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絶望の鬼ごっこ

 いつの世も、人の栄える裏には闇があり、魑魅魍魎ちみもうりょう跋扈ばっこする。

 そしてそれは、栄光が眩しく輝かしいほど闇もまた暗く深く、力を増すのだ。

 現代においては、資本主義社会が発展したことで貧富の差が拡大し、貧しい者や教養なき者は闇金や詐欺の温床になったり、楽に儲けようとして道を踏み外す。

 だが多くの者が気付けない。

 その裏で糸を引いているのがあやかしであり、それら異形の者たちの養分となっていることに。

 栄華の裏に広がる、底知れず深く暗い闇。

 そんな強大な敵と日夜戦っているのが、現代の陰陽師なのである――


 とある田舎町の近くにある森の奥。

 鬱蒼うっそうと生い茂る雑木林の中、息を切らせながら必死に走る女の姿があった。

 肩にかかる程度の長さの黒髪で、線が細く整った顔立ちにうっすらと化粧をした三十代前後の女性で、左手で押さえている肩からは、グレーのスーツが裂けて血が流れ出している。

 額に脂汗を浮かべ、人里離れてさらに森の奥へと向かうが、背の高い木々の葉が仄暗い視界をさらに闇へ染めていく。

 お先真っ暗とは、まさしくこのことか。


「――おいおい、いつまで逃げてるつもりだぁ?」


 彼女の数メートル後方で、ドスの利いた男の声が響いた。

 まるで狩りを楽しむかのように声が弾んでいる。

 女へと迫る男は、袖なしで上質な毛皮の付いたファー付ダウンベストのみを上に着て、前のファスナーは開いている。鍛え抜かれた剥き出しの筋肉が目立ち、下には黒のダメージジーンズをはいていた。

 短い茶髪を逆立て、色黒で右目に眼帯をしており、厳つい悪人面に獰猛な笑みを浮かべている。

 特質すべきは、彼の全身をまだら模様の黒いあざが覆い、まるで雲の流れるように肌表面を這ってゆっくり移動していることだ。

 それはまるで生き物のようであり、どこかおぞましい。


 女は走るスピードを緩めることなく、血まみれの左手で腰のポーチから数枚の紙を取り出す。

 それは、面妖な文字――いわゆる梵字ぼんじが羅列された呪符。


「……浄化のほむらよ、悪鬼をひとしく焼きはらえ、諸余怨敵しょよおんてき皆悉嶊滅かいしつさいめつ――」


 呪符に刻まれた梵字が赤く輝き出す。

 ステップを踏み、わずかに跳び上がると宙で体をひねって半回転し、背後を向く。

 そして、呪符を追手へ向けて投げ放った。


「――急急如律令きゅうきゅうにょりつりょうっ!」


「ふんっ、火術かじゅつ程度で!」


 男は吐き捨て両腕を目の前で交差させる。

 すると腕へと一斉に痣が集まり、両腕が漆黒に染まった。

 次の瞬間、彼の目前まで迫っていた呪符が次々に燃え始め加速度的に肥大化する。

 それは直径三メートルはあるかというほどの炎球となり、熱風が男もろとも周囲の草木を焼いた。

 おそらく遠くから見ても、山火事だと認識されるほどの規模。

 しかし――


「くっ!?」


 巨大な炎の渦の中から黒く細い刃が真っすぐに伸びてきた。

 女は間一髪で横へ跳び回避。

 態勢を崩して地面を転がった後、膝立ちの状態で慌てて燃え盛る炎の海を見やると、その中から悠々綽々(ゆうゆうしゃくしゃく)といった様子で、三日月のような歪んだ笑みを浮かべた男が出て来た。

 指先から痣と同じ色の刃が伸びているが、それ以外の痣は元に戻っており、服は焼けているものの体には傷一つつけられていない。


「大した呪力だ。たかが陰陽五行でも、ここまでの威力とは恐れ入った。さすがに並の陰陽師とは……いや、高位の陰陽技官ともケタが違うな」


 男は楽しそうに言い、指先の刃を体へと引っ込め、痣として腕に纏う。

 女は悔しそうに眉を歪めると、すぐに立ち上がり踵を返して走り出した。

 逃走劇が再開される。

 既に日は暮れ、暗い森はより暗くなり、おまけに雨まで降り始めていた。

 それでも逃げ切るために足を止めない。

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