6 文の交流
あれから夏基と白川殿の冷めた関係は少しずつ解れていった。
文を出したら白川殿自身から返事がくるようになった。これは大きな進歩である。
それを眺めては嬉しそうに夏基はにやけてしまった。
「お前はそれでいいんだな」
「仕方ないだろう。まだ風早中納言を忘れられないというんだ。それまで待つさ」
その間は白川殿一筋、他の女性には目をかけないと誓ったという。
今までの行いを振り返るとずいぶんな変わりっぷりである。
彼方としては何度も感じたが、違和感と気持ち悪さがあった。白川殿に振り向いてもらう為にあれこれ提案してきたのが自分なので何とも言えない気分である。
「まぁ、お前がそれをやり遂げるなら見守ってやろう」
うまくいっているのならばそれにこしたことはない。
◇ ◇ ◇
白川邸では女房の柚木がいろいろ準備をしていた。
「柚木、何をしているの?」
「はい、夏基様をお迎えするために酒や珍しい菓子を選んでいたのです」
「いつも通りで構わないわ」
そんなわけいきません、と柚木は力を込めて言った。
「ようやく姫様が夏基様と仲睦ましくなられているのです。しっかりと準備しなければ」
三日の餅を食べてから随分日は経つと思われる。別におもてなしをあれこれ力を入れて何になるのだと思った。
その晩、いつものように夏基はやってきた。柚木が手配した菓子と酒を振る舞い、空を眺めて過ごしていた。
「今宵の月は綺麗だね」
まだ満月とは程遠いが空で白く輝く月の姿は美しく、夜闇を照らしていた。
「ええ………」
眠たげにしている白川殿に夏基はどうしたのだと声をかけた。
「いえ、最近寝る時間を割いて本を読んでいたもので」
「何か面白い物語を手に入れたのかな」
いえと白川殿は俯いて答えようとしなかった。和歌集を詠み、歌の復習をしていたなどとてもではないが言えない。風早中納言はあまり歌のことは気にしない方であり、醜聞が広まってから周囲から求愛されることもなく過ごしていたので歌の勉強を怠ってしまっていたのだ。夏基と文を交わすようになってから夏基が恥と思わないように文をしたためる必要性が出てきて再び勉強するようになっていたのだ。
なんて、恥ずかしくて言えません。
とはいえ、久々に寝る時間も削って勉強してしまったため今日は瞼がとても重く感じられる。柱にもたれ瞼を少し閉ざすとすっと意識を落としてしまった。
「やれやれ、隙をこうみせられると困ってしまうよ」
夏基がそういうが、白川殿は目を開けようとしなかった。




