第1話
「魔王なんて、本当に居るのかな?
俺、お前とこんなに仲良くしてるのにさ」
少年は足元のそれに話しかける。プルプルとしたボディーは何の音も出さず、ただ、プルプルしているだけである。
「そうか、お前も見たことないよな。でも、こんなに人間と仲良くなれるモンスターがいるんだから、もしかしたら、魔王もそんなに悪い奴じゃないのかもな」
少年はプルプルしたものに触れる。プルンと弾む。
「モンスターだ!逃げろ!」
夜中に少年は叩き起こされた。
外は昼間のように明るく、そして熱かった。
いろいろな記憶が、思い出が赤く塗りつぶされていく。
「まさか、こんな辺境のところまで魔王軍が攻めてくるだなんて」
隣の家のおじさんがそう呟きながら逃げていた。
最近、活発化させている魔王軍の侵攻はとどまるところを知らなかった。
そして、その魔の手はこの辺境の町にまで届いていた。
「お前、モンスターと仲良かっただろ。どうにかしろよ」
などと罵声を浴びせられていたが、どんなに話しかけても全く通じなかった。
緊張からなのか、何なのかはわからない。
こうして、町はなすすべもなく滅ぼされ、少年は逃げるようにしてその場を後にした。