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武戎の過去

 龍二は頃合いだと思い、本題に入ることにした。


「お前も半妖なんだろ? 犬神の呪いのことは聞いてるんだ」


「てめっ、誰からそれを!?」


 武戎は顔を怒りにしかめ体を浮かせた。

 だがすぐに傷が痛んだのか、顔を歪め元の体勢に戻る。

 警戒心を解くつもりが、むしろ警戒させてしまったようだ。


「別に憐れんだりとか同情しようっていうんじゃない。ただ、協力関係を築きたいと思っただけなんだ」


 それが龍二の本心だった。

 武戎が桃華を傷つけたことは簡単に許せることではないが、それとこれとは話が別だ。

 今の龍二には戦うための力が必要。

 だからこそ、同じ半妖である武戎と手を取り合えればと思っていた。

 そしてそれが、時雨が龍二へ言った「俺はお前だから話したんだ。半妖のお前だから」という言葉への答えだ。

 武戎の刀から伝わってきた怨嗟の声、それは決して一人で抱え込めるものではない。


「協力関係だと? ふざけるな! なにも知らないお前なんて目障りなんだよ!」


 武戎はまるで警戒する犬のように、鋭い歯を剥き出しにして龍二を睨みつけている。


「そうだ、俺はなにも知らない。だから教えてくれ。お前は陰陽庁の介入を避けてまで、いったいなにをしようとしているんだ?」


「てめぇには関係ねぇ」


 武戎は下を向いてかたくなに話をしようとしない。

 龍二はため息を吐いて告げた。彼も無視できないことを。 


「関係なくはないんだ。昨日のあの妖、龍の血を探してただろ? あれ、実は俺のことなんだ」


「っ!?」


 武戎は下を向いたまま目を見開く。

 般若と龍二が対峙していたとき、武戎は全身を焼かれて意識も朦朧としていただろうから、二人の会話を聞いていなくても無理はない。


「俺、半妖って言っただろ? 実は龍血鬼っていう龍の血を受け継いだ妖と人間の半妖なんだ。それでこの血は妖を強くするものだから、妖たちが狙っているんだ」


 龍二は極めて危険な話をしていた。

 もし雪姫が聞いていたらすぐに止めていただろう。

 武戎が私利私欲にまみれた邪悪な者なら、龍二を殺して力を欲することだってあり得るのだ。

 だが彼はそんなことしないと、龍二は直感していた。

 武戎は黙って下を向いたまま表情を変えない。


「……」


「あとおそらく、これが原因で俺の母が殺された」


「っ……」


 それを聞いた途端、少しばかり武戎の瞳が揺れた。

 それに気付いた龍二は直感する。

 武戎の今抱いた感情は、同情ではなく共感なのだろう。

 ようやく彼の気持ちが少し分かった気がする。


「……お前も、復讐なのか?」


 龍二は核心を突くであろう言葉を選び投げた。

 もし、ある特定の妖への復讐が目的なら、陰陽庁に邪魔されたくないのは当然。一人で決着をつけようとするだろう。

 武戎は深いため息を吐くと、龍二のほうは見ずに言った。


「……協力はしない。俺がお前を『利用』するだけだ」


「あ、あぁっ! それでも構わない!」


 それが最大限の譲歩だと龍二にもすぐに分かった。


「俺は、この憎悪だけが生きるための(かて)と信じてきた」


 武戎はボソボソとひとり言のように語り始めた。


 ――彼は幼い頃、ある町の公園の砂場で不気味な犬の首を見つけた。

 無邪気で心優しかった少年は、そのままでは寒いだろうと思い、首を持って行こうと触れた。

 その直後、武戎の頭におぞましい怨嗟の声が次々と響く。

 狂ったように泣き叫び、正気を取り戻したときには、犬の首はどこにもなかった。

 武戎に憑りついたのだ。

 それ以来、時おり二重人格のように突然発狂したり暴力的になったりと、異常事態にたびたび見舞われた。

 そんな彼を気味悪がった両親や知り合いは、少年の「呪われた」のだという訴えは一切聞かず、彼を追い出したのだった。


 それからしばらくて、犬神の呪いはさらに武戎を蝕み、やがて一体化するまでになる。

 陰陽師が彼の惨状を目にした時には、既に同化が進み手遅れだったという。

 彼は孤独にさまよい、半妖であるせいで餓死もできず、身体は成長していく。それにつれて、少しずつ犬神の力も制御できるようになっていた。


 そんなときだ。彼が拾われたのは。

 拾ったのはいわゆる極道の(かしら)

 彼は武戎の子供ならざる力に目をつけ、組の用心棒として育てて悪事に利用した。

 しかしあるとき、組は抗争中だった敵の組が雇った妖によって全滅することになる。

 そのとき現れたのが『首のない侍』だ。

 武戎は、かばってくれた頭もろとも串刺しにされたが、半妖の体のおかげで一人生き延びた。

 その後、復讐のために妖を雇った敵の組を壊滅させるが、首なしの行方は分からず、彼を探し出すためだけに情報の集まる陰陽庁への配属を目指すのだった。

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