「いや、美●と野獣かよ!」
エリザベスがあまりの眩さにつぶっていた目を開くと、そこには一人の男性がいた。
男性は、王城の玄関ホールに飾られていた王太子の肖像画そっくりであった。
「ベティ!ついに、僕たち両想いになったんだね!」
男性はエリザベスに抱き着く。エリザベスは、手鏡の無機質な冷たさとは違う暖かさや頬をくすぐる髪の柔らかさを感じつつも、声色に魔法の鏡の面影を感じる。
「あら?両想い?」
はたり、と、エリザベスは気が付く。両想いとはなんだ。と、エリザベスは考える。
「ぎ、義理の息子にそんな感情持つわけないじゃない!」
エリザベスは、思わず声をあげる。
「義理の息子…?」
「って誰…?」
王太子どころか白雪姫もぽかんとエリザベスを見る。
「え、ええ?この方は、白雪姫のお兄さんよね…?」
「うん」
「じゃあ、私の義理の息子よね…?」
「うん?ベティ、その人、夫だよ」
「ええええええええええええ!!!!どういうこと!?」
エリザベスは、思わず声を上げる。
「むしろ、僕がどういうこと!?だよ!」
「だって、貴方、白雪姫の世界に転生したって言ったじゃない」
「言ったね。元々の身体の持ち主のエリザベス…旧エリザベスがそういえば伝わるっていったからね」
「読み聞かせもしてくれたわよね!?」
「うん、我が国に伝わる白雪姫の伝説をね」
「伝説…?ってことは過去の話なの!?」
「そうだよ?」
「…旧エリザベス…旧エリザベスはどこに行ったの?」
「君のいた世界だと思うよ」
うえええええ…と奇妙な声をあげながら、エリザベスは崩れ落ちる。
「なんでぇ…?」
「あの…もしかして、伝説の時代に転生したと思ったの?で、旧エリザベスからは何も聞いてなかったのかい?」
「そうよぉ…」
「ご、ごめんよ。ベティ!僕もあの頃は呪いが強くて聞かれたことにしか答えられなかったんだ…!」
「呪いぃ…?」
「そうだね。どこから話そうかな…?白雪姫の伝説は知っているんだよね?」
「内容は…」
「うん、わかった。ここは、白雪姫の伝説から数百年後経っているよ。我が王家は、伝説の白雪姫は僕たちの祖先なんだ。」
「ということは、伝説の白雪姫が生まれた国ではなくて、伝説に出てきた王子の国ってこと?」
「うん、正解。でね、白雪姫の継母にあたるお妃さまは…」
「うちの国の祖先です…」
西の国の王子が恥ずかしそうに答える。鏡に白雪姫が森の中で過ごした小屋が西の森にあると答えていたことが頭をよぎる。確かに、そう考えると鏡の回答に矛盾はない。
「そんな…」
「伝説のお妃さまはね、白雪姫を連れ帰った王子に怒って呪いをかけたんだ。その国の王子の結婚が決まると鏡に姿を変えてしまう呪いをね…。呪いを解く方法は一つだけ、王子と結婚する相手が真実の愛を見つけること」
「いや、美●と野獣かよ!」
思わず、エリザベスがツッコミを入れる。
「美女…?それでね、我々も何も対策をしてこなかったわけではなく、対抗手段として魔法使いが解呪を手助けしてくれる魔法をかけてくれたんだ。王子が鏡に変えられてしまった際に、3つだけなんでも願いを叶えてくれるように」
「いや、眠れる森の●女とアラ●ンと魔法のランプかよ!」
エリザベスは、またもやツッコミを入れる。あともはや、魔法の鏡ではなく呪いの鏡じゃんとも思った。
「ただね…この話は、王家と一部の者しか知らなくてね…公には、王家は魔法の鏡を持っているとしか伝えられていないんだ。旧エリザベスにも婚約の儀の直前の馬車の中で伝えたんだ…」
「儂らは、7人の小人が祖先だから知っておったぞい!」
エリザベスのツッコミをスルーして、王太子が話を続ける。小さなおじさん達は、少し誇らしそうだ。
「旧エリザベスはね、国随一の魔道具師だったんだ。魔法の鏡の構造にすごく興味を持っていてね…まあ、平たく言うと…魔法の鏡目的で僕との婚約までこぎ着けたんだよ。すごい、タフ、だよね…」
王太子が遠くを死んだ目で見つめる。
「呪いのことを伝えるとね。『全然ロジカルじゃなくてときめかない!』『真実の愛!?無理無理無理無理!魔道具以外愛せない!』って言いだしてしまってね。馬車の中がお通夜だったよ…。暫くの沈黙のあと旧エリザベスが『そうだ、3つの願い事をつかって、変わってもらおう!』って」
エリザベスは絶句である。こめかみを抑えながら聞いた話の要約は以下のとおりである。
①ここより文明の進んだところ(※)で、エリザベスのような立場になりたいと願っている人を探し鏡に映し出す
※旧エリザベスの希望
②該当者とエリザベスを入れ替える
③該当者に今の状況やこの世界のことをインプットする
以上の様に、願い事を使い、該当者と王太子で真実の愛を見つけ、呪いを解く。
という作戦だったらしいが③の願い事が叶えられていなかったようだ。慌てた旧エリザベスが私の隣に映っていた絵本を読んでいる親子を見かけて、白雪姫の伝説が向こうの世界にもある!と思い、白雪姫の世界であることを伝えるように鏡になった王太子に言づけていたらしい。
エリザベスが考えるに①が長すぎて願い事が2つに分割されたのであろう。ここより文明の進んだところとエリザベスのような立場になりたいと願っている人で条件が2つあるのだから。技術者である旧エリザベスらしい希望だが、せめて、1つ目の条件が無かったら、エリザベスまできちんと情報が落ちてきていたかもしれないと考えると、怒りを通り越してあきれてくる。
「そんな作戦は受け入れられない!と思ったんだけど呪いの力が強く、当時の僕は質問に答えることしかできなくてね。抵抗もできずに君がやってきたんだ」
「そんな話ある…?白雪姫の世界、婚姻、本物の白雪姫とから推測して、王さまに嫁いだと…ん?本物の白雪姫?」
「あの~…超言いづらいんだけど、ベティってのと一緒で、白雪姫はあだ名ってという感じでぇ…」
「なる…ほど…」
白雪姫の言葉を聞いてエリザベスは思い出す。スノウホワイト・プリンセス・トトセル。白雪姫の本名だ。