武戎修羅
翌日の夕方。
日中の時雨との鍛錬を終えた龍二は、嵐堂家の近くで桃華と合流し、陰陽塾へと向かった。
二人がいつも通り陰陽塾の教室に入ると、既に他の塾生たちもほとんどそろっており、賑やかに雑談していた。
桃華が「お疲れー」と友達に挨拶しながら自分の席へ歩いていき、龍二も自分の席に座る。
その直後、三人の男子塾生が龍二の机に群がってきた。
「鬼屋敷くん、お疲れ」
「……なんだ?」
龍二は驚いた。
この塾で彼に話しかけてくる人など、桃華以外にはいなかったからだ。
いったいなにを企んでいるのかと勘ぐってしまう。
「な、なんか凄い目つきだね」
「俺になにか用か?」
目の前の少年が「あははは」と気まずそうに頬をかきながら苦笑する。
彼は静谷涼。
おかっぱ頭にメガネをかけた大人しそうな性格の男子で、成績も優秀だと聞いている。
龍二との接点はまったくない。
「いや、用ってほどのことはないんだけど。昨日の摸擬戦すごかったなって思って」
「そうそう、最後の術ってお前の式神の力だろ? あんな凄いの、どうやって手に入れたんだよ!?」
「まったくあんなの隠してるなんて、人が悪いよな」
後ろの男子たちも静谷に続いて畳みかけてくる。
龍二は返答に詰まった。
さすがに神将だった母の式神を受け継いだなどと言うわけにはいかない。
塾生たちにとって最も関心のあることだから、この手の質問への回答をあらかじめ用意しておくべきだった。
龍二はだらだらと冷汗をかきながら、下手くそな愛想笑いを浮かべて答える。
「……秘密、かな?」
「そうかぁ。やっぱりそう簡単には教えられないよね」
静谷は残念そうに眉尻を下げる。
とりあえずしつこく聞いてくる感じではないので安心した。
そこでふと視線を感じ、龍二は遠野の座る席へ目を向ける。
すると彼もこちらを見ていたが、その目線には敵意のようなものは感じられない。
「あっ、そういえば、この間の連続殺人事件を起こした妖を倒したのが、鬼屋敷だったっていうのは本当なのか?」
「え? どうしてそれを?」
静谷の横からの想定もしなかった問いに、龍二は思わず聞き返す。
彼の返答を肯定と捉えた塾生たちが互いに目を見合わせた。
「本当だったんだ!」
「すげぇ……」
龍二は「やってしまった」と額に手を当てる。
これではあらぬ噂が立ってしまう。
それにしても、先日のことは表向きは陰陽庁が処理したという話になっているはずだ。事情を知っているのは限られた人間だけのはず――
「――っ!」
犯人の正体に見当がついた龍二が彼女へ目を向けると、その頭についているアホ毛がアンテナのようにピンと立った。
桃華本人は口を尖らせ、知らんぷりでそっぽを向いている。
口笛のつもりなのだろうか……
目の前ではしゃぐ静谷たちに龍二が頭を抱えていると、
――ドンッ!
机を叩く大きな音が響いた。
一瞬で場は静まり、みんな何事かとその音の主へ目を向ける。
それは一番奥の角に座る、ガラの悪い少年だった。
武戎修羅。
身長が二メートル近くある長身で、燃えるような赤毛に加え目つきは鋭い。
誰も近寄らせない荒々しい雰囲気を発しており、常に一人でいる。
彼は大きな音を立てながら椅子を引いて立ち上がると、背もたれにかけていたファー付モッズコートを羽織り、机に立てかけていた長い刀の鞘を手に取る。
「……くだらねぇ」
龍二たちのほうを睨みつけて確かにそう言うと、教室を出て行った。
「なんだあいつ」
静谷の隣にいた少年が不機嫌そうに呟く。
周囲の塾生たちも「感じ悪い」「なんなのよ」と、不服そうに言い合っている。
しかし、武戎は龍二が塾を離れていた時期に入塾していたようで、龍二自身は彼のことをよく知らない。
「なあ静谷、武戎ってどんな奴なんだ?」
「え? そっか、鬼屋敷くんは最近になって復帰したばかりだもんね。彼がぶっきらぼうな感じで、誰とも関わろうとしないのは見ての通りだけど、本当に問題なのは摸擬戦のときなんだ」
「なにかあったのか?」
「うん。彼はいつも摸擬戦には勝利するんだけど、もう勝敗が決して講師も中断って言ってるのに、聞かないんだ。それで対戦相手を必要以上に傷つける。だからみんな、彼を怖がって近づかない」
先ほどの行動もしかり、どうやら素行に問題があるようだ。
なにか精神面での問題があるのだろうか。
それとも、そこらの不良なんかと同じで、暴力を振るうことで自分の強さを誇示しようとしているのか。
龍二は眉を寄せ、難しい顔で問う。
「でもそんな問題児なら、なんで陰陽塾は追放したりしないんだ?」
「多分、彼が強力な式神と契約したからだと思う。塾側からすれば、式神の使えない塾生を育てるよりも、才能ある問題児を育てるほうが有益だろうからね」
静谷は悔しそうに拳を握りしめる。
聡明な彼には残酷な現実が見えているようだ。
「そうか……」
龍二はため息を吐く。
残酷な話だが、陰陽師も実力主義。
仕方のないことなのかもしれない。
その後、講義は普段通りに行われたが、結局一度も武戎は戻って来なかった。
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