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危機一髪

「野郎ぉぉぉっ!」


「ガウゥッ!」


 雷紋の右から紅蓮の一太刀が、左からは銀狼が迫っていた。

 

「あぁ?」


 しかし不意打ちであるにも関わらず、銀狼は雷紋の左手に首を掴まれ、修羅の焔刀は雷を纏った右手に掴まれ静止した。

 すぐに銀狼は横へ放り投げられ、修羅へ拳が迫るが彼は強引に太刀を振るって飛び退く。

 そして龍二を守るように前に立つと、走り寄って来た桃華もその横に並ぶ。


「龍二さん! ご無事ですか!?」


「あ、あぁ……」


「半妖がもう一体、それに……陰陽師か」


 雷紋は動じることなく険しい眼差しで彼らを見回す。

 すると、桃華が呪符を構えて叫んだ。


「あなた方は、一体なにをしているんですか!? 陰陽師が人を襲うなんて!」


「あ? なに寝ぼけたこと言ってんだ。そいつらは妖だろ。お前こそ、陰陽師のくせになんで妖の味方してんだよ」


「違います! 二人には妖の血も混じっていますが、人であり私の大切な仲間です。それに、彼らが妖の力を使おうと、人に危害を加えることは断じてありません!」


「ふんっ、滅してしまえば同じことだ」


 雷紋はつまらなさそうに吐き捨てると、右腕を引き雷光を収束させる。

 どうあっても止めるつもりはないらしい。

 修羅が激怒し叫んだ。


「野郎ぉ、ぶっ殺してやる!」


 全身から怒りと憎しみの混じった負のオーラを発し、宿怨大太刀の柄を握るが、


「ダメだ修羅!」


「なに? なんで止めるんだ!?」


「妖の力を人に向けたらダメだ!」


「……ちっ……」


 それこそ雷紋の思い通りになってしまう。悪しき妖を滅するという口実を与えてしまうことになる。

 だから龍二はずっと耐えていたのだ。

 それを悟った修羅は、悔しげに奥歯を噛み、なんとか踏み止まってくれる。

 代わりに桃華が前へ出た。


「これは明らかに陰陽庁の業務を(いっ)しています」


「あ? ガキが知った風な口を聞くなよ」


「いいえ、言わせてもらいます。これは無害な一般人への一方的な暴力。もしここで退かないのなら、私『嵐堂桃華』があなたたちを訴えます」


「……嵐堂? 銀次の娘か……ちっ」


 雷紋は彼女の名を聞いて一瞬目を丸くしたが、舌打ちして背を向けた。

 同時に纏っていた雷も呪力と共に消失する。

 なにも言わず歩き出す雷紋に、見守っていた陰陽師が慌てて声をかける。

 

「雷紋局長?」


(きょう)が削がれた。滅するのは次の機会にしてやる」


 そう吐き捨てると、ゆっくり歩き去って行く。

 やがて、陰陽師三人が路地裏からいなくなると、桃華はその場にへたりこんだ。


「よ、良かったぁ~」


「おい、さっきまでの威勢はどうした?」


 修羅が情けないとばかりにため息を吐いて言うと、桃華はムッとして言い返す。


「だってあの人、雷紋局長って呼ばれてたんですよ?」


「知ってんのか?」


「そりゃ知ってますよ。陰陽庁の技術局長『雷紋重吾』ですよ!?」


「……え?」


 その名を聞いて龍二は目を丸くする。

 技術局長というのもかなりのお偉いさんだが、それよりももっと重要なことが判明した。

 雷紋重吾と言えば、神将十二柱の一人だ。

 つまり、十二人といない国家最強クラスの陰陽師。

 そう考えると、あの圧倒的な呪力と自信にも納得がいく。


「危ないところでした……彼を訴えるなんて言っても、権力で揉み消されるだけですから」


「ふんっ、それならこっちは暴力だ」


 修羅は顔を憤怒に歪め拳を強く握るが、桃華は呆れたように首を横へ振った。


「まったく、なにを言ってるのやら……神将に勝てるわけないでしょう。そんなことより、龍二さん大丈夫ですか?」


「まぁ……なんとかな……」


 地面へ尻をついて苦笑する龍二に、桃華は木術の治療を始める。


「それにしても、なんで龍二さんが雷紋局長に攻撃されていたんですか?」


「俺にも分からない。ただあの人は、半妖に対してなにか思うところがあるみたいだ」


「どうせ大したことじゃねぇだろ。ああいう奴は理由もなく暴力を振るいたくなるんだよ」


「まるで、どこかの武戎くんみたいですね」


「てめぇ、喧嘩売ってんのか!?」


 二人がまた言い争いを始めて、緊張感に張り詰めていた空気も軽くなる。

 龍二は理不尽に襲いかかってきた雷紋への(いきどお)りはあったものの、彼の半妖に対する憎しみのような感情になにか引っかかりを覚えていた。

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