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神聖なる森の中で(1)

 静寂を奏でる深い森。生物の存在を拒み、樹海と化した神聖なる樹林。


 そこに聳える木々は仰ぎ見ても、生い茂る葉とその樹木の高さに全貌が一視で確認出来ない。太い枝振りからは無数のつるが垂れ、枝葉や幹に絡み合っていた。


 枝葉の間から辛うじて差し込む木漏れ日は、薄暗い森林を明るく照らすただ一つの光だ。


 ちょうどその陽だまりが出来た大樹の根の上に、丈が腿までの袖無し胴着を着た一人の少女がたたずんでいた。


「ここは……どこ? 私は……」


 少女は吸い込まれそうなつぶらな瞳を天に向け、暖かな日差しに目を覆う。


 穏やかで、透き通るようなうるわしい声が、静謐せいひつな森にこだました。


 少女は、まるで見覚えの無い風景に戸惑い、しきりに辺りを見渡した。


「……」


 誰もいない。生物の姿も見えない。ただ風が木々の葉を揺らす音だけがそこにある。


 少女は極太の根を降り、その白い素足で大地を踏みしめた。


「う……」


 意外と冷たく、そして柔らかい。雨に濡れた土のような感触でくすぐったかった。


 少女は違和感を克服しようと一歩、二歩と前に歩いてみる。


 しかし、三歩進んだところで少女の足が止まった。


「これは……?」


 眼前に浮遊する淡い光。日の光とは少し違って、たとえるなら飛行物体のような球体だ。大きさはちょうど少女が胸に包み込めるぐらいで、たまに膨らんだり縮んだりしている。少女は訝しげにそれを見ていると、光は逃げるように高度を上げた。


 光は顎を上げれば見える高さで止まった。


「おはよう。目覚めの気分はいかが?」


「……!?」


 どこからともなく声が聞こえたので、少女は思わず振り返った。しかし、生物というものの姿は見当たらない。果てしなく続く樹林と、たまに吹き通る風しかなかった。


「誰?」


 思わず声を漏らす。何者かは優しく答えた。


「貴方の目の前にいる、光ですよ」


「へっ?」


 唖然として口をぽかんと開ける。


 光は、まるで我が子をたしなむ母親のような優しい声音でクスクスと笑った。少女は驚愕するより先に安堵してしまい、懐疑したことを伺った。


「貴方は……何者ですか?」


 はばかるような弱々しい声だ。


「私はこの森を守る精霊です」


 光は簡潔に答える。普通ならもう一度懐疑するところだが、少女はしっくり来る返答に納得した。


 森の精霊は少し間を置き、今度は少女に同様の質問を返した。


「では貴方は、いったい何者なのでしょうか?」


「あたしは……」


 突然の質問に、少女は困惑してしまった。なぜなら、自分は何者なのか、という問いかけに明確な答えが浮かび上がらなかったからだ。これだ、という確信が無い。では自分は、いったい何者なのだろうか?


 森の精霊は、その答えを知っているかのように笑った。


「あたしが何者なのか御存知なのですか?」


 気になって問い返す。


「ええ、もちろんです。私は貴方が生まれるずっと前から知っていました」


「生まれる前から……」


 精霊の言葉と共に、少女の脳裏に不思議な光景が浮かび上がってきた。


 深い深い水の中で、水面に浮かぶ光を求める自分の姿。その長い髪には水泡がつき、動かせない白い裸体を無造作に動かそうとする。とうとうどうすることもできなかった自分は焦がれるような瞳を水面に向け、溜まっていた何かを口から吐き出す。そして細い手と白い光に身体が包まれて――


「貴方は星空の使徒。星の精霊。星霊よ」


「星霊……」


 星空の使徒。星の精霊。星霊。それを聞いたとき、少女の中に何かが駆け巡った。





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