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妖怪屋敷

 田んぼ道を抜け、近道だからと頼りなさげな木々が両脇に並ぶ、舗装もされていない細道を歩く。

 するとすぐに、背の高い土塀に囲まれた木戸門へ辿り着いた。

 遠目に見ても、屋敷の庭で咲き誇る枝垂桜は美しい。黄昏に輝やき、もはや神々しさすら纏っている。

 これには桃華も見惚れていた。


「どれだけ経っても、いつ見ても綺麗ですねぇ」

 

「ああ、母さんの自慢さ」


 龍二はいつも通り門横にある通用口から入ろうと、鍵をさそうとする。

 そこでようやく異変に気付いた。


「……開いてる?」

 

 想定外の事態に龍二が固まっていると、桃華も横に並んで鍵穴を覗き込んだ。

 銀次の話では、業者が玄関まで荷物を運べるようにと、母から預かっていた鍵を知人に渡すと言っていた。そして荷物の運搬が終われば、普通は鍵を閉めるはずだ。

 単純な閉め忘れなら、不用心に他ならない。

 それも、他人の家ならなおのこと大問題だ。


「ほんとですね。お父さんの知人の方が閉め忘れたんでしょうか?」


「まったく勘弁してくれよ」


「本当にごめんなさい。これでもしなにかがあったら、ちゃんと対応するようにと、お父さんには厳しく言っておきますから」


「いやいいって。大したものなんて持ってないんだし」


 龍二は苦笑すると鍵をポケットへ仕舞い、通用口を開けた。

 「まったくお父さんてば……」とぷんすか憤慨している桃華と共に、本邸の砂利石の上に足を踏み入れる。

 周囲を見渡すと、いつも通り石灯籠が置いてあるだけで、特に異変はない。

 だが本邸の纏う雰囲気は普段とは違っていた。

 なんだか薄気味悪く、肌寒さを感じさせるような怪しい空気が蔓延(まんえん)している。

 桃華も警戒しているのだろう、口を堅く結んで慎重に辺りを見回している。

 しかし妙だ。

 龍二の予想では、玄関の奥に立っている、百鬼夜行図の描かれた衝立(ついたて)の前にたくさんのダンボールが置かれているはず。

 そうこうしているうちに、日も完全に暮れ、暗くなって来たタイミングで――


「――きゃっ」


「な、なんだ!?」


 突然、雪の結晶が舞い吹雪のような強風が襲いかかる。

 桃華はスカートを押さえ、龍二も両腕で顔をかばって風を遮る。

 あまりの寒さに(こご)え死ぬかと思ったが、それも一瞬。

 風はすぐに止み、龍二が困惑しながら腕を降ろすと、周囲の石灯籠が明かりを灯し始めた。

 

「な、なに?」


 桃華が驚いてキョロキョロと辺りを見回すが、龍二は玄関に突然現れた人物を見据えていた。

 白い雪の結晶の刺繍をあしらった水色の着物を着て、透き通るような姫カットの銀髪を後ろでまとめ花の(かんざし)を差している、妙齢の美女だ。  

 おっとりした目元に、包容力溢れる微笑みを浮かべているが、頬のなきぼくろがどこか色っぽい。

 玄関で正座し、まるで主人の帰りを待っているかのようだ。

 桃華も龍二の視線の先を追い、彼女の存在に気付く。


「わっ、凄く綺麗なお姉さんです。あの人は誰ですか?」


 桃華がそう聞いて来るが、龍二は答えず玄関へと歩いていく。


「ちょっ、ちょっとー!?」


 桃華も慌ててついて来る。 

 玄関まで辿り着くと、美女は両手を床へつき深く頭を下げた。


「お帰りなさいませ、龍二様」


 見知らぬ美女の慇懃(いんぎん)な対応に困惑する。

 だが、龍二はどこか懐かしさを感じた。

 なぜ自分の名を知っているのか、なぜ勝手に本邸へ上がっているのか、ここに置いていた荷物はどうしたのか、など聞きたいことは山ほどあったが、龍二は一旦呼吸を整える。


「……あなたは?」


「申し遅れました。私は雪女の『雪姫(ゆきひめ)』と申します。先代の頭首様に仕えておりました。こんなところではなんですから、どうぞこちらへ。居間で詳しくご説明します」


 そう言って雪姫は立ち上がり、屋敷の奥へと促す。

 龍二が靴を脱ぐためにトートバッグを床に置くと、雪姫は「失礼します」と言ってそれを持ち、奥へ歩いていく。

 彼女の姿が見えなくなったところで、桃華が龍二に詰め寄った。

 

「ど、どういうことですか、龍二さん!? 私というものがありながら、お手伝いさんを雇うだなんて!」


「し、知らん! 俺だって混乱してるんだよ」


「ぐぬぅ~」


「まあ落ち着けって。まずは話を聞いてみようじゃないか」


 龍二は「どう、どう」と気色(きしょく)ばんで今にも飛びかかってきそうな桃華をなだめると、すぐに雪姫の後を追う。

 桃華は怪しむようにジト目を向けながら黙って後ろに続く。

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読者様の本作への印象を知りたいので、広告の下にある☆☆☆☆☆から作品の率直な評価をお願いしますm(__)m


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