襲撃者の正体
悪鬼組による襲撃事件の収拾がついた後、龍二は入院した。
木術による応急処置を受けたものの、傷が深かったようだ。
龍の血の覚醒状態でいれば回復も早かっただろうが、さすがに妖力暴走のリスクが高いので、龍二は大人しく搬送された。
「――まったく、お前って奴はぁ……」
最初の見舞いは、意外なことに時雨だった。
時雨はベッドに座る龍二を見るなり、顔に手を押し当て深いため息を吐き、龍二は「あはは」と頬をかき苦笑する。
「あれだけ悪鬼組の恐ろしさを教えてやったのに、なんで戦ってんだよ」
「すみません……」
「無事だったから良かったものの、一歩間違えば死んでいたんだぞ」
「はい、身に染みて感じてます」
気だるそうに眉をしかめる時雨の説教に、龍二は肩を落とし俯く。
経験した今だからこそ、時雨の忠告は正しかったのだと身に染みて感じていた。
龍二も修羅も、何回死にかけたことか。
時雨はやれやれと肩をすくめると、病室の窓の前に立ち、庭に植えてある樹木を眺める。
「一応、現場にかけつけた技官から話は聞いてる。お前たちが首なしを倒した後に現れた妖は、人と鬼の半妖『鬼憑』だ」
「それって、まさか!?」
「ああ。悪鬼組の頭首補佐だ」
龍二は驚愕に目を見開いていた。
おそらく、彼が全身を包帯で覆い左手だけ手袋をしていたのは、左半身が鬼であるのを隠すためだったのだ。
それなら、並外れた膂力や左手だけで刃を受け止めたのも納得がいく。
首なしや般若より強いのは当たり前で、上級位階の恐ろしさを改めて認識した。
「な、なんでそんなのまでこの越前に?」
「それだけ本気だったんだろう。それか奴の独断か。まあなんにせよ、奴らはもうそう簡単に手出しできないだろうさ」
時雨は窓へ背を向けて寄りかかり、涼しい顔で告げた。
あまりに危機感のない雰囲気に、龍二は首を傾げざるをえない。
「どうしてですか?」
「お前を助けたっていう妖、自分のことを龍の臣の元頭首補佐って言ったんだろ?」
「はい」
「お前は知らんだろうがな、歴代最強と名高い土御門摩荼羅が陰陽長官をしていた時代の龍の臣は、誰もが恐れた最強の百鬼夜行だったらしい。なんせ、幹部の全員が特級位階に認定されていたんだからな。その頭首補佐が守ってるとなりゃぁ、鬼憑だろうと簡単には手が出せんだろ」
「な、なるほど……」
目を点にして棒読みのような相槌を打った龍二は、内心仰天していた。
幹部全員が特級位階の百鬼夜行など、初めて聞いた。
父の皇鬼は、悪い妖でなかったと聞いているからいいが、もし人と敵対するような悪しき妖の集団だったらと思うとゾッとする。
「なにボケーっとしてんだ?」
「いや、なんか信じられないなと思って」
「バカ言ってんな。そんな信じられないことを可能するのが、お前の血だろ」
「え?」
首を傾げる龍二を見て、時雨は再び深いため息を吐いた。
「銀次から聞いてないのか? お前の親父さんは、その龍の血を妖に分け与えたって。幹部は全員、その血で強くなった妖だ」
龍二はようやく思い出す。銀次も雪姫も確かにそんなことを言っていたと。
だが、まさかそれで特級位階の妖にまでなるとは想像もつかない。
自分は想像以上に危険な存在なのだと、龍二は改めて思い知った。
「分かったら、もっと自重しろ」
「は、はい……」
龍二がしょんぼりと肩を落として俯くと、時雨は病室を出て行こうと背を向けた。
「……あっ、時雨先生、待ってください!」
「ん? まだなにかあんのか?」
「もし知ってたら、鬼憑って妖のこと教えてくれませんか?」
「……どうしてだ?」
時雨の反応に龍二は少したじろぐ。
振り向いた彼の表情は先ほどとは違って硬く、声も少し低かった。
なにか聞いてはいけないことのような、そんな雰囲気を出している。
だが龍二も抑えることはできない。
「半妖なのに、なんであれほどの強さを持っていたのか知りたいんです。それにあいつは、妖の力と陰陽術を同時に操っていました。」
龍二の目は好奇心に輝いていた。
半妖にも上には上がいるのだと知り、高揚しているのだ。
その強さの秘密を知れば、自分がさらに強くなるためのヒントが得られる、そんな期待があった。
しかし時雨は、冷たい目で龍二を睨んだ後、背を向けて言い放つ。
「ダメだ。奴のようになることは許さない」
「ど、どうしてですか? 別に悪鬼組に入ろうとか、そんな話じゃありませんよ?」
「……奴は禁術に手を染め、陰陽庁から追放された『元陰陽技官』だ」
「え!?」
「呪力と妖力が打ち消し合わずに使えているのは、禁術によるものだ。式神と妖を融合させるような禁術によって、奴の式神である『麒麟』は歪んでしまい、妖に近い存在となった。それで禁術の行使がバレて陰陽庁に追放されたのさ」
「そんな……」
龍二は唖然と呟き、それ以上なにも言えない。
鬼憑が元陰陽技官だということにも衝撃を受けたが、まさか禁術を使っていたとは思わなかった。
彼のような強さを求めれば、陰陽庁を敵に回すことになるということだ。
なんだか目の前が真っ暗になるような、そんな感覚を覚えた。
「……分かったら、奴のことは忘れろ。でないといつか、お前も闇に魅入られることになる」
龍二は無言でシーツを握る。
気まずい沈黙が訪れ、時雨は今度こそ病室を出て行こうとする。
言葉が見つけらず、龍二が顔を上げたそのとき、新たな客がやって来た。
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