父の正体
龍二はコクリと頷くと、無言の視線で銀次に先を促した。
「遠い昔、一体の吸血鬼が異国から渡って来た。彼は人の血を吸い生きながらえてきたが、ある日、隔離世の山に迷い込んだ。そこにいたのが黒龍王という漆黒の炎を操る龍だ」
漆黒の炎。
取り調べの担当をしていた技官たちも知らない力だと言っていたが、龍の力だとは想像もしなかった。
いくら妖の跋扈する世界だと言っても、龍などは伝説上の生き物にすぎないのだ。
人の怨霊や悪意などから生まれる妖とはわけが違う。
「さすがに勝ち目がないと悟った吸血鬼は、龍の隙をついてその血を吸った。それによって絶大な力を得た吸血鬼は、龍を退け現世へ戻ったという。以後、彼は『龍血鬼』と呼ばれるようになった。君が黒い炎を扱えるのは、黒龍王の血を継いでいるからだ」
「まさか……」
「そうだ。その龍血鬼こそ君の父親だよ」
龍二は衝撃の真実に声を詰まらせた。
まさか、そんなとてつもなく恐ろしい血が流れていたなど、思うはずもない。
それなら母がその力を封じていたのも頷ける。
横に座る桃華も、話についていけていないようで、目を点にしてボーっとしているぐらいだ。
「そういえば、その刀は龍血鬼の……父の牙を元に作られたと言っていましたけど……」
「そうだ。吸血鬼というのは、その牙を突き立て人から血を吸うが、妖からは妖気を吸う」
「妖気を吸う?」
「ああ。つまり、君が受け継いだ強大な妖気を封じるのに、最適だったというわけだ」
龍二にもようやく分かった。
彼の力を妖刀に吸わせることで抑制し、さらに封印の呪符を貼ることで、龍二自身から完全に隔離していたということだろう。
しかし疑問が生じた。
吸血鬼にとって牙とは、大事な体の一部のはず。
「……そういうことですか。しかしなぜ、自分の牙なんていう大事なものを使ってまで、妖刀を作ったんでしょうか?」
「それは、月菜くんと同じ理由だろう」
銀次は頬を緩め優しく諭すように言った。
龍二の脳裏に、黒災牙を握ったときに伝わって来た母の言葉を思い出す。
――あなたは無能なんかじゃない。そう思わせてしまったのは、私たちのせいなの――
あのとき感じた違和感、それは母ともう一人の誰かの存在が感じられたからだ。
今ようやく、それは父だったのだと理解する。
そして、自身の牙を使って黒災牙を作った理由が母と同じなのだとしたら――
――こんな力を持っていたら、きっと危険な争いに巻き込まれる。あなたにはただ平和に暮らして、幸せになってほしかった――
龍二は大きく息を吸って目を閉じる。
頬が歪みそうになるのを必死に抑える。
気を緩めれば、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
龍二にとっては顔も声も知らない父。それでもやはり父だった。
母と同じように、息子の幸せを一番に考えていたのだ。
二人の息子として、こんなに嬉しいことはない。
「龍二さん……」
桃華が遠慮がちに呟きながら、龍二の背中に手を置く。
いつもは元気で騒々しいくせに、こんなときだけ空気を読めるから困る。
銀次もしばらくなにも言わず、龍二が落ち着くのを待った。
それからしばらくして、龍二は清々しい表情で銀次の目を見て問う。
「父は今、どうしているんですか?」
「分からない。黒災牙が完成してからしばらくして、行方不明になったんだ」
「そうですか……」
「彼の星は禍々しく強大なものだったが、急に消失してしまったんだ。そんなことできる陰陽師がいるとは思えないが、もしかすると彼はもう……」
「そんな……」
龍二は表情を曇らせ膝の上の拳を握る。
もし、滅されたのだというのなら、その原因は牙を失ったことによる弱体化が大きいのかもしれない。
そう思うと、龍二には言いようのない悔しさが込み上げてきた。
銀次は遺憾そうに目線を落とすと、「すまない」と呟いた。
桃華も唇をギュッと結び、重苦しい沈黙が訪れた。
だが次の瞬間――
――ゴゴゴゴゴッ、ズドォォォォォンッ!
雨も降っていないというのに、空から雷鳴が轟き一瞬光が視界を覆ったかと思うと、嵐堂家の中庭へ雷が落ちた。
静寂を破った突然の雷鳴に心臓が跳び上がる。
桃華がビクンと肩を震わせ、慌てて龍二の服の袖をギュッと掴み、体を寄せて盾にする。
龍二も突然のことに驚き身構えた。
「な、なんですかっ!?」
「これは、あの夜と同じ……」
既視感を感じた。
これは先日の夜、牛鬼を退け黒災牙を落とした雷。
それが再び出現したことに、龍二はかすかな高揚感を感じていた。
胸の前で腕を組み目を閉じていた銀次もまったく動じていない。
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