表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/90

絶望

「――くそぉっ!」


 そうこうしているうちに、戦況は切迫する。

 牛鬼が鋭い牙を生やした口を広げ、技官へと猛ダッシュし始めたのだ。

 足を止めせるべく、火術をぶつけるも勢いは緩まない。

 彼は慌ててポケットから呪符を取り出すと、地面へ叩きつけた。

 

「隆起せよ、大いなる大地の化身、急急如律令っ!」


 彼の目の前で地面が隆起し、トゲのように鋭い形へ変形すると、一斉に牛鬼へ伸びた。

 だが牛鬼の硬い外殻を貫くことはできず、強靭な脚に踏み砕かれる。

 荒々しく低い叫び声が、心の芯におぞましく響いた。

 

「オレに喰わせろぉぉぉぉぉっ!」


「っ! 界っ!」


 顔を恐怖に引き吊らせた技官は、猛進を止めることを諦め慌てて障壁を張る。

 しかし、詠唱があるのとないのでは、その強度にも大きく差が出るのだ。

 牛鬼が槍の穂先のように鋭い前脚を振り上げ、技官へ振り下ろすと、いとも容易く障壁は破れ、その肩を掠め切り裂いた。

 技官は血をまき散らしながら、後方へ吹き飛ぶ。

 そして砂埃を巻き上げて倒れると、ピクリとも動かなくなった。

 牛鬼は彼を喰おうと、ザクザクと脚で地面を(えぐ)りながら歩き出す。

 その光景を唖然と見ているしか出来なかった龍二の後ろで、桃華が懐から呪符を取り出した。


「……龍二さん」


「なんだ?」


「もう間もなく、陰陽庁の増援が来るはずです。ここは私が時間をかせぎますから、逃げてください!」


 龍二の背後で桃華が叫び、前へ出た。

 呪符を投げ、両手で印を結ぶ。


「悪しきを祓い、純水なる如く清めたまえ、急急如律令!」


 次の瞬間、呪符に書かれた梵字が水色に輝き、飛来する液体となった。

 水術による水弾だ。

 それは、まるで銃弾のように勢いよく飛び、牛鬼の胴体に命中する。

 

「あぁん?」


 しかし案の定、傷一つ付けられていない。

 だが牛鬼は桃華のほうを向き、倒れている陰陽技官から注意を逸らすことに成功した。

 龍二は桃華の横を抜け、疾風の如く駆け出す。


「逃げるわけないだろ、バカ!」


「龍二さん、なにを!? 逃げて! くっ!」


 桃華は必死に龍二を呼び止めながらも、水術を連続で放つ。

 龍二はその隙に、手前の血だまりに倒れていた技官の元へ辿り着き、しゃがみ込む。

 気絶している彼の装束の胸元を探ると、護身刀が見つかった。

 陰陽師の基本装備として支給されるという、破魔の呪力が込められた短刀サイズの護身刀だ。

 これでもまだ丸腰よりは遥かにマシといったところ。


「この、バケモノォォォッ!」


 龍二は叫ぶことで恐怖による震えを無理やり抑え込む。

 牛鬼を桃華に近づかせないために、駆け出した。

 そして桃華の水弾に苛立ち、走り出そうとする牛鬼の前脚へ、渾身の斬撃を叩き込む。

 しかし――


 ――ガキィィィンッ!


「……な、に?」


 刃の直撃したその大きな脚は想像以上に硬く、護身刀でも弾かれてしまった。

 それでもと、がむしゃらに刃で斬りつける龍二。

 だが牛鬼はそちらを見向きもせず、脚を振り彼を払い飛ばした。


「ぐぁっ!」


「龍二さんっ!」


 龍二は勢いよく吹き飛ばされ、地面を全身で擦り、砂塵を上げて転がる。

 あまりの衝撃に、一瞬息が出来なかった。

 龍二は脇腹に鋭い痛みを感じ、苦痛に顔を歪めてうずくる。


「よくも龍二さんをっ!」


 龍二から注意を逸らすため、桃華はありったけの呪符を放ち、水弾を牛鬼へぶつける。

 だがやはり、桃華の呪力で生成された水弾では足止めにもならない。

 牛鬼は再び桃華を見定めると駆け出した。


「こざかしいわぁぁぁっ!」


 さすがにこれ以上の攻撃は無意味。

 桃華は素早く呪符を目の前へばら撒き、印を結ぶ。


「天より高覧せし大いなる大極よ、邪気を祓いて、畏み申す、急急如律令!」


 呪符の周囲で光の反射が起き、透明な障壁が生まれた。

 障壁の目の前で脚を止めた牛鬼は、前脚を高く上げ獲物を貫かんと勢いよく振り下ろす。

 あまりの衝撃に、透明の壁が砕け、光が発散する。


「くっ!」


 桃華は苦痛に顔を歪めながらも、人差し指の先を突き合わせ両手で結んだ印を保持。

 だがみるみるうちに障壁は削られ、強靭な脚爪が眼前まで迫る。

 いくら呪文を詠唱したところで、彼女はまだ見習い。

 陰陽技官の障壁でさえ破った牛鬼の力の前では無力だ。

 

「っ!」


 障壁が砕け、具現化していた呪力の破片と烈風が術者へ襲い掛かる。

 巫女を模した陰陽塾の制服の袖を裂き、桃華の頬を掠め薄く肌を裂いていく。

 そして遂に、障壁に大きな亀裂が入り、ガラスが割れるかのような音を立て崩れさった。

 障害物のなくなった脚は、そのまま桃華の頭上へ勢いよく振り下ろされる。

 なす術なく、ゆっくりと頭上を見上げる桃華。

※↓のご協力お願いしますm(__)m


読者様の本作への印象を知りたいので、広告の下にある☆☆☆☆☆から作品の率直な評価をお願いしますm(__)m


また、私の活動を応援くださる方は、『ブックマーク追加』や『レビュー』も一緒にして頂けると大変助かります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ