決着
そのとき、ひび割れていた敵の鬼の仮面が亀裂を一気に広げ、ついに割れた。
鬼面は地面に落ち、男の素顔があらわになる。
「っ!」
しかし包帯は顔全体にも巻かれおり、かろうじて見えるのは右目だけだ。
それ以外の肌はすべて包帯で隠れている。
だが違和感があった。
頭の右半分は、黒髪が包帯の隙間から出ているのに対し、左側はそれがなくゴツゴツとしていて、なにか鋭利なものが突き出ていた。
包帯が巻かれていても、それが角であることは想像に難くない。
「貴様、よくも……」
敵は右目の目元を怒りに歪ませ、刀の切っ先を向けてくる。
左手には形代を握り、また新たな術を繰り出そうとするが――
「――そこまでだ!」
路地裏へ繋がる通りのほうから声が響いた。
そちらへ目を向けると、複数の陰陽技官たちが呪符を手にたたずんでいた。
陰陽庁の増援がようやく到着したのだ。
「ちっ――陰雷」
男は嵐魔を睨みつけながら苛ただしげに舌打ちすると、稲妻が弾け姿が消える。
その直後、技官たちの悲鳴が響いた。
「んなっ!?」
そちらへ目を向けると、数人の技官たちが血をまき散らしながら倒れるところだった。
敵の逃走を許してしまったのだ。
路地裏に張り詰めていた緊張が徐々に霧散していく。
あまりに早すぎる展開に、龍二は状況の整理が追いつかない。
「……あれ?」
視線を戻すと、嵐魔の姿もいつの間にか消えていた。
技官たちはさらに人員を派遣するよう、支局へ連絡すると龍二と修羅へ駆け寄った。
「……」
龍二は今度こそ、戦いは終わったのだと黒災牙を背の鞘へ納めた。
漆黒の髪は銀へ戻り、妖気も抑制されていく。人の姿に戻ると同時に傷の痛みが襲ってきて、激痛に顔をしかめる。
だがなにより、安堵によってどっと疲れが押し寄せ尻餅をついた。
修羅のほうは、気絶している間に完全に犬神化がとけていたが、目を覚ましていた。
「そんな……」
一人の技官が首なしに殺された同僚たちの遺体を前に膝を落とす。
彼らの惨状に慟哭する姿を見て、龍二は改めて生きていることを実感するのだった。
――――――――――
陰陽技官たちをすれ違いざまに斬って逃走した半妖は、川にかかる橋の下で息を整えていた。
もう嵐魔が追って来るような気配はない。
左手で怒りに歪む顔を押さえ、柱に寄りかかっていると、足音がして橋の影から一体の妖が姿を現した。
「……ボロボロだな」
男が目を向けると、そこにいたのは般若だった。
愛用の外套は失い、古めかしい紺の道着と籠手はそこら中裂けたり焼け焦げたりしていて、色白な鬼の顔にも切り傷が刻まれていた。
よほど手こずったのが分かる。
「えらく強い陰陽師がいての……」
「どんな奴だ?」
「赤く長い髪の男で、だらしのないへらへらした男だった。まったくやる気のなさそうな雰囲気だったが、実力はとんでもなかったぞ」
「そうか、神野時雨がこの町にいるのか」
半妖は声のトーンを落とした。
般若は知らない名前のようで、首を傾げる。
「知り合いか?」
「さあな。だがあれは、お前の勝てる相手じゃない」
「そんなことはない、と言いたいところだが、この有様ではなにも言えんな」
般若は悔しそうに声のトーンを下げると、拳を強く握った。
半妖の男は興味なさそうに「ふんっ」と小さく鼻をならすと、歩き出した。
そこで般若は周囲を見回し、慌てて声をかける。
「待て、首なし殿はどうした?」
「龍血鬼たちにやられた」
「なんと……」
「それだけじゃない。龍の臣の幹部が奴を守っている」
「は? それでは鬼夜叉殿の言っていた話と違うではないか!?」
般若が焦ったように声を上げ、半妖はバカにするように鼻を鳴らした。
「ふん、あの女も元は龍の臣の幹部だろ。俺は最初から信用していない。だから俺が来たんだ」
「やはり、おぬしの独断か……」
「頭首様には俺のことは報告しないでいい。とにかく、今は一旦退くぞ」
「承知した」
二体の妖は闇夜に溶けるように妖気を霧散させると、姿をくらますのだった。
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