桃華VS武戎
「え?」
一瞬の後、龍二は唖然と声を漏らした。
目の前に突然、大きな背中が現れたのだ。
見覚えのない男だった。
龍二と同じ白銀の髪をした着物姿の男。
紫の竜紋の刺繍が施された灰色の羽織を着て、行灯袴の腰には刀を差しており、草履を履いている。
その体から漂ってくる雰囲気は覇気のように重く強く、妖気は感じられないがただ者ではない。
彼は他愛もなく少年の拳を掌で受け止めており、背後の龍二へ横顔を向けた。
「お怪我はありませんか?」
「え? は、はい……」
突然安否を確認され戸惑った龍二だったが、とりあえずこくりと頷いた。
男の瞳は深紅に輝き整った顔立ちだが、目つきは鋭く、美しさと共に鋭利な印象を与えてくる。
しかし龍二に問いかけた低い声には、優しさが混じっていて、なぜだか懐かしさを感じた。
男は目の前に視線を戻すと、受け止めていた拳を軽く押し返す。
呆けていた少年はよろけて尻餅をついた。
「な、なんだコイツ……」
「通りすがりの一般人ですよ。龍二様、こちらはどうぞ気にせず、ご帰宅なさってください」
なにがなんだか分からなかった龍二だったが、とりあえず助かったと思い、桃華の手を引いてその場から走り去る。
そのときは気が動転していて気にも留めなかった。
なぜ、あの男が龍二の名を知っていたのか。
そしてその後、再び龍二の前に姿を見せることはなかった。
――――――――――
遠野との摸擬戦から数日後、再び塾での摸擬戦の日がやって来た。
まず二戦、龍二は大人しく見学者として塾生たちの術比べを見ていたが、やはり式神を使うものはおらず、陰陽五行や結界などの基本的な術での攻防となっている。
式神の術と比べればどうしても迫力が足りない。
「――では次!」
二戦目の講評を終えた山田講師が次の対戦者を指名する。
彼が指名したのは、
「嵐堂桃華、対して武戎修羅。両名は中央へ」
「なっ!?」
ドクンと龍二の心臓が跳ね上がる。
とうとう気になっていた武戎の出番がやって来たのだ。
そしてその相手は桃華。
先日は勝てると意気込んではいたが、武戎の性格を聞いているだけに少し心配だ。
「桃華……」
「大丈夫ですよ、龍二さん。私、強いですから」
不安そうな表情を浮かべる龍二に、桃華は軽く笑いかけて迷いなく中央へと歩いていく。
対して武戎は、いつものファー付モッズコートを着て、左手には刃渡り一・五メートルほどの長い刀を納めた鞘を握っている。
「おい、あいつ刀を持ってるぞ」
「龍二くん落ち着いて。摸擬戦では抜刀さえしなければ使用できるルールなんだ。なにより、あれがないと式神の術が使えないからって本人が言ってみたいだし」
「そうなのか……」
龍二は声のトーンを落とす。
そんな彼を見かねた遠野が声をかけてきた。
「大丈夫だ。お前は知らないかもしれないが、嵐堂だってかなりのもんだぞ」
「そうなのか?」
自分で強い言っていたのは、桃華のただの見栄かと思っていたが、遠野も言うのだから分からなくなって来た。
そして、彼らが話しているうちに、山田が結界を張り摸擬戦の火蓋が切って落とされた。
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