麗羅の決意
「――遅かったな、麗羅」
「っ!?」
空から突然低い声が降ってきて、二人は弾かれたように顔を上げる。
すると、黒い翼を広げた鼻の長い妖が山門の前へ舞い降りた。
結衣袈裟を着て手には黒い羽扇を持ち、真っ赤な顔には神経質そうにしわを寄せている。
誰もが知る空想上の生き物『大天狗』だ。
背中には大きな貝を背負っており、その内側から漏れ出る妖気に警戒を禁じ得ない。
いつの間にか山門の屋根の上には、上半身裸で下に武者袴をはいた男が座っていた。
彼らは、威嚇するようにとつもなく強力な妖気を発している。
「その少年が龍血鬼か」
「ふんっ、青臭いガキじゃねぇか」
「どうしてあなたたちがここに……」
貴船は顔を強張らせて身構え、龍二は彼女の横に立って呪符を手に握った。
「貴船さん、こいつらは?」
「よろずの会の頭首補佐『火車』と参事の『大天狗』よ」
「なに、邪魔する気はない。少年、この奥で頭首様がお待ちだ、早く行け」
大天狗がそう言うと、閉じられていた山門が一人でに開いた。
彼の妖力が強まったことから、神通力のようなものを使ったのだろう。
龍二は警戒しながらも麗羅へ視線を送ると、彼女は険しい表情ながらゆっくりと頷いた。
「……行きましょう」
「ああ」
龍二は慎重に前へ進み、山門をくぐって寺の敷地へと足を踏み入れる。
その直後、山門は閉じられた。
龍二の後についていこうとしていた麗羅は、上空の大天狗をにらみつける。
「……どういうことですか?」
「お前が一緒に行く必要などないだろう」
「……そんなこと、あなたには関係ない」
麗羅は今、自分でもどうすればいいか分からなくなっていた。
ここへ来るまでの龍二の言葉に心を揺り動かされたのだ。
頭首の命令とはいえ、彼を巻き込んでしまったことに強い罪悪感が芽生え始めている。
そんな彼女に生じた迷いを、大天狗は見抜いていた。
「どちらにせよ、お前はダメだ。あの少年に情を移し過ぎた」
「そんなことは……」
「わしには分かるのだよ。お前を行かせれば必ず裏切る」
「っ!」
麗羅は飛び退いて大天狗から距離をとると、腰のポーチから形代と二枚の呪符を取り出した。
「式装顕現『降魔刀・漣』。金は水を生ず、金生水」
形代が白く輝き、それを横へ薙ぐと、白光の軌跡が刀へと変わっていた。
さらに刀身へ金術による強化を施し、清廉された水の刃を纏う。
鬼屋敷龍二は、自分たち半妖にとってなくてはならない存在。
それを認識したとき、麗羅の中で迷いは吹っ切れた。
たとえ自らが蛇魂の呪いに殺されようとも、龍二たちを死なすわけにはいかない。
「無駄なことを」
「そこを通しなさい!」
刀を振るい、鋭い水の斬撃を放つ。
大天狗は身動き一つとらず直撃するが、真っ二つになったと思った次の瞬間には煙のように消えていた。
「しまっ……」
麗羅はようやく気付く。自分が術中にはまっていたことに。
周囲に白い霧がたちこめていたのだ。
次第に視界が白一色になっていく。
「蜃……」
その名を呼ぶと、どこからか警戒な声が響いてきた。
「キヒヒヒッ! 裏切り者の始末なんて造作もない。じっくりいたぶって、なぶり殺してやるよ」
よろずの会の幹部上席『蜃』。
人や妖に幻覚を見せる、白い霧のような妖気を発する厄介な妖だ。
普段は大きな貝の内側に身を潜めており、狙った獲物はその妖気によって惑わし喰らう。
一度術中にはまってしまえば、そう簡単には抜け出せない。
そんな絶望的な状況でも、麗羅は瞳に闘志を宿し、刃を振るうのだった。
「私はもう、あなたたちの言いなりにはならない!」
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