表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/90

牛鬼の猛威

 家を飛び出した龍二は、わき目も振らず夜の住宅街を走り抜ける。

 ブロック塀が並んで出来た道の脇に立つ街路灯が仄暗い(あかり)(とも)し、冷気も相まって夜道の不気味さを際立たせる。

 だが、今の龍二には気にする余裕すらない。

 まるで赤い線の軌跡を描くように、彼の赤い瞳が爛々と輝いていた。


(桃華っ……)


 彼女の太陽のような明るい笑顔が脳裏に蘇り、走行のペースが自然と早まる。

 険しい表情で歯を食いしばり、桃華の通りそうな道を必死に考える。

 陰陽塾から嵐堂家までの道筋をイメージ。

 住宅街を抜けて商店街の通りへ差し掛かるが、まだ見つからない。

 シャッターの閉まった寂しいアーケード街を抜け、道の分かれたところで足を止めた。


「?」


 龍二は首を傾げる。

 かすかに漂って来る、鼻腔をくすぐる鉄のような臭いは――


「っ!」


 血の臭いだ。

 龍二が息を整え、ゆっくり呼吸しながら臭いのするほうを探ると、大通りの脇に分岐した道から(ただよ)って来ていた。

 だがこの先には、誰も通りかからないような、雑草の生い茂る公園しかない。

 龍二は嫌な予感をひしひしと感じながらも走り出す。

 次の瞬間、道の先でなにかがぶつかるな大きな音が聞こえた。

 

「――桃華!」


 龍二が薄暗い公園に辿り着くと、ようやく桃華を見つけることができた。

 たまに点滅する切れかけの街灯に照らされた公園は、周囲を背の高い雑草に囲まれており、面積としては広く塗装の剥げたジャングルジムやブランコなどもあるが、缶や袋などのゴミが散らばり、公園というよりは荒れ果てた空き地だ。

 制服姿の桃華は、座り込んだ若い女性の前でしゃがみ込み、緑色に輝く呪符をかざしている。

 おそらく、自然治癒力を飛躍的に高める木術だ。

 そして、彼女らのさらに奥では、異形の怪物と陰陽師が戦っていた。

 腰に白い帯をした法衣のような黒い装束を身に纏い、数枚の呪符を指の間に挟んでいる陰陽技官の男と数メートルの距離をとって対峙しているのは、湾曲した角を生やした厳つい鬼の顔に、虫のような丸い胴体から蜘蛛のような鋭い足を六本も生やしたバケモノ。少なくとも全長三メートルはある巨体だ。

 よく見ると、手前には既に技官が一人、血溜まりの中に倒れている。

 漂って来ていた血の臭いはこれだ。

 想像を絶する光景に頭が真っ白になる龍二だったが、ひとまず桃華の元へ向かうべく無理やり足を動かした。

 

「――さあ、今のうちに逃げてください」


「あ、ありがとうございます!」


 木術の治癒で足が治ったのか、女性は信じられないというように目を丸くしながらも立ち上がると、桃華へ礼を言ってすぐに走り出す。

 彼女とすれ違って駆け寄ってきた龍二の姿を見ると、桃華も立ち上がった。


「桃華! 大丈夫か!?」


「龍二さん? なんでここに!? あれだけ外に出ないでって言ったじゃないですか!?」


 龍二を見て一瞬嬉しそうな表情を浮かべた桃華だったが、すぐに表情を引き締め、彼の軽率な行動を咎めるように口調を強めた。

 だが龍二も言い返す。


「うるさい! 心配させるお前が悪いんだ!」


「んなっ……」


 目を吊り上げていた桃華は、不意打ちを受けたかのように固まり、口をパクパクさせた。

 頬も心なしか紅潮しているように見える。

 だが龍二は、彼女をかばうように前に立つと、公園の奥で戦っている陰陽技官と妖へ目を向けた。

 妖の胴体に生えている灰色の体毛を見るだけで、身の毛がよだつ。


「――浄化の焔よ、悪鬼をひとしく焼き祓え、急急如律令!」


 技官の男は、一定の距離を保ちながら数枚の呪符を投げ、複数の炎の球体を生み出して敵へぶつける。

 しかし、妖の巨体にぶつかると呆気なく消失し、ダメージがあるようには到底見えない。

 技官は頬を引き吊らせ、焦りを見せる。

 緊迫した状況に、龍二は頬を引きつらせた。


「なんなんだよあいつは!?」


「おそらく、牛鬼という妖です。森や浜辺に現れ、人を喰らう悪鬼だと書物に載っていました。最近の事件を引き起こしている元凶で間違いありません」


「なんでプロの陰陽師でも歯が立たないんだ!? まさか……」


「一応は下級位階です。でも、あの巨大な体躯に硬い皮膚じゃ術が通じません。そこら辺の矮小(わいしょう)な妖とは桁が違うんですよ」


「なんでこんな奴が数週間も見つからなかったんだ!?」


「普段は妖気を隠して人間に化けているんですよ。相手が油断したところで、人気のないところへ誘って襲うんです」


 聞けば聞くほど厄介な妖怪だ。

 位階とは、陰陽庁で独自に設定した妖ごとの強さの目安で、下級、上級、特級と分かれている。

 最も位階の低い下級でも、みならい陰陽師で倒せる程度から、目の前の牛鬼のような陰陽技官一人では太刀打ちできない妖まで、幅は広い。

 これが上級になると、国家最高戦力である『神将十二柱しんしょうじゅうにちゅう』を引っ張り出さねばならなくなる。

※↓のご協力お願いしますm(__)m


読者様の本作への印象を知りたいので、広告の下にある☆☆☆☆☆から作品の率直な評価をお願いしますm(__)m


また、私の活動を応援くださる方は、『ブックマーク追加』や『レビュー』も一緒にして頂けると大変助かります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ