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慈悲なき決着

「そんなっ!? 銀狼!」


「ギャゥンッ!」


 襲い掛かった銀狼も焔刀の一振りで完全に消失。

 その間、武戎は腕を振るっただけで一歩もその場から動いていない。

 彼の鞘が纏った炎はごうごうと逆巻き、まるで周囲の空間を焼いているかのように空気の歪みを生み出している。火術などの比ではないことは一目瞭然だ。

 あまりの迫力に桃華は後ずさる。


「このぉっ!」


 だがすぐに首を横へ振ると、呪符をばら撒いてありったけの水弾を放った。


「無駄だ」


 武戎が地を蹴り、とうとう攻勢に出る。

 彼は障壁も張らず水術の被弾を恐れずに、姿勢を低くして全速力で桃華へと迫る。

 鬼気迫るその表情は、もはや鬼にすら見えた。


「くっ、これなら!」


 武戎と桃華を繋ぐ直線の中央辺りに呪符を投げ、土術を発動させる。

 足場を崩して動きを封じるつもりだ。

 しかし彼は、崩れゆく床を蹴ると跳び上がり、桃華の背後へと降り立った。


「っ! 界っ!」


 桃華が振り向き障壁を張ると同時に、武戎は焔刀の突きを繰り出す。

 透明な壁と炎を纏った鞘とで衝突し、一瞬の硬直を生むが、術の力を比べるまでもなかった。

 いとも容易く焔刀が障壁を突き破り、灼熱の炎を纏った刺突はそのまま桃華のみぞおちへ向かう。


「そ、そこまで!」


 山田が慌てて封印を発動し、鞘から炎が消失する。

 それで誰もが摸擬戦の終了だと思った。

 講師が終了の合図をしているのだから、ここで突きを寸止めして終わる、そのはずだった。


「――ぐぅっ!」


 だがそんな常識、武戎には通用しない。

 鞘の先は桃華のみぞおちを強く突き、彼女は苦痛に喘いで後ずさる。

 みぞおちを押さえ、苦しそうに顔を歪ませてひざまずく。


「桃華ぁぁぁっ!」


 龍二は額に青筋を立て、力の限り叫んだ。

 あまりの怒りに我を忘れそうだ。

 周囲の塾生たちも目の前の光景に唖然としている。


「そんな、ひどい……」


「あいつ、なにしてんだ……」


 山田が慌てて声を荒げる。


「やめろ武戎! 摸擬戦は終了だ! お前の勝ちなんだから、さっさと離れろ!」


 しかし武戎はそれに反応せず、鞘を高く掲げた。

 こうべを垂れ、苦しそうに息をする桃華の後頭部を見据えながら。


「おい武戎、なにをしている!?」


 彼の目はただ虚ろで、なにを映しているようにも見えない。

 相手をいたずらに苦しめて喜ぶような雰囲気でもない。

 体が勝手に動いているかのようだ。


「う、嘘だろ……」


「やめて……」


 簡単に想像できる最悪の結末に、塾生たちは顔を青ざめる。

 しかし誰にも止めることはできない。

 講師も術を消滅させるだけで、物理的に拘束するには距離が離れていた。

 そして、武戎は無慈悲にも鞘を振ろした。

 桃華の頭を砕く勢いで。


 ――ガギィィィンッ!


 しかし、彼の鞘は乱入者の鞘によって受け止められていた。


「お前、なにやってんだ!?」


「なんだお前」


 桃華と武戎の間に割って入り、一撃を受け止めていたのは、龍二だった。

 黒災牙の鞘で受け止めているが、武戎の一撃は想像以上に重い。

 それでも龍二は憤怒の表情で彼を睨む。


「許さない」

 

「邪魔だ」


 武戎は腕に力を込め、さらに押そうとするが――


「「――っ!?」」


 二人は突然の出来事に目を見開いた。

 そして、武戎のほうから飛び退く。

 

「なんだ、今のは……」


 自分の頭を押さえ困惑の表情を浮かべる龍二。

 武戎が力を込めた一瞬、なんだかおぞましい怨念のようなどす黒い感情が伝わって来たのだ。

 彼が離れてすぐにそれがなくなったので、あの鞘になにかあるのは間違いない。

 対して武戎も、目を見開いて龍二の刀を見つめている。


「お前、いったい……」


 二人がわけの分からない事態に硬直していると、山田が近づいてきて武戎へ告げた。


「武戎、それ以上の戦闘継続は、厳しく罰するぞ」


「ちっ」


 武戎は忌々しげに舌打ちすると、最後に龍二を凄い形相で睨みつけ、演習室から去って行った。


「けほっ、けほっ!」


「桃華!?」


「だ、大丈夫です……でも、負けちゃいました。龍二さんにいいところ見せたかったのに、悔しいなぁ」


「そんなことはいい! 山田先生!」


「分かっている。今、陰陽庁の陰陽医を呼んだ」


 結局、その日の摸擬戦はそれで終了となった。

 かけつけた陰陽医の話では、桃華の負傷は安静にしていればすぐに良くなるということだったので、龍二は心の底から安心した。


「あいつはいったい、なんなんだ……」


 龍二は得体のしれない気持ち悪さを感じながらも、負傷した桃華を嵐堂家まで送って行くのだった。

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