屋敷を守る妖たち
「ねぇねぇ~龍二さまが来てるってほんとー!?」
勢いよく戸襖が開け放たれると同時に、喜びに満ちた鈴を転がすような可憐な声が飛び込んで来る。
八重歯を覗かせて弾けるような笑顔を浮かべ乱入して来たのは、和ゴスの衣装を着た中学生くらいの少女だった。
桃色の髪でツインテールを作り、黒目がちな瞳を輝かせた小動物のように愛らしい顔。
赤い帯は腰の後ろで大きなリボンのように結ばれ、花柄の黒い振袖だが裾はミニスカのように短く、ピンクと白の縞々模様の二―ソックスがよく似合っていた。
彼女は龍二を視界に捉えると満面の笑みを浮かべる。
「あぁーっ! 龍二さまだぁー!」
「おっとっ……」
胸元へ飛び込んで来た美少女を反射的に受け止める龍二。
少女は至近距離で龍二を見上げると、幸せそうににぱぁっと笑う。
同時に隣で、桃華が悲鳴のような声を上げた。
「んなっ!?」
だが龍二とて彼女に見覚えがなく、なんだか懐かれているようだがその理由に心当たりがない。
パッチリとした目にあどけない笑顔で上目遣いに見つめられると、その魅力に負けてしまいそうだ。
誰がどう見ても美少女で、アニメにでも出てきそうな和ゴスが似合っていて可愛らしい。
横からなんだか負のオーラが漂ってきたが、怖くて桃華のほうを向けずダラダラと冷汗を流す。
すると、雪姫がたしなめるように言った。
「鈴、お行儀が悪いですよ」
「えぇ~? いいじゃ~ん! せっかく龍二さまとお話しできるのにぃ」
「えっと……この子は?」
龍二は雪姫へ目を向け、自分の膝の上に座った美少女の正体を聞く。
すると、不服そうに口を尖らせていた少女が龍二へ笑顔を向けた。
「鈴はねぇ、座敷童子なんだよぉ?」
「座敷童子?」
龍二は意外な答えに目を丸くする。
どうやら『鈴』というのは名前のようで、座敷童子という妖らしい。
その名は龍二も聞いたことがあるほど有名だ。
イタズラ好きな妖で神出鬼没だが、それが住み着いた家には幸運が訪れるという。逆に出て行ってしまえば、その家に不幸が訪れるともいう。
横の桃華も、未だに頬を引きつらせてはいるものの、もの珍しそうに鈴を眺めまわしている。
「鈴の力は、この屋敷に妖気の結界を張り、招かざる者を入れないようにすることです」
「私が龍二さまを守ってあげるんだから!」
「もしかして、二人は俺たちがいない間ずっとこの屋敷を守ってくれていたのか?」
雪姫は慈愛の笑みを浮かべゆっくりと頷き、鈴もうんうんと首を縦に振った。
父は素晴らしい仲間に恵まれていたのだと、しみじみ思う。そして、それに嬉しさを感じると共に羨ましくも思う。
龍二が「ありがとう」と礼を言うと、なぜだか鈴がクスクスと笑った。
「……ひっ!」
直後、桃華が悲鳴を上げる。
不審に思った龍二が桃華の視線の先を追うと、いつの間にか現れた異質な光景に息をのんだ。
「な、なんだあれは!?」
周囲の障子のあらゆるところに、亀裂が生まれ目玉を開いていたのだ。
その血走った目玉はギョロギョロと龍二のほうを向いている。
これも妖に違いない。
龍二が眉を寄せて警戒していると、雪姫は笑みを崩さず告げた。
「彼は目々連という妖です。私たちと同じく、この屋敷で頭首様に仕えていました」
「そうだったのか。でも急に出て来て、おどかすのはやめてくれ」
「違う違う、目々連はぁ嫉妬してるんだよ~」
「え?」
「はい。彼もこの屋敷を守り続けてきましたから」
「でもねぇ、目々連てば、ドロボーさんが入って来たときに、目を開いて驚かせて追いだすくらいしか働いてないんだよ~」
鈴は無邪気なだけに容赦がない。
目々連は余計なことを言うなとばかりに、鈴を睨みつけるが、彼女は楽しそうに笑いながら無視している。
どうしてここが妖怪屋敷と呼ばれていたのか、本当の理由が龍二には分かった気がした。
「そうだったのか……目々連も今までありがとう」
どこに目を向ければいいか分からないが、龍二は正面へと頭を下げた。
すると、目々連は嬉しそうに無数の目を細めた。
こうしても見ると、可愛らしい……かもしれない。桃華は顔を青くして、げんなりした表情で斜め下を向いているが。
龍二は苦笑すると、キョロキョロと周囲を見渡す。
「もしかして、まだ他にも?」
「はい。あと一体、龍二様にご紹介したい妖がいます。どうぞこちらへ」
雪姫はそう言うと立ち上がる。
長時間正座していたというのに、足は痺れていないようだ。これも妖だからだろうか。
ちなみに、龍二は鈴の乱入のおかげであぐらを掻いていたが、隣の桃華はずっと正座していたせいで足が痺れ悲鳴を上げている。
しかし雪姫は容赦なく戸襖を開け、縁側へ出るので、龍二も鈴を横へどけて立ち上がり後へ続く。
「りゅ、龍二さ~ん、置いていかないで~」
「ふふっ、お姉ちゃ~ん、鈴が介抱してあげるよ」
「へ?」
鈴が新しいおもちゃを見つけたかのように目を輝かせ、手をわきわきさせている。
桃華の顔が恐怖に引きつり、「助けてくれ」と龍二に潤んだ目を向けてきた。
龍二は見て見ぬふりをして部屋を出ると――
「ぎゃーーーーー!」
桃華の悲鳴を遮るように、後ろ手で戸を閉めた。
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