1話 始まりは酒場から
俺の名前はハイネ。
年齢は21歳、この世界にはよくいる底辺冒険者だ。
突然だが今の俺は大ピンチなのである。
今は手持ちのお金も底をつき、飯にもありつけず既に二日はまともに食べていない有様だ。
「ちょっと!いくら精霊の私でも……いい加減お腹が減って倒れそうよ!早く何とかしなさいよ!」
俺の体を揺さぶりながら甲高い声で抗議するこの女はアリル。
腰辺りまで伸びた綺麗な青い髪に青い眼。
十人いたら十人とも振り返るような綺麗な容姿。
見た目の年齢は16歳くらいだ。
事情があって一緒に行動しているが、美人な見た目に反してうるさいやつだ。
アリルは長い青髪を揺らしながら涙目で訴えてくる。
「いやぁ~もう限界ですぅ~」
そしてその隣にいる金髪ショートの背の低い少女がへたり込みながら情けない声を出している。
名前はマナ。
先ほどまで泣きべそかいていたせいか目が真っ赤になっている。
「あーわかったから騒ぐな、騒ぐと余計金がかかる」
「それなら早くなんとかしてよね!!」
「もう分かったよ、何とかすっから!!」
俺は思わず怒鳴ってしまった。
すると二人はビクッとして静まり返った。
(くそ、なんでこんなことになったんだ)
すると、場にいた一人の男に声をかけられた。
「よう兄ちゃん、こっち来て一杯飲まねぇか?俺のおごりだぜ?」
男はニヤリと笑いながら話しかけてきた。
「あんた誰だよ?」
「誰でもいいだろう?それよりどうよ、一杯奢るぜ?」
「…………悪いけど他を当たってくれないか?」
「おいおい冷てえこと言わないでくれよ、一杯だけだって言ってるだろ?」
「しつこいぞおっさん」
「んだとぉ!?人が下手に出てやってれば調子に乗りやがって!!」
「はぁ~、仕方ないな。分かったよ、一杯だけ付き合ってやるよ」
「おうよ、話が分かるねぃ兄ちゃん。ついてきな」
そう言うと男はカウンターの奥へと入っていった。
「ちょ、ちょっと待ってください!私達も行きますから」
慌ててマナが後を追いかけていく。
「ちょっと、どこ行くつもりよ!置いてかないでよね!」
「あの人についていくみたいですね、何があるんでしょうか?」
「知らねーよ、まあ、行ってみよーぜ?」
「ちょっと、引っ張らないでよ!」
「痛いですよ~!」
こうして俺は二人を連れて酒場の中へと入ったのだった。
酒場に入ると奥には小さな個室があり、俺たちはその部屋へと案内された。
「ちょ、ちょっと!何なのよこの部屋!?」
アリルが青い眼を見開きながら驚いた。それもそのはずで、そこには今まで見たこともないような豪華な調度品が並べられていたからだ。
「ほらよ、座れよ」
「ああ、ありがとう」
俺は勧められるがまま席に着き、出された飲み物を口にした。
「それで、話ってのは何だ?」
すると俺に向かって男は嫌らしく微笑んだ。
「話の前に自己紹介させてもらおうかな。俺の名前はカシュナ・シプトン。冒険者ギルドで『盗賊』をやっているものだ」
カシュナは40歳くらいの男で、盗賊らしく顔に傷が入っており、背もかなり高くガタイもいい。
「盗賊が俺達に何の用だよ」
「いやなに、実はある依頼が厳しくてな、そこで君たちに頼もうと思ったというわけだ」
「分かった、話を聞くよ」
「ああ、まずはこれを見てみてくれ」
そう言いながら男が取り出した一枚の依頼書。
そこに書かれていた文字を見た瞬間、俺は思わず目を疑った。
なぜならその依頼はSSSランクの依頼だったからだ。
「カシュナかなんだか知らないけど、そんな依頼受けられないわ。ハイネ、マナ、帰りましょ」
アリルが立ち上がり帰ろうとする。
「お、おい、アリル」
「いやよ、私は絶対にやらないからね」
「私もちょっとやめておきます」
二人が揃って反対する。
「おいおい、何もそこまで拒否しなくてもいいだろう?報酬は弾むぜ、可愛い嬢ちゃん達♪」
カシュナはアリルとマナに顔を近づけた。
「ギルドの依頼に命かけてられないわよ、この変態!」
「そ、そうです、大体私達にできるわけありません!」
「誰が変態だこのクソガキ共!ぶっ殺すぞ!」
「ひいっ!!」
あまりの迫力にマナは身をすくめる。
「まあまあ、落ち着けよおっさん」
俺はヘラヘラした笑いを浮かべながらカシュナを宥める。
「そうよ、せっかく目の前に私みたいな美人がいるのにその態度はないでしょ」
「うるせえ!誰がガキの顔なんざ見るか!」
「誰が子供よ!見る目ないおっさんね!」
「なんだと、てめぇ!」
アリルとカシュナは、火花を散らしながら睨み合う。
その瞬間、マナが様子が変わった。
「うっ…………うぅっ……」
突然苦しみ始めた、マナは短い髪を揺らしながらその場にうずくまる。
「どうしたのよ?マナ!」
「おい、大丈夫か?」
「あ、頭が痛い。気持ち悪いです……」
マナは苦しそうに頭を押さえている。
「さっきの酒か?」
「それしかないわ」
「でもこんなに急に酔うか?」
「分かりません。こんなこと初めてです……」
「まさかあいつに盛られたか?」
俺はカシュナの方を見ながら言った。
「可能性はあるわね」
「ど、どうすればいいですか?」
「とりあえず近くの医者を呼ぶしかないな」
「なら、私が呼んでくるわ」
「させねぇよ?……うがあああああああ!」
カシュナは突然狂人のような咆哮を上げアリルの前に立ち塞がる。