勝利の余韻
「――そこまで!」
時雨の合掌と共に、強大な雷は消滅した。
封印による術の無効化だ。
六芒星の内側にいる限り、講師が両手を合わせればあらゆる術は無に帰す。
雷鳴が突然止んだことで、演習室に静寂が訪れた。
龍二は想像を絶する式術の威力に唖然とし、遠野は驚愕に顔を強張らせ固まっている。
「や、やったぁぁぁぁぁっ! 龍二さんの勝ちですぅっ!」
一番最初に静寂を打ち破ったのは、幼馴染の甲高い歓喜の叫びだった。
それに続くように他の塾生たちも興奮の声を上げる。
「す、すげぇぇぇ!」
「なんだ今の!? あんな規模の術、初めて見たぞ!」
「まさかあいつ、式神と契約してたのか!?」
様々な声が室内に反響する中、ようやく我を取り戻した遠野はガクンと膝を落とし、うちひしがれるように両手を床に着いた。
「そんなバカな……術比べで俺が負けた。なんで? なんで、鬼屋敷が式神なんて使えるんだ……」
「ありがとう遠野。おかげさまで吹っ切れたよ」
「……え?」
龍二は遠野の前に膝を立て、手を差し伸べていた。
遠野は顔を上げ、信じられないものを見るように瞳を揺らしながら龍二の目を見つめる。
「でも、術比べは俺の勝ちだ」
龍二ははつらつとした笑顔を浮かべ、はっきりと告げた。
そこには後腐れない清々しさだけがあった。
遠野は目を丸くすると、ふっと口の端を緩め、それを隠すように俯く。
「……うるさい」
そして龍二の差し出した手を振り払って一人で立ち上がると、背を向けて六芒星の外側へと歩き出した。
彼は振り返らずに呟く。
「次は負けない」
「ああ、楽しみにしてる」
二人のやりとりが終わると、それを合図とばかりに見学していた塾生たちが鼻息を荒くしながら、龍二の元へ殺到しようと駆け出す。
龍二は立ち上がると、「さてどうしようか……」と苦笑した。
式神については、みんなが講義を受けてはいるが契約に成功した塾生の話は聞かない。
だからみんな興味深々なのだろうが、龍二のは理由が理由だけに詳しく話すわけにはいかない。
自身が半妖であることも隠しているのだから。
こういうとき、助けになってくれるはずの桃華も、今は龍二が勝利した喜びで興奮して我を忘れ、塾生たちの群れの先頭に立って迫っているぐらいだ。
「はいストーップ!」
龍二の後方で時雨が気だるげな声を発したかと思うと、六芒星を境に再び結界が張られた。
なだれ込もうとしていた塾生たちは見えない壁に阻まれ、おしくらまんじゅう状態になる。
先頭にいた桃華は、障壁に顔面を強打し、さらに後ろから押されて鼻がもげそうになっていた。
せっかくの美少女が内側から見たら酷い絵面だ。
時雨は龍二の横まで歩み寄ると、折り重なった塾生たちへ告げる。
「もう遅いんだから、話は明日にしろ。俺は龍二と少し話があるから、暇な君たちはほらっ、帰った帰った!」
時雨の一方的な物言いに、塾生たちは不服そうに異議を唱えるが、仕方なしに踵を返していく。
少しずつ人の群れが小さくなり、散り散りになってくると、真っ赤になった鼻を押さえ涙目になっている桃華と目があった。
龍二と一緒に帰ろうとしているのだろうが、龍二は首を横に振って帰るよう促す。
すると、彼女は残念そうに眉尻を下げトボトボと出口へ歩き出した。
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