親の愛
眩い光が収まり視界が明けると、黒い焦げ跡のできた中庭には、謎の人物が片膝を立てこうべを垂れていた。
武士の着るような灰色の羽織に焦げ茶色の武者袴を着て、籠手を装着した左手に刀の鞘を握った、身長二メートルほどもある長い金髪の男だ。
灰色の羽織は、枝分かれした雷の模様が描かれており、籠手は左手のみ。
そのチリチリと張り詰めた空気に、龍二たちは息を吞むが、銀次は頬を緩ませ眉尻を下げた。
「……ようやく来たか」
「え?」
その正体を知っているかのような銀次の呟きに龍二が困惑していると、目の前の男は顔を上げた。
後ろで桃華が「ひっ」と小さな悲鳴を上げ、龍二の袖をさらに強く握った。
その男の顔面には、呪符がびっしりと貼られていたのだ。
奇怪で異様な相貌に龍二は唖然とする。
「あんたはいったい……」
「私は『雷丸』。鬼屋敷月菜と契約していた式神だ」
「……え?」
謎の男――雷丸の声はいたって冷静な、落ちついた低い声だった。
だが彼の言った、「鬼屋敷月菜の式神」だという言葉が龍二の脳を揺さぶる。
式神とは、深層心理における術者の思想や憧憬などが反映された、言わば分身。その人の性を具現化した化身であり、一種の呪いだ。
そのため、術者が死ねば基本的には式神も消滅するはず。
例外として、強い未練や事象の歪みによって妖と化す者もいるが、目の前の雷丸からそういった雰囲気は感じない。
「私は、鬼屋敷が殺される直前に契約を解除された。彼女との縁に縛られず、ここへ戻って来れるようにと」
「………………」
龍二は目を見開き固まる。
桃華も口元を両手で押さえ瞳を揺らしていた。
それほどまでに衝撃的なことを告げられたのだ。
彼は今、母は「殺された」のだと言った。
大人から聞かされていたのは、事故だったということだけ、話が違う。
そうなれば、どうにか無理にでも納得しようとしていた龍二の苦悩は跡形もなく消え失せる。
「殺されたっていうのは、いったいどうことなんだ!?」
「……やはり、そうだったか」
感情的になる龍二とは違い、銀次は想定していたかのように呟いた。
龍二は彼に食ってかかる。
「まさか、知っていたんですか銀次さん!?」
「落ち着け、龍二くん。私も知っていたわけではない。想定の範囲内だというだけだ」
「これが落ち着いていられるものですか!」
「取り乱していても、なにも先に進まないぞ」
「くっ……だからって……」
「雷丸よ、教えてくれないか? 月菜くんの身になにがあったのかを」
雷丸は小さく頷くと、事の真相を語り始めた。
月菜は陰陽庁の仕事で奈良の辺鄙な地にある村へ出向いていた。目的は潜伏している凶悪な妖を滅するため。
それ自体は順調に進み、上級位階でもあった妖を難なく滅すると、支局への報告に戻ろうとした。
そのとき、彼女の前に謎の男が現れたという。
眼帯をした短い茶髪で色黒の男。
彼は月菜を見て酷薄な笑みを浮かべると、問答無用で襲い掛かってきた。
その言動を鑑みるに、月菜の素性は知っていたらしい。
「まさか、月菜くんですら敵わないとは……」
「彼女は最後まで私を使わなかった」
「なぜ?」
「奴と会ってすぐ、自分に未来はないと悟ったからだ。彼女はどうにかして、私を龍二の元へ送ろうとした。だからこそ、私と敵に接点を作り万が一、龍二の身に危険が迫るようなことがないよう、敵の油断する最後の時まで待ったんだ」
「そんな……」
龍二は拳を握りしめ悔しげに顔を歪める。
母は国家最強とうたわれる、神将十二柱の一人だ。
そんな彼女が式神を使ってさえいれば、勝てずとも逃げ延びることぐらいは出来たかもしれない。
だというのに、たった一人の息子のために自分の命すら投げ出すというのか。
「どうしてなんだ……どうしてそこまで……」
「君にはまだ分からないだろうが、それが親というものだ」
銀次は頬を緩め慈愛に満ちた、穏やかな表情で告げた。
その眼差しは、母が自分に向けていたものと似ている。それを認識した龍二はもうなにも言えない。
目の前の男も父親。もし同じような状況なら、娘である桃華のために自分の身を犠牲にするのだろうか。
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