「王子!白雪姫に目覚めのキッスを!」「キッスを!」
次の日、作戦決行の日である。エリザベスは白雪姫のアップルパイに一服盛った。ダイニングにいる使用人は全員下がらせた。準備は万端である。
「白雪姫?アップルパイはおいしいかしら?」
「どちゃくそ、おいしい!えぐいわ~」
「それはよかったわ」
エリザベスはオムレツを切り分け、優雅に口に運ぶ。すると次の瞬間ドターン!と大きな音がして、白雪姫が倒れた。
「リョーシ」
「は!」
リョーシが自慢の上腕二頭筋と三角筋に白雪姫を乗せ、俊敏な動きで出ていく。
リョーシと白雪姫を見送ったエリザベスは、事の顛末を見に行こうとエリザベスは馬車に乗り込む。
「リョーシが白雪姫を西の森に連れてって、私が一服盛ったアップルパイで殺した白雪姫を見つけた王子が一目惚れ…ん?リョーシ、森、りんご、殺害、白雪姫、王子…?………あ…」
西の森へ向かう馬車に揺られながら、エリザベスはやっと気づいた。童話通りに話が進んでいることに。
「う、う、うそ…!?え、あ…!鏡よ鏡よ鏡さん!世界で一番美しいのは誰!!!?」
エリザベスは慌てて手鏡を取り出し、フラグを確認する。
『ベティどうしたんだい?1日にこの質問を2回するだなんて。世界で一番美しいのは、もちろんベティだよ!』
「そ、そう…よかった…」
とりあえず、フラグは立ってないようでエリザベスは安心するが不安がぬぐい切れない。
『ベティ大丈夫?とても顔色が悪いよ?』
「…そう、ね…」
エリザベスが手鏡を覗きむと、青白い顔をした自分がいた。
「うそでしょぉぉ。あんだけフラグ回避しようと頑張ったのにいい!!なああんで、自分でフラグ立ててるのよぉぉ!私、馬鹿なの!?」
エリザベスは、馬車を運転してる御者がぎょっとするほどの大声で嘆く。なんなら少し泣いている。
『ベティ!?どうしたの?そんな声を荒げるなんて』
「あんたしかいないんだからいいでしょー!」
『し、信頼してくれてありがとう…?』
べそべそと泣き言を言っていると、手鏡が優しく声をかける。
『ベティ泣いているの?なにか、不安なことがあるのかい?』
「…私、世界で一番美しい?」
『もちろん!僕にとって世界で一番美しいのはベティだよ!』
「ありがとう…」
手鏡のこの言葉だけが、今のエリザベスの支えだ。
『ねぇ、ベティ、ベティに何かあったら僕が守るよ!』
「ふふ…ありがとう、頼りにしてるわ」
確かに手鏡には、国の重要な決定事を決めるとき幾度となく頼り励まされてきた。もはや、相棒やパートナーと言っても過言ではない存在だ。なんてったって魔法の鏡、チートアイテムだし!とエリザベスは思い直し、気持ちを立て直す。
そうこうしているうちに、馬車が西の森に到着した。エリザベスは、白雪姫の状態を確認しようとリョーシが遺体を置いた場所の近くの茂みに身を隠す。
遺体が置いてある場所には、7人の大臣達が集まり、白雪姫を取り囲み涙を流し嘆き悲しんでいた。
「なんど確認しても脈がない!」
「体も氷の様に冷たい!」
「おーいおいおいおい!」
「姫さまが亡くなってしまった!」
「なんともお労しい!」
「目を開けておくれ!」
「うわ~~~ん!」
そこに大臣達と一緒にゴルフをしていた、西の国の王子がやってきた。
「いったいどうしたのです?」
「王子!」
「我が国の白雪姫が死んでしまったのです!」
「ええ!なんだって!?」
「まるで伝説のように!」
「ん?伝説…?」
「そうだ伝説だ!」
「白雪姫、伝説。ああ、あの有名な…」
「王子!白雪姫に目覚めのキッスを!」
「キッスを!」
エリザベスは、その様子を見ながら大臣ナイスアシスト!という気持ちと、童話のあとの展開への不安が同時に押し寄せてきて何とも言えない気持ちになる。
一方、王子は、エリザベスの国に伝わっている白雪姫の話は知っているが、ここで婚約者でも何でもない一国の姫にキスなどをしてしまうと国際問題になりかねないと緊張が走る。それと同時に、ここでキスをしなかった場合、見殺しにしたと言われこちらも国際問題になりかねないという考えも頭を過る。
ちらり、と、王子は白雪姫を見やる。雪の様に色白で、血の様に赤い頬、黒檀のように黒い髪は。ぶっちゃけ、王子のドストライクである。
王子は、腹を括った。キスをして万が一目覚めたときは、自身の妃に迎えよう、と。
王子はそおっと、白雪姫に優しくキスをした。