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嫌悪の視線

「――陰陽五行とは陰陽術の基本中の基本であり、木火土金水(もっかどごんすい)からなる。それぞれの性質は、互いに相生(そうじょう)という重なり強め合う性質と、相克(そうこく)という相殺する性質を持つ。これら五行は、人によって一つか二つ得意な属性があり、五行すべてを扱える陰陽師は稀で――」


 そこは越前にある陰陽塾。

 陰陽庁の近くにあり、陰陽技官の研修などに使われることもあるという小さなセミナールーム。

 部屋はあまり広くないが清掃は行き届いていて、正面奥にホワイトボードとその前に講師の立つ演壇があり、出口へ向かって塾生の机が並んでいる。

 席も三十ほどしかなく、それでもギリギリまだ埋まっていないのは、単純にこの町での陰陽塾生が少ないからだ。

 だがその中に一人、数日前新たに加わった者がいる。

 いや、復帰したと言ったほうが正しいか。


「……龍二さん、講義中ですよっ?」


「んぁ?」


 講義中にも関わらずうとうとしていた龍二は、隣の席に座っている桃華のささやき声でハッと顔を上げる。

 「一刻も早くおくれを取り戻す!」と、意気込んでいた少年はどこへやら。

 高校でも授業をよくサボっていたこともあって、座学は内容が頭に入ってこない。

 しかし原因はもう一つある。


「いやぁ、時雨先生の鍛錬が厳しくてさ。おかげもう疲労困憊(ひろうこんぱい)なんだよ」


 龍二は講師に聞こえないよう、小声で言うと疲れたように肩を落とす。

 実のところ龍二は今、朝から晩まで陰陽術を学んでいた。

 桃華や他の塾生たちは、日中は学校に行っているが、龍二は既に退学しており日中は銀次に紹介された塾講師『神野時雨(じんのしぐれ)』から実践的な術の指導を受けているのだ。

 時雨は最近になって、他県からここへ転勤しており、色々と忙しいのに龍二の面倒をよく見てくれている。とはいえ、本人はいつもやる気がなさそうでグチグチ不満を垂れてはいるが……

 つまり、日中は時雨による実践的な陰陽術の鍛錬、夕方からは他の塾生たちと陰陽塾で講義を受けるというハードスケジュールなのである。


「――こらそこ、講義中だぞ」


 ホワイトボードへ文字を書き終えた講師『山田』が二人の私語に気付き、鋭い目線を向けてくる。

 身長が高く角刈りの筋肉質な男で、厳つい顔の通り塾生に対して厳しい態度をとっている講師だ。

 龍二が一度離脱する前からいた講師で、なにをやっても上手くできなかった彼に対して厳しい言葉を浴びせ、指導していたと記憶している。

 そんな強面(こわもて)な彼の怒りの眼差しを受け、桃華はしょんぼりと肩を落として「申し訳ありませんでした」と素直に謝る。

 だが龍二は目を逸らしてなにも言わない。


「おい、鬼屋敷」


「……はい?」


 苛立ちを孕ませた山田の声に龍二が目を向けると、彼は額に青筋を立て頬を歪ませていた。

 険悪な雰囲気が室内に流れる。


「お前、突然戻ってきたと思ったら、その態度はなんだ? 真面目に学ぶつもりはあるのか? もし、熱心に陰陽術を学んでいる塾生たちの邪魔をするつもりなら、出て行ってもらうぞ」


「や、山田先生、それは……」


 事情を知る桃華が横で立ち上がり、話を遮ろうとするが、龍二は「桃華、いい」と彼女にだけ聞こえる小声で言って手で制した。

 そして龍二は立ち上がり、山田の目を見て頭を下げた。


「自分のせいで貴重な時間を無駄にしてしまい、申し訳ありませんでした。ですが、陰陽術のことを学びたいという気持ちに嘘偽りはありません」


 周囲でひそひそと塾生たちがささやき合う。

 昔と同じだ。

 彼に対する嫌悪感。

 最初は銀髪や赤い瞳といった、他人とは違う特徴を気味悪がっていたが、彼に陰陽師としての才能が無いと分かると、親の七光りだなんだと攻撃の方向性を変えた。

 今も龍二が戻って来たことに対する不満が積もっているようだ。

 

「ふんっ」


 山田は鼻を鳴らすと手元の参考書に目線を落とし、講義を再開する。


「……陰陽五行の他にも、基本的な術として『封印』、『滅法』、『結界』がある。封印は妖力や呪力などを封じ、滅法は妖を滅するための術だ。結界は君たちでも扱えるだろうが、陰陽術や妖術、そして物理攻撃をも遮る障壁だ。五行を含めたこれらの術の発動は、呪符なしでは誰にもできない。呪符には呪力を大幅増幅させる術式が梵字によって刻まれていて、これに言霊を乗せることで術として発動できるからだ――」


 次第に塾生たちのささやき声が静まり、みんなが講義に集中し始める中で、桃華が小さく呟いた。


「私が余計な口出しをしたせいで……ごめんなさい」


「お前のせいじゃない。気にすんな」


 そう言って龍二はノートを開けてメモを取り始める。

 内心は腹が立っていたが、山田の言うことも正しい。

 他の塾生たちの迷惑になるようなことは彼も避けたいのだ。

 それからは龍二も眠気に負けることなく、講義を終えたのだった。

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