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蛇魂の目的

 真夜中の薄暗い室内でロウソクの火がゆらめく。

 今は朽ちた寺の本堂内に、強力な妖気が集まっていた。


「ぅぅぅ……ぐぁぁぁっ」


 焦げ茶色のローブを纏い、奥でうずくまってうめいている男。

 白い髪に青白い肌はもはや病的と言え、瞳は縦長に裂けた蛇のもの。

 フードの下に覗くこけた頬には、硬質な鱗が浮き出て肌は酷く荒れていた。


 彼の周囲に立って成り行きを見守っているのは、赤い顔に長い鼻で結袈裟(ゆいげさ)を着た『大天狗(だいてんぐ)』と、厳つい顔にごうごうと燃え盛る熱気を纏った上半身裸の男『火車(かしゃ)』。

 百鬼夜行・よろずの会の幹部たちだ。

 そしてローブの男の前にひざまづきこうべを垂れているのは――


「――麗羅っ! 龍の血はまだ手に入らないのかっ!?」


 火車が顔を憤怒に染め怒鳴りつける。

 逆立つ赤髪はメラメラと燃えていた。

 叩きつけられる覇気にしかし、麗羅は微動だにせずただ淡々と謝る。


「申し訳ありません」


 火車は舌打ちし、次に大天狗が厳かに問う。


「なんためにお前を送り込んだか、分かっているのか?」


「……はい。私が『半妖』だからです」


「そうだ。わしや火車が動けば、忌々しい陰陽師どもにけどられる。だから、半端者のお前を連れて来た。そうでなければ、邪魅と同じく捨て駒として残してきていたところだ」


「はい」


 特に幹部でもなく、ただ拾われただけの麗羅が連れて来られたのは、頭首の目的である龍の血を手に入れるためだ。

 そのためだけに生かされ、自由に動かせてもらっている。

 特に反省の色が見えない彼女に、頭首『蛇魂(じゃこん)』は地獄の底へ響くような低い声で怒気をぶつけた。


「……遅いぞ……いったいなにをもたついている……」


「まさかお前、龍血鬼にほだされているのではないだろうな?」


 大天狗の一言に、麗羅は少しだけ肩を揺らした。

 だが動揺を悟られまいと抑揚のない声で答える。


「いえ……もう、間もなくです」


「ならば早くしろっ! 早く……龍の血の持ち主をっ、俺の前に連れて来い!」


「はい、もちろんで……っ、ぅくっ」


 麗羅は突然息苦しさを覚え、冷や汗を浮かべながら胸を押さえる。

 うずくまる蛇魂の背から一匹の白い蛇が鎌首をもたげ、怪しく光る瞳を彼女へ向けていた。

 白蛇の呪い。

 それに噛まれた者は、呪いをかけられるのだ。

 そしてそれは、麗羅だけでなく百鬼夜行のメンバーすべてにかけられていた。

 ゆえに、誰も彼には逆らえない。


「――手こずっているようだな」


「……あんたか」


 突然低い女の声が聞こえたと同時に、苦しみが和らぎ麗羅は顔を上げた。

 いつの間にか、蛇魂の後ろに全身黒ずくめの鬼が立っていた。

 首元はスカーフで覆われているため、表情はよく見えないが、おそろしく整った顔立ちの女だ。

 美しすぎて恐怖すら覚える。

 彼女は百鬼夜行の頭首が相手だろうと、もの怖じせず堂々と告げた。


「せっかく素晴らしい情報を渡したんだ。このていたらくでは困るな。幹部と手下たちを捨ててまで、なにをしているのか」


 あまりにも失礼な物言いに、火車は激怒で顔を歪ませ、大天狗は眉間にしわを寄せて口を挟む。


「我らが頭首様に対し、言葉がすぎるぞ女」


「無能に無能と言ってなにが悪い」


「なんだと!? そもそもお前は信用ならんのだ! 我らに龍の血を狙わせて、いったいなにが目的だ!?」


「お前の知ったことではない」


「貴様ぁっ! もう我慢ならん! 火車! こやつを――っ!?」


 怒りで今にも飛びかかりそうだった大天狗だったが、突然言葉を詰まらせ、目を見開いて膝を着く。

 白蛇の呪いだ。


「うるさいぞ。この女の目的なんてどうでもいい。この苦しみから解放されるのなら、なんだっていいんだ。分かったら、さっさと行け!」


「はっ!」


 麗羅は返事をするとすぐさま町へと降りて行くのだった。

 大きな迷いを抱えたまま――


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