16話 アリルの誘惑
「へぇー、ここがウェスタロスか」
俺は街の外観を見渡す。
確かに、砂漠のど真ん中にある街だけあって砂だらけだ。
「それでは、宿を探しますので、ここで失礼します」
「おう、助かったぜ」
エルバは去って行った。
「俺達も宿を探さないとな」
「ええ、でも、この辺はどこも高いわね」
アリルが辺りを見渡しながら言う。
「仕方がないさ。砂漠のど真ん中だからな」
俺は苦笑しながら答えた。
この街は、オアシスを中心に広がっているため、周りは砂漠に囲まれている。
そのため、基本的に物価が高いのだ。
だが、そんな中で一軒だけ、安い宿屋があった。
「ここが良さそうだな」
「そうね、ここにしましょうか」
「ああ、じゃあ、入ろうぜ」
俺はドアを開ける。
「いらっしゃいませ~」
中に入ると、ウエイトレスの少女が笑顔で出迎えてくれた。
「二人部屋を一泊頼む」
「はい、かしこまりました」
俺は早速頼んでみた。
「あと、ここにはオアシスから湧いた温泉もありますので、良かったら奥様とお入りくださいね?」
俺とアリルは夫婦だと勘違いされた。
「な、な、な」
「あら、いいじゃない。たまには夫婦水入らずでゆっくりしましょうよ」
アリルがからかうように言ってくる。
「ち、違う! これは誤解なんだ!」
「何が違うっていうのよ? 私達は夫婦でしょう? ほら、早く行きましょ」
アリルに引っ張られて行く。
「おい、待てって!」
「ふふっ、こちらがお部屋の鍵になります」
「ど、どうも!」
ウエイトレスはくすくすと笑い鍵を渡してきた。
俺は鍵を受け取り、部屋に向かう。
「それじゃあ、私は先に温泉に入るから、あなたも荷物を置いたらすぐに来なさいよ?」
「ほ、本当に一緒に入るのか!?」
「当たり前じゃない。ひょっとして恥ずかしいの?」
アリルは俺の頬を突きながら言ってくる。
「そ、そりゃあ、少しは恥ずかしいけど……」
「大丈夫、誰もいないわ。宿には私達しかいないもの」
「そういう問題じゃないだろ!」
「まったく、変なところで臆病ね」
アリルは呆れたように呟く。
「分かったよ、入るよ!入ればいいんだろ!」
「そう来なくちゃね」
俺は部屋に荷物を置くと、アリルが待つ浴場へと向かう。
服を脱ぎ、タオルを巻いて中に入ると、既にアリルが湯船に浸かっていた。
湯船で火照ったアリルの顔はいつもより色っぽく美しかった。
その隣に俺も恐る恐る浸かる。
すると、アリルは俺に抱きついてくる。
むにゅんとした柔らかい感触が伝わってきた。
「ちょ、ちょっと待て! いきなり何をする気だ!」
俺は慌てて離れようとするが、アリルの腕の力が強く離してくれない。
「もう、そんなに慌てる必要もないでしょ? ただ一緒にお風呂に入っているだけだもの」
アリルは微笑みながら答える。
確かに、傍から見たらただ一緒に入っているだけに見えるだろう。
だが、俺にとっては色々とまずい。
特に、アリルの胸の感触がやばい。
あれに顔を埋めたら、一体どんな気分になるのだろうか。
「どうしたの? さっきから黙り込んで」
「な、何でもない」
俺は平静を装いながら答えた。
しかし、そんな俺をあざ笑うかのように、アリルはさらに身体を押しつけてくる。
「やっぱり、緊張しているんでしょう?」
「そ、そんなことないって」
「ふーん、じゃあ、こっちを向いてくれる?」
「え?」
「こっちを向いてくれたら、あなたの好きにしてもいいのよ?」
「えっと…………」
「ほら、早く」
アリルは俺の顔を自分の方へ向かせる。
「うぐっ」
「ふふっ、これで逃げられないわね」
アリルの顔が近づいてくる。
そして――
アリルは俺の唇を奪った。
「!?」
俺は驚いて声が出なかった。
「きょ、今日はここまでにしておいてあげるわ!」
アリルはようよく体を離してくれた。
俺は突然のことに混乱している。
しかし、アリルの顔もイフリートのように真っ赤だ。
笑顔もかなり引き攣ってるし。
こいつもかなり無理してるだろ。
「さてと、私は先に上がるわよ?」
「あぁ、うん……」
「じゃあ、また後でね」
アリルは手を振りながら湯船を上がって行った。
「さて、俺も出るか」
アリルが出て行ってから数十分経った頃、俺はようやく湯船から出て部屋へと向かった。
今日も色々あったな。
俺は明日に備えて早めに眠ることにしたが、なかなか寝つけなかった。