百鬼夜行の日常
「――おらぁぁぁっ!」
「甘いっ」
「ちぃっ!」
ある晴れた休日の昼、鬼屋敷本邸の中庭で修羅が嵐魔に剣の稽古をつけてもらっていた。
先日の事件以来、屋敷に転がり込んできた修羅はもうすっかり百鬼夜行の一員として馴染んでいる。
龍二も先ほどまでは嵐魔に稽古をつけてもらっていたが、今は交代して縁側で陽光に当たりながら休憩している。
その横には、遊びに来ていた桃華が座っていた。
「しかし剣の腕だけしか鍛えられないってのは、歯がゆいな」
「そうですねぇ。でも、龍二さんや嵐魔さんの妖気を出すわけにはいきませんし、仕方ありませんよ。それでまた陰陽庁から変な疑いをかけられても面倒ですし」
「まあな。でもこのままじゃ、龍の臣の幹部を連れ戻そうにも、力が全然足りない」
龍二は拳を握り、ため息を吐いて視線を落とす。
百鬼夜行を率いて親の仇を討つと決意したものの、特級位階である元幹部たちの圧倒的な力を従えるには到底およばない。
敵は皇鬼や月菜を葬るほどの相手なのだから、全盛期の龍の臣の戦力は必須なのだ。
浮かない表情で苦悩する龍二に、桃華は微笑みかける。
「今は陰陽術を極めましょっ?」
「そうだな、今はそれしかない。首なし鬼との戦いで妖力が暴走せずコントロールできたのは、陰陽術が上達してるからだって時雨先生も言ってしな」
龍二は深く頷いた。
彼にとっては、人として持つ呪力と妖として持つ妖力は表裏一体。だからこそ、同時に封印されていたのだ。
結局、どちらも力の制御のコツは同じで、片方だけを上手く扱えるということはない。
だから時雨は、陰陽術に特化して龍二を鍛えていたのだ。
「まあそう考えると、どちらの状態でも刀は握るから、剣の稽古も必須だよな」
陰陽師としては、雷丸の式装である龍刀・雷斬、妖としては妖刀・黒災牙。
どんな状態であっても刀を扱うため、剣の腕はそれなりになければらない。
修羅の素早く激しい打ち込みが続く中、龍二と桃華がのんびり話していると、二人の間ににょきっと小さな頭が割り込んできた。
桃色の髪をツインテールにした和ゴス美少女、座敷童の鈴だ。
「つまんないよぉー」
「鈴ちゃんどうしたの?」
口をとがらせて顔をしかめている鈴の頭を桃華がなでる。
「鈴だって遊びたいのにぃ……」
「ごめんごめん、午後は大丈夫だから。もう少し待っててくれ」
龍二は苦笑する。
彼女はよく中庭で遊んでおり、最近は剣の稽古ために龍二たちが独占してしまっていた。
少し離れれば大丈夫ではあるが、剣の稽古をしている近くで遊ぶのは危険だからと、雪姫が許していない。
鈴はもちもちの頬を膨らませ、半眼を龍二へ向けてくる。
「ぶーっ、龍二さま、本当に悪いと思ってる?」
「あ、ああ……」
「じゃあ後で、鈴と一緒に遊んでよ」
「……分かったよ」
「やったー! 龍二さま大好き!」
龍二が苦笑して頷くと、鈴は目を輝かせ嬉しそうに抱きついて来た。
桃華は少し眉をしかめるが、相手は小さな女の子。
そろそろお姉ちゃんとして我慢するということを覚えていた。
「じゃあ、なにして遊ぼっか?」
「えっとねぇ、鈴、鬼ごっこがしたいなぁ」
「鬼ごっこか……別にいいけど、鈴は速いからなぁ」
鈴は妖なだけあって、人間よりも遥かに身体能力が高い。
龍二が今まで鈴をつかまえられたことは一度もないのだ。
一人ではキツいからと、龍二が桃華へ目を向けると、彼女は頬を緩ませて頷いた。
「それじゃあ、お姉ちゃんも一緒に遊んであげますよ」
「えー!? 桃華お姉ちゃん、どんくさいからなぁ」
「な、なんですって!?」
桃華には容赦ない鈴。
少女の純粋な言葉が桃華のハートにダイレクトに突き刺さる。
反論できず桃華がしょんぼりと肩を落としていると、中庭のほうでは修羅たちが稽古を終え、同時に背後の襖が開く。
銀髪を後ろで束ね、着物の袖をまくっていた雪姫が出て来た。
「みなさん、そろそろお昼にしましょう」
「わ、私手伝います!」
顔を上げた桃華は慌てて立ち上がる。
鈴は「今日はなにかなー?」と陽気に鼻歌を歌いながら部屋の奥へ歩いていった。
「龍二様、なんだか楽しそうですね」
いつの間にか縁側まで歩み寄っていた嵐魔が言うと、無意識に頬を緩めていた龍二は頷く。
百鬼夜行にも、こんなにのどか日常があり、案外悪くないものだと思い始めていた。
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