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襲撃

 日が暮れ始め薄暗くなる逢魔時(おうまがどき)、既に悪鬼の魔の手はすぐそこまで迫っていた。

 陰陽塾のセミナールームのある小さなビル近傍の公園。

 そこに植えられている樹木の上に立つ、二つの怪しい影があった。

 

「あそこが陰陽塾か」


 怪しく目を光らせ呟いたのは般若。

 その傍らには、存在感なく静かにたたずむ首なし。

 先日、龍の血の持ち主を見つけた般若は、彼が陰陽術を使っていたことから陰陽塾か陰陽庁のどちらかにいるのではないかと推測した。そこで、彼の年齢と陰陽師としての雰囲気から、まだ見習いであると考え陰陽塾に狙いを絞ったのだ。


「おそらく、龍の血を継いだ少年はここにいるはずだ。しかし……」


 般若は声のトーンを落とし、塾の横に立つ三階建ての立派な建物へ目を向けた。

 陰陽庁の支局だ。

 彼らにとってネックなのは、陰陽塾を襲撃した際に、すぐに陰陽技官たちが駆けつけてきてしまうこと。

 腕には自信のある二人だが、標的を連れ去ることを考えると、失敗するリスクがわずかにある。

 

「首なし殿、すまぬが囮役を買っては頂けないか?」


「……」


「わしは陰陽塾を襲撃し、その場にいる人間を皆殺しにしてから少年を連れ去る。それまでの間、陰陽庁の邪魔が入らないように派手に暴れて引き付けておいて頂きたい」


 申し訳なさそうに般若が言うと、首なしは上半身を少し下げ了解の意思を示す。

 そしてすぐに、木の葉を散らして姿を消した。

 般若も外套のフードを深くかぶり、大きく跳ぶ。


「――さてと」


 陰陽塾のビルの目の前に着地した般若は、拳を握りしめ正面を見据える。

 歩き出そうとしたそのとき、背後から男の声がした。


「うおぉっ!? ビックリしたぁ」


 般若が無言で振り向く。

 丁度塾に入ろうとしていたのは時雨だった。

 彼は突然目の前に現れた、ボロボロな外套の般若に文句を言う。


「ちょっとあんた、俺が心臓発作で死んじゃったらどうするわけ? 登場の仕方には気を付けろよな」


 しかし般若は微動だにせず、フードの奥から鋭い眼光で時雨を睨みつけている。

 時雨もその怪しい雰囲気に表情を引き締めた。


「あんた、いかにも怪しいな。不審者として警察に通報するぞ? 言い分があるなら聞くけど」


「……ここに、龍の血の少年がいるな?」


 その言葉を聞いた途端、時雨の目つきがわずかに険しくなる。

 だが表情はできるだけ変えず、動揺を見透かされないようにしていた。

 声に感情を乗せず相手の問いに答える。


「なんのことか分かんないね」


 そう言いつつ、時雨は右手をポケットへ入れ、呪符を掴んだ。しかし放とうとして固まる。

 目の前に立っていたはずの敵の姿がない。

 微かな妖気を感じたと思ったときには、すぐ背後からしわがれた声が響いた。


「――そうか、なら死ね――」



 一方その頃。


「――本当に申し訳ございません」


 本邸の庭で桜千寿を見上げる龍二へ、雪姫が深く頭を下げる。

 龍二が戻って来た時、武戎の姿はどこにもなかった。もちろん、彼がいつも持ち歩いている愛刀もだ。

 どういうことかと龍二が問い質したところ、雪姫は屋敷の奥にいたため気付けず、鈴は昼寝をしていたという。

 一部始終を見ていたという目々連に事情を聞くと、武戎は桜千寿を登って屋敷の外へ出たらしい。

 桜千寿も妖術で心に干渉して止めようとしたが、強い怨念に邪魔され失敗したようだ。


「『利用』すらしてくれないじゃないかっ……」


 龍二は悔しげに顔を歪め拳を握る。

 「龍二を囮にする」という話も嘘だったというのか。

 心に傷を負った半妖を信じさせることすらできず、自分の無力さに腹が立つ。

 

「龍二様……」


 雪姫もかける言葉を見つけられず、戸惑うばかりだ。

 そこへ場違いな明るい声と共に、鈴が駆け寄って来た。


「龍二さまー!」


「……鈴か」


「龍二さまどうしたの? なんだか暗いねぇ。でも無事に帰って来れたなら良かったよ~」


「……それはどういうこと?」


 龍二は片膝を着いて鈴に目線を合わせると、その肩に手を置いた。

 なんだか胸騒ぎがした。

 なにか大変な失敗を犯してしまったかのような、そんな予感があった。

 鈴は嬉しそうに肩に乗った龍二の手を両手で握り、頬ずりしながら答えた。


「小鳥さんたちから聞いたんだけどねぇ、商店街のほうで『熊』が出たんだってー。だから、みんなお外に出ちゃだめなんだって」


「熊?」


 龍二は首を傾げた。

 町中に熊が出るなど突然すぎる。

 冬眠から目覚める時期なのかもしれないが、それでも違和感があった。


「……まさかっ!?」


 一つの可能性に思い至り、龍二はハッと顔を上げた。

 それは考えたくもない最悪の可能性。

 だが、悪い予感ほどよく当たる。

 

「あっ、龍二様!?」


「龍二さま~どこ行くの~?」


 龍二はわき目も振らず駆け出し、商店街へと向かうのだった。

 予感が当たらぬことを願いながら。

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