「H●y,Siri!やOK,Go●gle!、ア●クサ!的なね…やっぱり、AIスピーカーなのかしら…」『言っていることがよくわかりません』
大変申し訳ございません。1話目についてラストと矛盾するところがありましたので、修正しております。
馬車が止まり、扉が開かれた。御者であろう人が手を差し出す。その手を取り、女性は恐る恐る馬車を下りた。
「エリザベス令嬢のおなーりーー!」
「私、エリザベスって言うのね」
ぼそりとつぶやくエリザベス。鏡に自分のプロフィールぐらい聞いておくべきだったと後悔する。
御者に先導され、王城へ入っていく。
「よく来たな、エリザベスよ」
玉座に座っているのでこの人が王だろう。エリザベス自身は全く覚えていないが、身体が覚えているのか淑女の礼をとる。
「お初にお目にかかります。エリザベスです」
挨拶をし、エリザベスは顔をあげる。王の顔を見てエリザベスは目をひん剥いた。
王は、老公であったのだ。見た目から推測するに、70代ぐらいだろう。
エリザベスは、自分は先ほど手鏡に写った自分の姿を思い出す。パッ見10代後半、若く見えたとしても20代半ばだった。
「それから、この子がスノウホワイト・プリンセス・トトセルじゃ。城の者は白雪姫と呼んでおる」
「白雪姫です…」
ぽよんとしたお腹をさすりながら王さまが小学生低学年ぐらいの幼女を紹介した。
幼女はもじもじとしながらも挨拶をしてくれた。かわいい…とエリザベスは内心思いつつも、王さま元気だなぁと『人生100年時代!シニアも元気にこれ一本!』と書かれていた転生前によく乗っていた電車にあった釣り広告を思い出す。
そして、『雪の様に色白で、血の様に頬が赤く、黒檀のように髪が黒い』容姿の白雪姫を見て、本当に白雪姫の世界なのだなぁとしみじみ思った。
「では、さっそくだが、結婚式を執り行うとしよう」
「………はい…」
返事をだいぶ渋ったが、断ることもできないこの状況。エリザベスは断腸の思いで返事をする。
さすがに、出会ったばかりの確実に自分よりも50は年上であろう男性との結婚を二つ返事で了承することはできない。
しかし、「無理です」なんて口が裂けても言えない。だって、長いものに巻かれ続けてウン十年生きてきた日本人だもの。
何か妙案はないかと、エリザベスがうだうだと考えているうちに、王城の侍女にひん剥かれて湯あみをさせられきれいなドレスに着替えさせられ、どんどんと装いが華美になっていく。
ちなみに手鏡は預かりますといって侍女に取られた。
そのあとは、王城内の礼拝所にて、婚礼の儀を行う。なぜか婚礼の儀は王さまは行わず、エリザベスだけで行うらしい。
儀式は簡単だ。手鏡を天に掲げたあと神父の「いかなる困難が訪れた際も国母として国を守り民を慈しむと誓いますか?」という問いに「はい、誓います」と答えるだけだ。エリザベスは自分が知っている結婚式とはだいぶ違うなぁと思いつつも、異世界だしなと思いなおす。
つつがなく婚礼の儀は終え、エリザベスは今日からの自室だという所に通される。
アンティークな調度品が品よく並べられた部屋にエリザベスは感動しつつも、天蓋付きのベッドに驚愕する。
ベッドの上に乗ってみた。サイズはキングサイズだろうか、日本にいたころに使っていたこじんまりとしたシングルベッドを思い出して「わからん…」と思い直す。そんなことよりも、今日、もしかしたらここで、王と一夜を過ごす可能性を考えエリザベスうろたえる。
「そうだ、鏡に相談しましょう!」
自分にだけ許されているチートアイテム。魔法の鏡。
これに縋るしかないと、エリザベスはいそいそと手鏡を取り出す。
「ねぇねぇ」
『…』
「あの~、鏡さん?」
『…』
へんじがないただのしかばねのようだ
某ゲームのお約束のメッセージがエリザベスの頭の中を流れる。
「噓でしょ!?鏡さん!鏡さーん!」
エリザベスは、慌てたように手鏡を逆さにしたり降ったりする。
そんなことを続けて1時間。童話の内容を思い出し、エリザベスはある解にたどり着く。
「鏡よ鏡よ鏡さん…?」
『お呼びですか?』
「シャベッタアアアア!」
鏡を使うには、お約束の言葉が必要だったのだ。
「H●y,Siri!やOK,Go●gle!、ア●クサ!的なね…やっぱり、AIスピーカーなのかしら…」
『言っていることがよくわかりません』
「そういうところよ…!」
エリザベスはげっそりしながら、まずは、と思い鏡について質問をしていく。
「鏡さん?あなたに話かけるには、『鏡よ鏡よ鏡さん』とお声掛けしたらいいのかしら?」
『はい、そうです。通信が切れるまでは、なくても結構ですが。通信が切れたら必要です』
「通信って…本当にAIスピーカーみたいね…」
『言っていることがよくわかりません』
「くぅ…!通信はどのくらいもつのかしら」
『最後に会話をしてから3分です。設定を変更しますか?』
「あ、はい…」
『分単位で設定いただけます』
「…じゃあ…10分で」
『設定いたしました』
「えーと、じゃあ次、あなたはどんな質問に答えることができるのかしら…?」
『得意なのは、この国の歴史、この国法律、この国のマナー、この国の財務状況、この国の環境、この国の農林水産の状況、この国の防衛に関すること、帝王学です』
「そ、そう…ずいぶん知識が偏っているのね…。今ってことは、いずれ答えることができることができるようになるのかしら?」
『いずれは、雑談もできるようになります』
「学習したら、回答に柔軟性がでるってことかしら。本当にAIみたいね…」
エリザベスはもう少し質問をしたかったが、馬車での移動に婚礼の儀で疲れていた身体はベッドの誘惑に堪え切れず瞼を閉じ、夢の世界へと旅立った。