七夕と大樹
悠蓉さまに捧ぐ。
その昔、私は大樹であった。
豊かな森の奥深くに根をはり、導かれた水源を吸い上げて葉を茂らす、大きな太い木であった。
私の枝には色鮮やかな鳥たちがとまり、
私の幹には甘い樹液を求めて虫たちが集い、
私のうねるように生えた根のほとりに動物たちは身体を休め、やがて朽ちていった。
時が経ち、いつしか二本足の動物が私の元へ足しげく通ってくるようになった。
ぽつり、ぽつりと来ていた者が、やがて少しずつ増え、私の足元で営むようになった。
私の胴回りには縄が緩く巻かれ、やがてその者達は周期的に集う。
星々が瞬く夜に。
ある者は祈り
ある者は唄い
ある者は舞った
やがてその者達の想いは淡い筋となって空へ上がっていく。
細く、太く、時に重なり、時に離れながら。
その輝きを私は見守った。
藍色に染まる夜は
澄んだ七星が巡る空もあれば
霞みの中でうっすらと灯る光もあった。
今夜は川のように細やかな星たちが時おり流れ星となりながら空を彩っている。
営みと共に上がる淡い筋と呼応するように瞬く煌めきを、美しいと、私が思うのは可笑しいだろうか。
ただの木である私が。
ただ、そこに在るだけの私が。
毎夜眺める中、数年に一度、
このような空に出会える事が嬉しい。
気が遠くなるような時の中で、
その数瞬と出会えたことを、
私は感謝する。
天の采配に、心から。
やがて私は老い、いずれ枯れていくだろう。
最期の時まで、何度でも眺めていたい。
そう思いながら、私はまた見上げる。
風と共に
動物たちと共に
営む者と共に
夜影に浮かび上がる
小さな灯りを。