半妖の覚醒
「グワァァァ! 貴様ァァァッ!」
牛鬼は叫び、背後を振り向く。
桃華もなにが起こったのか分からず唖然とし、牛鬼の後方で佇む者を見た。
左手で鞘、右手で刀を持つのは、綺麗な銀色だった髪を闇より暗い漆黒に染め、全身から尋常ならざる妖気を溢れ出している龍二だった。
深紅の眼光を放つ瞳は、龍のもののように縦長の瞳孔で、目元から頬にかけて刺青のような黒い筋が伸びている。それは、ゆらゆらと燃えるように枝分かれした炎の残照。
そして、黒炎が収束し形作った漆黒の羽織を肩にかけ、裾をゆらゆらと揺らしている。
人でも妖でもない、形容しがたい存在に思えたが、桃華には確かに龍二だと分かった。
牛鬼は憤怒に顔を歪めつつも問う。
「まさか、半妖だったのか?」
龍二は答えず、冷徹な微笑を浮かべ告げた。
「来いよ、クズ」
「なんだとぉぉぉぉぉっ!」
挑発にのせられ、わき目も振らず猛進してくる牛鬼。
それが桃華から遠ざけるための意図だとは気付かない。
全身を駆け巡る血はたとえようのないほどの熱さだが、龍二の思考は冴えわたっていた。信じられないスピードで体が勝手に動く。
牛鬼が桃華から十分離れたことを確認した龍二は、地を蹴り揺らめく黒炎と共に姿を消す。
桃華がまばたきをした次の瞬間には、牛鬼の背後に立っていた。
「んなっ!?」
牛鬼は慌てて足を止め、ザクザクと地面を抉りながら旋回。
両側の前脚を同時に振り上げると、龍二は刀を構えた。
強靭な脚が連続で振り下ろされる。
龍二は目を細めると、あくまで冷静にその軌道を見極めた。
「遅い」
一撃目は体を反らして紙一重で避け、二撃目は刀で弾く。
しかし牛鬼は諦めず、連続で脚を上げ振り下ろす。
だが何度やろうと当たらない。
龍二は刀に漆黒の炎を纏い跳び、空中で脚爪を避けた後、牛鬼の体を支えている後ろの右脚を一刀のもとに切断する。
「グウゥッ!」
すぐに跳び退くと、バランスを崩した牛鬼の頭が目の前まで下がる。
龍二は鞘を投げ捨てると拳を強く握り、その額へ渾身の打撃を見舞った。
――ドゴォォォォォンッ!
ただの殴打は衝撃を発して空間を揺らし、牛鬼の巨体を軽々と吹き飛ばす。
盛大な砂塵を上げて転がり、後ろにあったジャングルジムを破壊して止まる。
崩れた鉄筋が牛鬼の頭上から降り注いだ。
「……本当に、龍二さんなんですか?」
後方の桃華が戸惑いの声をかけながら近づこうとするが、後ろ手で制する。
砂塵の中からボロボロの牛鬼が出て来たのだ。
さすがの硬い外殻には鉄筋も大したダメージではないようだ。
「貴様はいったい……」
「さあな。いいから、さっさと決着をつけよう」
そう言って龍二は刀を上段に構えると、周囲で次々に発火が始まり刀身へ黒炎が収束していく。
牛鬼はここにきて初めての動作に出た。
残る四本の足を曲げてバネにし、地を蹴って勢いよく飛んだ。
空中で両方の前脚を鎌のように振り上げながら、龍二へ急接近する。
「なめるなぁぁぁぁぁっ!」
「――闇焔・炎殺」
龍二が刀を振り下ろすと、刀身に凝縮されていた黒炎が開放され、怒涛の炎波となって敵を焼き尽くさんと燃え盛る。
肥大化した黒炎の波は牛鬼の全身を包み、その身を灼熱で焦がした。
「グワァァァァァァァァァァッ!!」
断末魔の悲鳴の後、黒い炎が息吹を衰えさせる頃には、牛鬼の体を跡形もなく焼失させていた。
龍二の勝利だ。
彼はたわいもないというように鼻を鳴らすと、背後へ振り向く。
不安そうに瞳を揺らし、唖然と佇む桃華を安心させてやりたかった。
だが――
――ドクンッ!
「ぐぅっ!?」
心臓が大きく跳ねた。
体の中で血が暴れまわる。
龍二は、妖気を制御できず苦悶の表情を浮かべ片膝をついた。
刃を地面に突き立て、かろうじて体を支える。
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