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温もり

「――桃華ぁぁぁぁぁっ!」


 そのとき、牛鬼の横から龍二が走り寄って来ていた。

 桃華は目を見開き叫ぼうとするも、彼は地を蹴って跳び桃華の肩を強く押し突き飛ばした。

 彼女は遠ざかる龍二へ手を伸ばすが、届かず脚は振り下ろされた。


「龍二さん! 嫌ぁぁぁぁぁっ!」


 桃華が尻餅をつき、目の前の光景に叫んだ。

 龍二は、大きな脚の爪によって背を右肩から左へ大きく裂かれ、血をまき散らした。

 そして、目の前の桃華を見ると、「よかった……」と呟き倒れる。

 ドクドクとおびただしい量の血が地面へ広がる。

 後悔はない。

 なんの力も持たない自分が、大事な幼馴染を守れたのだから。

 桃華は目の前に牛鬼がいるにも関わらず、龍二に駆け寄った。

 

「龍二さん、どうして私なんかを!?」

 

「……いいから、逃げろ……」


「嫌です!」


 呪符を取り出し、木術による治癒をしようとする桃華。

 しかし傷はあまりにも深く、木術による自然治癒力向上でどうにかなる状態ではない。

 それでも諦めず、龍二の名を必死に呼びながら呪力を込める。


(バカ、なんで逃げない……)


 朦朧とする意識の中、龍二は心の中で桃華に逃げろと叫ぶが、体が言うことを効かない。

 どうにかして、彼女だけでも助けたかった。

 自分が喰われている間に、増援が到着すれば桃華は助かるというのに。

 しかしそれを許す牛鬼ではない。


「あぁ? お前らなにやってんだ? さっさと俺に喰われればいいんだよ」


 牛鬼は鋭い牙の生えた口をニィッと吊り上げ、顔を二人へ近づけていく。

 それでも桃華は、敵のことなど見向きもせず、木術にひたすら呪力を込め龍二の回復を試みる。

 大きな口が開き、二人まとめて噛み砕かんと牙が眼前まで迫った。

 龍二はうつ伏せになりながらも、虚ろな目で無理やり口だけを動かし、うわごとのように言う。

 

「……逃げろ……」


「嫌です! 私たちは小さい頃からいつも一緒でした。死ぬ時も一緒です!」


 桃華はまるで駄々をこねる子供のように首を横へ振り泣き叫ぶ。

 龍二は目を見開く。

 言うことを聞かない彼女に苛立ちを覚えたと共に、喜びのような感情が浮かび上がったのだ。

 こんな自分でも、そばにいてくれる人がいる、それだけでこんなにも嬉しいものなのか。

 冷え切った心にじんわりと温もりが広がっていった。


(このバカっ……でも……)


 龍二はゆっくりと目を閉じ、心の中で礼を言う。

 そしてその一瞬の後、とうとう凶悪な牙が彼らに届く、その刹那――


 ――ズバァァァァァンッ!


 雨も降っていないのに、耳をつんざくような雷鳴が轟いた。

 驚いた牛鬼は瞬時に顔を引っ込め、その直後、龍二たちの目の前に眩い雷光が天より落ちる。

 桃華は反射的に龍二の体に覆いかぶさってかばい、牛鬼は大きく跳び退いた。

 

「…………これは、刀?」


 桃華がおそるおそる目を開くと、目の前には鞘に納まったままの刀が地面に突き刺さっていた。

 どこか禍々しい覇気を纏っているその刀は、漆黒の鞘に数枚の呪符が貼りつけられ、柄と鞘をくっつけるように長い呪符も巻かれており、まるで抜けないように封じているかのようだ。

 陰陽庁の増援が来たのかと、周囲を見回すが誰も来ていない。

 桃華が怪訝そうに眉をしかめていると、瞳に光を取り戻した龍二がのっそりと体を起こす。

 木術による治癒が少しは効いたようだ。


「龍二さん?」


「……聞こえる」


「え?」


 龍二には誰かの声が頭に響いていた。

 だがまだ遠く、誰の声かは認識できない。

 だがそれは、刀が降って来てから聞こえ始めたことに違いない。

 龍二は誰かに導かれるかのように、左手を地面に着いて体を支え右手を伸ばす。

 震える右手は宙をさまよい、やがて漆黒の刀の柄に届いた。

 それに触れた瞬間、龍二の意識は暗転――

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