え?どうしてだ?」
「だってぇ、せっかくアリルと仲良くなったのに、ここでお別れなんて寂しいもん」
「まあ、確かにそうだが……」
「それに、まだ旅の話とか聞いてないしぃ」
「もちろん私はいいわよ!」
「やったぁ!」
「ったく、仕方ねーな」
俺は苦笑しながらも、了承することにした。
こうして、俺達はシルフを仲間に加えて、再び旅に出ることになった。
だが、この時の俺はまだ知らなかった。
俺の想像を絶する過酷な運命が待ち受けていることを…………。