12話 森の巨城
「どうしてこんなところに城が?」
「分からないわよ。でも、何か変な感じがするのよね。まるで誰かに操られているような…………」
「どういう意味だ?」
「私にも分からないわよ。ただ、この森に飛ばされてから、私の中の精霊力が急に落ちていくの。それが気になって仕方がないのよ」
アリルは真剣な表情で言う。
確かに、さっきと比べてアリルが魔力が急に大人しくなったな。
それに、妙な違和感がある。
「とにかく、まずはここを出るぞ。ここにいてもしょうがないしな」
「分かったわ。早く行きましょう」
俺はアリルと一緒に歩き出した。
「にしても、なんでこんな場所に転移させられたのかしら?」
「さあな。少なくとも、俺が知っている物語とかだと、こういう展開はよくあるけどな」
「それってどんな話よ?気になるじゃない」
「ああ、それはな――」
「おい、そこで何をしている!」
俺たちがそんな他愛もない会話をしていると、突然背後から怒声が飛んできた。
振り返ると、そこには鎧を着た騎士が立っていた。
「な、何なのよ、あなた!」
「そっちこそ、ここで何をしている!」
「えっと…………」
アリルは言葉に詰まる。
どうやら彼女もこの騎士が何者なのか知らないようだ。
「ここは立ち入り禁止だぞ」
「そ、そうなの? それより、あなたたちこそ何よ!」
「私はこの城の警備を任されているものだ」
「お城に? じゃあ、私たちを捕まえに来たの!?」
「お、お前達は……?いや、違うのだ。お前達を城に案内しに来た。城の主がお前達を待っているんだ」
騎士は俺とアリルにそう言った。
「城の主ですって?」
「そうだ。詳しくは着いてから説明しよう。ついて来てくれ」
「ちょっと待ってくれ。その前に一つ聞きたいことがある」
俺は騎士を呼び止めた。
「何だ?」
「この森に飛ばされたのは、お前の仕業か?」
「…………違う、城の主だ」
騎士は背中を向けながら答えた。
「そうか。ならいい」
「では、行くぞ」
「ああ」
俺は騎士の後について行った。
「ねえ、今のってどういうこと?」
アリルが小声で聞いてくる。
「いや、何でもない。気にするな」
「…………怪しいわ、もしかしてあの男、罠を仕掛けてるんじゃ…………」
「んなことあるわけねーだろ。だいたい、あいつに敵意はなかったし」
「それは分かってるわよ。でも、用心しておいて損はないわ」
「ああ、そうだな」
「まあ、もしものことがあれば、私が守ってあげるから安心なさい」
アリルは自信満々に言う。まあ、確かに彼女の実力を考えれば心配する必要もないだろう。
俺たちは森の中を進んでいく。
やがて、さっきも見た巨大な城についた。
「こっちだ」
騎士は俺とアリルを連れて城内に入っていく。
「ほぉ~、なかなか広いな」
中に入ると、天井は高く、壁には絵画や壺などが飾られている。
床は大理石で出来ており、汚れ一つない。
「それにしても、森の中にこんな立派な城があるとはな」
俺は城内を眺めながら呟く。
すると、隣にいたアリルが苦笑を浮かべていた。
「本当にバカ丸出しね。少しは緊張感を持ちなさいよ」
「うるせぇな、別にいいだろうが」
「全くもう…………」
アリルは呆れたようにため息をつく。
「おい、着いたぞ」
俺たちがしばらく歩いて行くと、大きな扉の前に着いた。
「この奥だ。くれぐれも粗相のないようにな」
騎士が俺たちに忠告する。
「言われなくても分かっているわよ」
アリルが騎士に向かって言い返す。
「よし、入れ」
騎士が合図すると、ゆっくりと扉が開かれた。
「さあ、中へ」
「…………ああ」
俺は騎士に促され、部屋に入る。
部屋の中は真っ赤な絨毯が敷かれており、その先には豪華な玉座があった。
そして、そこに一人の男が腰掛けている。
「ようこそ我が城へ。歓迎するよ、ウンディーネ」
銀髪の髪をしたその男は、アリルの正体をあっさりと見抜いた。