受け入れる覚悟
「その女はな、人里一つ壊滅させたんだ」
「そんな……」
「里の女、子供だろうと容赦なく皆殺しにしたんだよ。そこで俺らが手を貸して、陰陽師の目から逃れるよう助けたってわけさ。分かるか? その女は人間で言うところの、大罪人ってわけだ」
龍二もさすがに絶句する。
蛇魂の表情は愉悦に歪んでいるが、嘘を言っているような雰囲気ではない。
後ろでは麗羅の嗚咽が聞こえ、残酷な現実を突き付けられる。
しかし龍二は瞳に強い意志を宿し、蛇魂を見据える。
「それでも、俺は――っ!?」
突然言葉が詰まる。
同時に胸が痛みを訴え息苦しくなる。
呪いにかけられたのだ。
(くっ、そぉ)
蛇魂を見ると、楽しそうに頬を歪ませている。
彼の狙いは――
「――うわぁぁぁぁぁ!」
突然、麗羅が叫び、龍二の横を駆けて蛇魂へ斬りかかった。
顔が歪み、呪いの苦痛に耐えていることが分かる。
そしてなにより、溢れ出ている涙が痛々しかった。
刀にはもう水も纏えておらず、彼女はただがむしゃらに刃を振るう。
「愚かな女だ。自分のしたことも忘れて、それを隠し、受け入れてもらおうなど」
「っ!」
バックステップで避けた蛇魂が右の袖を突き出し、蛇が一斉に飛び出す。
麗羅はそれをさばききれず、無数の蛇がその細い首に巻き付いた。
「ぐぅっ……」
ギリギリと締め付けられ、苦悶の表情を浮かべる麗羅。
そんな彼女の顔を見て嬉しそうに頬を緩める蛇魂。
呪いと締め付けによって、絶体絶命の麗羅は涙を溢れさせ、ゆっくり目を閉じ脱力した。
その命、尽きる間際、低く優しげな声が響く。
「――お前のことはよく分かった。だから、もう泣くな」
彼らの後方で黒い妖気が発火。
次の瞬間、漆黒の炎が麗羅に巻き付く蛇たちと、蛇魂の肩に乗る白蛇の首を焼き斬っていた。
「な、なんだと!?」
蛇魂は驚愕に叫んで飛び退き、体を開放された麗羅が地面へ投げ出される。
彼女は激しく咳き込むと、困惑に顔をしかめ、顔を上げた。
横に立っていたのは、禍々しく強大な妖力の溢れ出した黒髪の龍二だった。
「……鬼屋敷くん、なの?」
「ああ。呪いは解けたか? 麗羅」
「へ? え、えぇ……」
龍二の雰囲気が突然変わり、名前で呼ばれたことに困惑したのか、麗羅は白黒させて口ごもる。
しかしその顔色を見るに、白蛇の呪いが解けたのは確からしい。
龍二は漆黒のマントをなびかせ麗羅の前に立つと、憎悪のこもった目でにらみつけてくる蛇魂を見据えた。
「過去のことなんて今はいい」
「で、でも……」
龍二はやれやれとため息を吐き、不安げに瞳を揺らす麗羅へ告げる。
「俺のものになれ、麗羅。お前がどんな過去を背負っていようと、俺が必ず守ってやるから」
「……は? はぁぁぁぁぁっ!? な、なななななにを言ってるの、鬼屋敷くん!?」
突然告げられたセリフに、麗羅は動転する。
顔を真っ赤にして唇をわなわなとさせながら目をグルグルと回していた。
すると、蛇魂がとうとうドスのきいた低い声を発す。
「貴様ぁっ、どうやって俺の呪縛から逃れた!?」
「呪いなんざ、俺の血で焼き消したさ。龍の血をなめるな」
「ちぃっ、そういうことか。だがなぜ、この期に及んでその女の味方をする!? そいつの本性はもう分かったはずだ!」
「分からないさ。本人の口から聞かないことにはな」
「は?」
「だが、一つだけ確かなことがある。麗羅はな、その過去をずっと悔いているんだ。自分の犯した罪を認め、それを償えないかと悩んでいる者を、悪しき妖だと断じるわけにはいかない」
「また知った風なことを!」
蛇魂が忌々しげに怒鳴るが、今回は違う。
以前彼女は龍二に悩みを打ち明けていたのだ。
『――私が妖だとして、やむを得ない事情で罪を犯して深く悔いていたとしても、それはどうやって償えばいいのかな? いつまでも消えない罪の意識を背負って、滅されるまで悪しき妖でいないといけないの?』
あのときの言葉は彼女の本心だ。
それは本人でなくとも、そうだと言い切れる。
だから、彼女が龍二のために百鬼夜行を離反して居場所を失ったのなら、彼女を受け入れる覚悟はできていた。
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