14話 城の崩壊
突然現れたルザークはリヒトを睨みつけた。
「おや、これは珍しい。まさか君のような者が僕のところに来るとはね」
「黙れ! 貴様が妙な術をかけたせいで、我が団長はご乱心なさった! その責任を取ってもらう!」
「ほう、君の主には興味がないけど、一体どんな風に彼が狂ったのか教えてくれないか?」
「貴様に話すことなどない!」
「そうかい…………まあ、『心が幼児化してしまった団長』を持つと苦労するよね?」
リヒトは高笑いしながら言った。
その言葉を聞いた途端、ルザークの顔色が一瞬で変わった。
それを見てリヒトは満足げに微笑む。
やはり図星だったようだ。
しかし、そのリヒトの表情は次の瞬間崩れた。
なぜなら、 ボコォ!
次の瞬間、ルザークの拳がリヒトの顔面を捉えていたからだ。
リヒトはそのまま吹き飛ばされる。
壁に叩きつけられ、そのままズリズリと地面に落ちた。
ルザークは呆然と立ち尽くしていた。
今の一撃でリヒトを殴った右手が痺れているらしい。
俺は思わず目を丸くする。
リヒトが普通に殴られた。
信じられなかった。
正直、俺はリヒトがバカ正直に殴られるとは思っていなかったからだ。
「ふふっ、痛いなぁ……」
リヒトはよろめきながら立ち上がる。
どうやら無傷のようだ。
「ふん! 我が団長を侮辱したこと後悔させてやる!!」
ルザークは再度構え、リヒトに殴りかかった。
「ルザーク殿! 待ってくだされ!」
そこに、ルザークを追いかけてきた兵士が制止に入った。
兵士はルザークとリヒトの間に割って入る。
「どけぇ!」
「ひぃ!」
ルザークに怒鳴られ、兵士は腰を抜かして尻餅をついた。
「邪魔をするな! そいつは殺さないといけないんだ!」
「ですが、生け捕りにしろと王宮から命令されているはずです……」
「くっ…………」
ルザークは歯噛みした。
「仕方あるまい、全軍一斉に乗り込め!」
ルザークは号令を出すと百人の兵士が城に乗り込んできた。
「おい、マジかよ」
「いくら何でも多すぎじゃないかしら」
「うるさい! これ以上奴らを好き勝手させるわけにはいかない!」
ルザークは叫ぶ。
確かに、このままでは城の占拠を許さざるを得ない。
「それに、この城は我らが守るに相応しい!」
ルザークは剣を振り上げる。
「少し分が悪いね。今回は撤退させてもらうとしよう」
リヒトは両腕を開いて詠唱を始めた。
「……ブレイク」
リヒトが魔法を放出した瞬間、城が天井から崩れ始めた。
「また会おう、ウンディーネ。そしてハイネ」
崩れる瓦礫の雨の中、リヒトを笑みを浮かべる。
その姿は砂埃の中へと消えていった。
「やばいわよ、早く脱出しないと瓦礫の下敷きになるわ」
アリルは慌てふためく。それもそのはずだ。
この城が崩れ落ちれば俺達は生き埋めになってしまう。
崩壊し始めた瞬間、俺は咄嵯にアリルを抱え、崩落する前に窓から飛び降りた。
もちろん、落下の衝撃を和らげるために風の精霊術を使った。
そして、地上に降り立ったあとは、土の精霊術を使い、自分達の周りを囲むように壁を作って、その中に避難した。
「ふう、危なかったな……」
「ええ、でもこれからどうするの?」
アリルは不安げに聞いてきた。
俺は腕を組んで考える。
「そうだな…………まずはここから離れることが先決だな」
精霊術でとっさに作った壁の外に出ると、周りは崩れた城の瓦礫の山。
ルザーク達の安否は分からなかった。
「そうね、近くの街を探してみましょ」
アリルはそう提案して来た。
俺もそれに賛成だ。
ここにいても何も始まらない。
とにかく今は安全な場所に移動しないと。
俺たちは街の方へ歩き出した。
すると、前方から走ってくる馬車が見えた。
馬に乗った商人がこちらに向かってくる。
「おーい! そこの冒険者さん達!」
俺達に気づいたのか、馬車から声をかけて来た。」
「良かったら乗っていきませんか? 近くに村があるのですよ」
「いいのか?」
「ああ、もちろん。困ったときはお互い様です。私はエルバ。よろしくお願いしますね」
「俺はハイネだ。こっちはアリル」
俺は手を差し出す。
「ありがとうございます。ハイネさん」
エルバは笑顔で握手に応えてくれた。
栗色の髪と顔のそばかすが特徴の気の良さそうな青年だった。
「それじゃあ、早速出発させます。もうすぐ日も暮れるので」
「助かるよ、エルバ」
「いえ、これも何かの縁です。それに、こんなところで野宿なんて危険ですからね」
「そう言えば、あんたはどうしてこんなところにいたんだ?」
俺は素朴な疑問をぶつけてみた。
「はい、実はこの辺りで、盗賊団が出るという噂を聞きまして……」
「なるほど、それで偵察に来たわけか」
どうやら、この辺には盗賊がいるらしい。
しかし、なんとも間抜けな話である。
そんなことをしている暇があったら、騎士団に通報すれば良いものを……。
俺がそんなことを考えていると、 ガタン!
突然、馬車が大きく揺れた。
見ると、エルバが顔を真っ青にして汗を流していた。
「おい、どうした!」
「す、すみません。馬が怯えてしまったようで……」
「なんだと!?」
「どうやら、この先の森に盗賊がいるみたいです。しかも、かなり大勢いるようです……」
「どうやら私達の馬車を待ち伏せしてるみたいね」
アリルが冷静に分析する。
「くそ! このままじゃ……」
俺は焦りを覚えた。
せっかく、馬車を見つけたのにここで捕まっては意味がない。
その時だった。
ズシン……
地響きのような音が聞こえてきた。
その直後。
ドゴオオオン!! 目の前の森が爆発した。
まるで火山の噴火のように、地面が裂け、木々が燃え上がる。