狡猾な蛇
――シャァァァッ!
「っ!?」
桃華の制服の内側から深緑の蛇が一匹飛び出し、口を大きく開けて龍二へ迫る。
「界っ!」
慌てて障壁を展開し、噛みつこうとしていた蛇はそれ以上進めない。
だがすぐに牙を透明な壁突き立てると、強引にひき裂いた。
「なに!?」
驚愕に思考が停止する。
よろずの会の頭首は伊達ではないということだ。
蛇はそのまま龍二へ迫るが、
「式装顕現『龍刀・雷斬』!」
稲妻纏う一閃で蛇の首を斬り飛ばす。
同時に飛び退き、怒りを込めた視線を蛇魂へ向けるが、彼は両手を突き出し袖の中から大量の蛇を解き放っていた。
前方広範囲に広がり飛び掛かって来る蛇の大軍。
障壁を張ったところでまたすぐに引き裂かれるだけだ。
「式術開放『無間乱層』!」
無数の稲妻が前方広範囲に放たれ、蛇たちを迎撃する。
しかしその数はあまりにも多く、攻撃の当たらなかった個体はまっすぐに龍二へ迫る。
「はぁっ!」
気迫のこもった掛け声とともに雷光一閃。
まとめて蛇たちの首を断つ。
しかしどれだけ倒しても、蛇魂の袖の内側からは次から次へと新たな蛇が顔を出す。
「ふはははははっ! バカな奴だ。お前の言い分など聞くわけないだろうが!」
「くっ、このぉぉぉっ!」
雷斬を大きく振るい、電撃を放って攻撃を防ぐが、らちが明かない。
ただひたすら体力と呪力を消耗していく。
そんな中、狡猾な蛇魂はほんの一部の蛇の進行を変えた。
蛇の牙は気を失っている桃華へ向く。
「くそっ! させるかぁっ!」
蛇を斬り伏せながら地を蹴り、桃華へ迫る蛇を叩き斬るが――
「ぐあぁっ!」
龍二の足首に激痛が走る。噛みついていたのは、一匹の白い蛇。
そこでようやく蛇魂の罠にはまったのだと気付く。
蛇たちの攻撃は止んだが、突然胸に鈍痛と息苦しさを覚え、龍二は膝を落とす。
刀を地面へ突き立て、なんとか体を支えるが、表情はかなり悪く額には汗が浮かんでいた。
白蛇の呪いにかかったのだ。
「くっ、よくも……」
「自業自得だ。自分の立場もわきまえず、交渉なんてしようとするから。呪いさえかけてしまえば、お前の意志なんてどうでもいいんだよ」
蛇魂は愉快そうに頬をつり上げ、歪んだ笑みを浮かべる。
龍二は怒りと悔しさに拳を握る。
しかし力は入らず、体も思うように動かない。
これではいざというときに背の黒災牙すら抜けそうにない。
龍二は顔を怒りに歪ませ蛇魂をにらむ。
「そうやって、貴船麗羅も陥れたのか」
「はぁ? えらくあの女のことを気にしているな? そういえば、さっきの条件にも出て来たが、なにか思うところでもあるのか?」
「ああ、彼女はお前の呪いのせいで苦しんでいるんだ。やりたくもない命令を受け、悪しき妖として生きていかないといけない。その罪の意識にいつだって悩んでるんだ!」
「知った風なことを。どこまでもおめでたい奴だな。もういい、さっさと終わりにしてやる」
蛇魂の肩に白蛇が上り、赤い舌をチロチロと出しながらこちらへ目を向けてくる。
すると、後ろで桃華が再び苦しみ始めた。
「なっ!? 彼女の呪いは解いたんじゃなかったのか!?」
「誰がそんなことを言った? 一時的に呪いの苦しみを和らげただけだ。だが今となっては、その女はもういらない。お前はもう俺に従うしかないんだからな」
龍二の顔から血の気が引き、絶望に染まる。
桃華は最初から始末するつもりだったのだ。
彼に呪いをかけてさえしまえば、彼女がいなくても逆らえなくなるから。
桃華の苦痛の声が大きくなり、いよいよ命が危ないと焦りがつのる。
「やめろぉっ! 桃華に手を出すな! 俺のことはどうしたっていい! なんでも言うことを聞く、だから!」
「俺に指図するとは、まだ立場が分からないのか? お前が死のうと、その血さえ手に入れば目的は達成される。そこに意志なんて関係ないんだよぉ!」
白蛇の目が妖しく光り、龍二にも呪いの苦痛が襲いかかる。
強い圧迫感によって、まともに息ができない。
このままでは、二人もろとも殺されて終わりだ。
「が、ぁ……くっ……そぉ……」
「クククククッ、あと少しだ。これでやっと、この苦しみから解放される」
蛇魂は片手で顔を覆い、邪悪な笑い声を上げて歓喜に震える。
だが下を向いていた彼は気付くのが遅れた。
頭上からの奇襲に。
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