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ド根性少女

 夜の商店街、ほとんどシャッターの降りた寂しい道を、龍二と桃華が並んで歩く。

 今日の講義は座学のみで、講師たちはなにやら忙しそうだったのでいつもより早く終わった。

 隣を歩く桃華は高校の制服であり、いつも学校帰りに塾まで直行しているようだ。

 

「武戎くん、なんだったんでしょうね?」


「さぁな。てか桃華の同い年?」


「そうみたいですよ。まぁ彼は先輩後輩なんて気にしないでしょうけど」


「それもそうだなぁ」


 龍二は何気なく話しながら、ふと気になっていたことを聞いてみる。


「そういえば、武戎が式神を使えるって聞いたけど、どんなのだ?」


「えっと、摸擬戦で見た限りでは火を操る式神みたいですね。それも火術なんかじゃ敵わないほどの強力な炎です」


「火か……『ふらり火』とか?」


「そんな弱そうなのじゃないですって」


 桃華は龍二がボケをかましてきたと思ったのか、クスクスと笑う。

 本人はそんなつもりはなかったのだが、これが教養の差だ。

 この程度の想像力では、自力で雷丸のような式神を生み出そうとしても無理だろう。

 一流の陰陽師がいったいどんな式神と契約しているのか想像もつかない。

 龍二は反撃とばかりに意地の悪い笑みを浮かべて言う。


「ま、式神を使えない桃華じゃ勝てないだろうから、仮病の演技でも考えておいたほうが良さそうだな」


「むぅ、龍二さんのくせに上から目線です」


「なんか失礼だな。でも本当のことだろ?」


「いいえ、私だって武戎くんに勝てます! 式神、使えますから」


「は?」


 龍二は目を丸くして素っ頓狂な声を出す。

 桃華はサラッととんでもないことを言った。

 負けず嫌いな彼女のことだから見栄を張っているのだろうとは思うが、なにやら得意げな顔で胸を張っている。

 ちなみに小さくはない。


「いやいやいや! お前式神なんて持ってなかったろ!? この間の牛鬼相手にだって使ってなかったし!」


「契約したのは最近ですから」


 桃華は「ふふんっ」としたり顔で鼻を鳴らす。

 どうやら本当らしい。

 

「嘘だろ……いったい、いつの間に……」


「龍二さんと遠野さんの摸擬戦の後ですよ。あれを見て私も早く追いつかなきゃって思って、徹夜する勢いではりきっちゃいました」


「お前、本当に根性で生きてんのな……」


 龍二は苦笑する。

 熱意と根性でどうにかできる次元の話ではないのだが、不思議と彼女なら不可能でないと思えて怖い。

 そこで一つ、先ほどから気になっていたことに合点(がてん)がいった。


「あぁ、だからお前、クマが出来てんのか」


「え? えぇっ!? やだ、恥ずかしいから見ないでください!」


 桃華は急に頬を赤く染め、顔を見せまいと手で覆う。

 こういうところは女子っぽいから龍二も扱いに困る。

 二人がそんな風にやりとりしながら差し掛かった路地で、突然喧騒が大きくなった。

 先ほどまでは桃華との話に気をとられていたため、かすかに耳に届いていたものの気に留めていなかったが、どうやらその発生源の近くを通りかかってしまったらしい。


「うわぁっ!」


「このぉっ!」


 聞き覚えのある声に龍二は足を止め、居酒屋と居酒屋の間の薄暗く細い路地へ目を向ける。

 するとそこでは、数人の男子学生が殴り合っていた。

 片方は以前龍二が通っていた高校の制服を着ていて、見覚えのある顔ぶれだった。

 桃華は龍二の背に隠れ不安そうに服をギュッと掴む。


「――龍二!」


 茶色の長髪にバンダナをした少年が龍二の存在に気付き、声を上げた。

 龍二は「しまった……」と頬を引きつらせ後ずさる。


「お前ら……」


 彼らは以前、龍二がつるんでいた不良仲間たちだ。

 殴り合っている相手が他校の制服を着ているのを見るに、相変わらず喧嘩に明け暮れているのだろう。

 しかし今は遭遇したくなかった。


「あぁん? お仲間か?」


「はっ! お前らみたいなザコじゃ龍二には敵わねぇよ」


「上等だコラァッ!」


 坊主頭に剃り込みを入れた他校の生徒が挑発に乗り、標的を龍二へ変え走り出す。

 龍二は拳を握り唇を噛みしめた。

 非常にマズい状況だ。

 もちろん陰陽塾の規則では、私事のために一般人へ術を行使することは禁じられている。だからといって素手でやり合っても、これが問題になって塾からどんな罰を与えられるか分からない。それに、後ろには桃華もいるから派手には動けない。


「くそっ……」


「隙だらけだろぉぉぉっ!」


 問答無用で殴りかかって来る少年。

 龍二はやむを得ず両腕を交差させ受け止める体勢をとった。

 だがその直後、彼の横を風が舞った。

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