勇くんの事情2
ホウ、ホウ、と聞こえるフクロウらしき声に耳を傾けつつ、そう言えば、今は昼間だったなと、勇は改めて思い返した。
場所は聖女降臨の地と思われる山中である。
かなり深く分け入った為か、日の光は一切差さず、皆がそれぞれランタンや松明を持ち、隊列を組んで注意深く進んでいく。
剣や盾を持った大人達が、である。
国境にあるこの山は、資源も豊富であれば、危険も豊富である。
ヒト族領に近づけば近づいただけ、獣が多く、魔族領に近づけば近づいただけ、魔獣が多くなる。
危険度は魔族領に近づくにつれ高くなるが、だからといって、普通の獣も負けてない。
何せ、魔獣も住む山である。
草食動物すらこちらの姿を捉えて逃げ出すどころか威嚇するのだ。
生きる為に立ち向かうその姿勢は評価しても良いが、こちらに危害を加える気がないのだから逃げてほしい。
勇は切実に思った。
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そして更に奥へと分け入って行く隊列に続きながら勇は首をかしげる。
「あの、本当に聖女……さんはこの奥に?」
相手がわからない以上、どう呼んだものかと一瞬迷うも、当たり障りないだろう聖女を「さん」付けに収めてみた。
勇が声をかけたのは年配の兵士だが、特に不快げにされる様子もなかった事にほっとする。
兵士はそんな勇の様子を気にした風もなく頷いた。
「ああ、麓の村ではこの山のてっぺんに光の柱が昇ったって話だ。魔族領側の麓じゃ、不吉な光だって大騒ぎしてたらしい。
魔族にとって、聖女の力は毒みたいなもんだからな」
そうして魔族側から神殿へと、多分聖女っぽいからとっとと引き取れと通報が入ったとの事だった。
聖女の力は文字通り聖なる力である。
なので魔獣も聖女にはおいそれと近づく事もなければ、危害を加える事もないという。
よしんば危害を加えようものなら聖なる力で骨も残さず浄化されてしまうらしい。
なるほど、と勇は納得した。
ならば獣はどうなのだろう。
山のてっぺんは国境だと聞く。
ならば単純に考えれば魔獣と獣の割合は半々だ。
そう兵士に問えば、兵士はゆっくりと前に視線を向け、モゴモゴと呟いた。
「多分、大丈夫だろう。往々にして聖女様という存在は運に恵まれていらっしゃる」
それっきり兵士は勇と目を合わせようとはしなかった。
勇は進む先に目を向ける。
日の差さない鬱蒼とした木々の中、点々と灯る灯り。
それは前を進む兵士達の持つ松明やランタンの灯りだ。
しかし、勇にはその先にある灯りが見えていた。
とても暖かで、それでいて、清浄な何かだ。
勇はまだ見ぬ聖女の心配を口で言う程は心配していない。多分、聖女は無事で元気だ。
そんな気がする。
確信めいたそれこそが勇者と聖女の繋がりなのだろうなと勇は心の内で納得した。