龍の臣
雪姫は龍二の視線を受け止め黙って頷くと、話を続ける。
「あの方の魅力は情に厚いところです。弱い妖を陰陽師から助けるだけでなく、己の血を分け与えて瀕死の状態から救ったり、自らの身を守るための力をつけさせたりしていました。しばらくすると、頭首様に助けられ恩義を感じていた妖たちが頭首様の元へ集まり始め、いつしか百鬼夜行だなんて言われるようになったのです」
「それは銀次さん……桃華のお父さんからも聞きました。己の血を分け与えたことで最強の百鬼夜行を成したと。でも、今ではそんな話、噂にもなりません」
龍二は眉を寄せ表情を引き締めた。
現代でも百鬼夜行というものは存在する。
妖たちが徒党を組み、一つの組織として行動しているものの総称だ。
龍二の聞いたことのある百鬼夜行では、『悪鬼組』や『怪談衆』などがある。
しかし、龍血鬼の率いた組の噂など聞いたこともない。
桃華にも「知ってるか?」と視線を向けるが、彼女も首をゆっくりと横へ振った。
「今でも頭首様の『百鬼夜行・龍の臣』は活動しています。幹部の一人が頭首代理として率いていますが、人と関わるようなことはしていないので、もう忘れ去られているのでしょう。もちろん、今は離れていますが私もその一員でした」
「それなら父はどこに?」
龍二が神妙な表情で問うと、雪姫は悲しげな表情でその長いまつ毛を伏せた。
「頭首様は……ある日、お一人でいるところを陰陽師に襲われ、お亡くなりになりました」
「そんなっ……まさか、神将十二柱が!?」
「相手の素性は分かりません。当時の頭首補佐が駆けつけたときには、瀕死の頭首様が横たわっていたそうです。それがあってからすぐに百鬼夜行は縮小し、月菜様はまだ幼い龍二様を連れてここを出ていかれたのです」
「そんなっ、どうして……」
龍二は言葉を詰まらせ、やるせない気持ちで拳を握る。
父、皇鬼は人に害を成すような妖ではない。昔ならばいざ知らず、十数年前であればむやみやたらと陰陽師に狙われることもないはず。
そしてなにより、数百年も陰陽師たちと戦い生き抜いてきた龍血鬼が負けるなど、にわかには信じられなかった。
そのとき、嫌な想像が脳裏をよぎり龍二はハッと顔を上げる。
「まさか、黒災牙を作るために牙を抜いたから……」
「いいえ、たとえ牙がなくとも頭首様のお力は絶対的なものです。陰陽師などにおくれをとりはしません」
「じゃあ、いったいどうやって父を殺したっていうんだ!?」
「そ、それは……」
興奮に声を荒げた龍二に、雪姫は肩を落とし頬を歪ませて俯く。
桃華も心配そうに眉尻を下げ、控えめに声をかける。
「りゅ、龍二さん……」
「……怒鳴ったりしてすみません」
「いえ、謝るのはこちらのほうです。すべては私たちが力不足だったせいですから」
雪姫はそう言って深く頭を下げる。
場には重苦しい雰囲気が漂っていた。
悲しい真実を明かされ、行き場のない怒りはどこへぶつけることもできず、龍二はただ黙って拳を強く握りしめるだけだ。
桃華も今は大人しく下を向いている。
そのとき、
「――姫ちゃーん!」
そんな空気を払拭するかのような、明るい声が廊下から響いた。
聞き覚えのない声に困惑する龍二だったが、パタパタと軽快な足音はすぐそこまで迫っている。
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