「輿入れしなくてもいい方法はあったりなんてしない?」『ありません』
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
電車にゆられる妙齢の女性が一人いた。女性はスマートフォンを片手に小説を読みふけっていた。隣には親子が座っており、白雪姫の絵本を読んでいた。
「異世界転生ねぇ…ありえないけどありえたら最高ね!綺麗な容姿にチート能力で無双して、王子と結婚なんかしたり…!」
『そう?だったら、ぜひ、変わってちょうだい!』
「え…?」
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
馬車にゆられる妙齢の女性が一人いた。女性はわなわなと震えている。
「ここは、どこ…?」
不安を隠しきれない様子の女性は、自分一人しかいない馬車の中でつぶやく。
もちろん、自分しかいないのだから返事はない。女性も返事は期待していない。
『ここは、馬車の中です』
はずだった。
「そんなことは、わかっているのよ!なんで私がこんな西洋風の馬車の中にいるの!?」
女性は混乱しているのか、自分しかいない空間で帰ってきた返事に物申すことなく、質問を続ける。
『童話、白雪姫の世界に転生したからです』
「し、白雪姫…?」
『白雪姫とは、
とある国の王さまとお妃さまの間に、雪の様に色白で、血の様に頬が赤く、黒檀のように髪が黒い、それはそれはかわいい姫、「白雪姫」が誕生しました。
しかし、幸せな生活は長くは続かなく、お妃さまは病気で亡くなり、新しいお妃さまがやってきました。新しいお妃さまは、とても美しいくそのことがとても自慢でした。お妃さまは魔法の鏡に「鏡よ鏡よ鏡さん、世界で一番美しいのは誰?」と問い、「世界中で一番美しいのは『お妃さま』です」と答えを聞いては喜んでいました。
ところが、白雪姫が美しく成長すると、魔法の鏡は「世界中で一番美しいのは『白雪姫』です」と答えるようになりました。その答えを聞き。怒ったお妃さまは白雪姫を殺すように猟師に言いました。しかし、白雪姫を不憫に思った猟師は命令に背き、白雪姫をこっそり森の奥に逃しました。白雪姫はそこで7人の小人の家を見つけ、居候させてもらうことになりました。
魔法の鏡によって、白雪姫がまだ生きていることを知ったお妃さま。毒りんごを作って、自ら森へ行き、白雪姫に毒りんごを食べさせました。
仕事から帰ってきたた小人たちは、白雪姫の死体を発見し、嘆き悲しみました。するとそこへ、王子さまがやってきました。眠る様に横たわっている美しい白雪姫に一目惚れをした王子さまは、白雪姫に優しくキスをして、白雪姫を深い眠りから無事に目覚めさせました。
その後、王子さまは白雪姫を自分の国へ連れていき、いつまでも幸せにすごしましたとさ。
めでたし、めでたし。
という話です』
「知ってるわ!たぶん、世界で一番有名な童話よ!……って、え、誰!?」
白雪姫の読み聞かせを聞いているうちに冷静さを取り戻した女性は、自分以外いないはずの空間で返事が返ってくることに驚く。
『私は、鏡です』
声の主は、女性の手元にあった手鏡だった。ぎょっとした女性はある解にたどり着く。
答えを確かめるため、恐る恐る女性は鏡に問う。
「も、もしかして、魔法の鏡だったりする…?」
『はい、私が魔法の鏡です』
「ジーザス!」
予想通りの答えに女性は打ちのめされる。
白雪姫の世界で魔法の鏡を持った女性=白雪姫を毒りんごで殺害したお妃さま
この図式が、成り立ってしまった。
いや、まだ諦めるには早いと思い、とりあえず、鏡を通して情報を収集しようと思いなおした女性は、一番直近で知っておきたいこの馬車の行き先を鏡に尋ねた。
「この馬車はどこに行っているの?」
『王城です』
「それは、なぜかしら?」
『アナタが、輿入れをするからです』
やはりなな回答に、女性はがっくりする。
「輿入れしなくてもいい方法はあったりなんてしない?」
『ありません』
「うそでしょぉぉ…」
今後の行く末を考え頭を抱えるが、そんなことには構うもんかと馬車はガタンゴトンとリズミカルに揺れるのであった。
次話は本日21時過ぎに公開します!
2021/7/6追記
大変申し訳ございません。
オチと矛盾する点がありましたので、大きく話の内容を修正させていただきました