砕翁拳
「――式装顕現『焔刀・罪火』」
般若が地を蹴り、姿を消した次の瞬間、武戎は本能的に大きく跳び退いていた。
そして鞘に灼熱の業火を纏い、目の前の空間を根こそぎ焼き払う。
着地してすぐに前を見る武戎だが、般若の姿はどこにもない。
あの一瞬でいったいどれだけの距離を移動したというのか。
「――惜しいな。だが、わしの縮地は見切れまい」
「っ!」
――ブオォォォンッ!
真後ろからしわがれた声が聞こえ、武戎は慌てて振り向きざまに切り払う。
しかし、やはり般若の姿はなかった。
「くそっ、どこだ!?」
苛立たしげに眉を歪め、警戒しながら周囲を見回す。
すると上のほうから気配を感じ、顔を上げた。
般若は屋根付きベンチの四角い屋根の上に乗り、月の下で外套をはためかせていた。
「たかが小童の戯れかと思うたが、かなりの威力だ。さぞ高名な式神とお見受けする」
「このぉっ!」
敵の冷静さが武戎の癪に障る。
彼は屋根の上へと火術を連続して放った。
しかし般若は、もう回避しようとはしない。
その場で足幅を広げ、腰を落とし拳を構えた。
「冥土の土産に、わしの技も見せてやろうかの」
迫る複数の炎球を前に、般若は冷静に呼吸を整える。
憤怒の形相で前方を見据え、吐いた息は白く、まるで熱気のようにも見える。
一糸乱れぬ集中力は己の妖気を拳の一点に集め、極限の一撃を放たんと軋み出した。
そして、白い息を吐きながらゆっくり拳を引くと、覇気の開放と共に放つ。
「砕翁拳・烈波!」
般若が拳を突き出すと同時に、なにかが破裂したかのような大きな音が響き、空間が歪む。
同時に烈風が走り、目前まで迫っていた炎球をまるでロウソクの火を消すかのように、一瞬でかき消す。
凶器となった風の塊は、そのまま下の武戎へ音速で迫った。
「くっ!」
なんとか反射的に横へ転がって回避。
――バゴォォォンッ!
その直後、風の直撃した地面は砕け、まるで巨大な鉄球でも落ちたのかというほど深い溝を作っていた。
武戎の額につーっと冷汗が流れる。
「ほぅ? 避けたか」
般若の感嘆の声は、武戎の後ろから聞こえ、彼は慌てて立ち上がって距離をとった。
「界!」
そして障壁を張ったと同時に、肉薄され無数の打撃を打ち込まれる。
「ぐぅっ!」
透明な障壁の先で武戎の顔が苦痛に歪む。
目にも止まらぬ速さで無数の打撃を浴びせられ、呪力という名の精神力を徐々に削られていく。
般若の拳は一撃一撃が速い上に重い。
これが悪鬼組の幹部。
武戎は今さらになって、その強さの一端を認識した。
「このぉぉぉっ!」
がむしゃらに焔刀を振るうも、瞬時に距離をとられ当たらない。
再度、地を蹴り急接近してくる。
焔刀を再度振るおうと振り上げるが、振り下ろすと同時にその手首を掴まれた。
だが止められたのは左手と鞘。
武戎は右手で鞘に納まった刀の柄を握り抜刀して振り下ろす。
だが右手首も掴まれた。
「なんだこの刀は? なまくらではないか」
刀身を目にした般若は、バカにするように呟く。
その刀の刃は、刃こぼれが酷くギザギザで、なにも斬れないほどにボロボロだった。
武戎は一瞬、怒りに顔を歪ませるが、その隙だらけの腹へ鋭い蹴りが入る。
「がはっ!」
衝撃で突き飛ばされ距離が離れるが、般若の縮地の前では零距離に等しい。
すぐに体勢を立て直そうとする武戎の目の前で、般若は既に拳を振り下ろしていた。
なんとか紙一重で避けようと体を反らす、が――
「砕翁拳・斬空」
「ぐわぁぁぁっ!」
武戎は突然襲った鋭い痛みに叫んだ。しかしその表情はなにが起こったのか理解できていない。
拳はかすりもしなかったのに、肩口から胸にかけて斜めに大きく斬り裂かれていたのだ。
遅れて鮮血が噴き出す。
致命傷なのは明らか。
「ふん、拳が当たらなくとも、わしが裂いた空間は鋭い刃と同じよ」
般若は拳を引き、トドメの一撃を見舞おうと構える。
武戎は倒れそうになるのを根性と怒りだけで踏ん張った。
そして震える右手は刀を捨て、懐から形代を取り出す。
般若がトドメの一撃で武戎の胸を貫こうとしたその刹那――
「む?」
「……式術開放『降魔侵焼』」
次の瞬間、武戎の全身が炎に包まれる。
般若は巻き添えになる前に飛び退いた。
「なんと見上げた根性よ。敵に殺されるぐらいならと、自死を選んだか」
般若の言う通り今武戎を焼いているのは、己を滅ぼす地獄の炎。
体から急速に水分が失われ、武戎は叫びながらもがき苦しむ。
既に戦意を失い、憐憫の情を滲ませながら武戎の最後を見届けようとする般若。
そこへ新たな術が飛来する。
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