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よめかわ  作者: ariya
12/14

11 崖の下で

 目を覚ますと土のにおいが鼻についた。白川殿はおもむろに顔をあげる。

 立ち上がろうとしても足に痛みが走り思うように立てない。みれば右足首が腫れていた。

 白川殿は上の方を見つめた。

 崖の高さはそう高くはない。大人の身長にも達していないだろう。だが、立つことが叶わず上で這い上がることは難しかった。

「どうしよう」

 空は先ほどまで晴天であったが、雲が増えあたりに光が消えようとしていた。

 これは雨が降る。

 そう思っていると予想通り雨が降ってきた。

 私は袿を頭に被り少しでも雨から身を守った。少しずつ水を吸い込んできて手足が冷たくなってくるのを感じた。

 どうしてあの時風早中納言の姿を追いかけてしまったのだろうか。それともあれは本当に中納言だったのだろうか。

 自分の寂しい心と不安な心が見せた幻だったのだろうか。

「私、本当にダメね」

 別れを言うと決めたのに彼の幻影を追いかけるなど。どこまで未練がましいのだろうか。

 一人雨に打たれながら心細い気持ちになってくる。


   ◇   ◇   ◇


 雲行きが怪しくなり寺の中で雨宿りしようと白川殿に声をかけようとした夏基は墓場に彼女がいないのに不審に感じた。

 どこに行かれたのだろうか。

 まさか風早中納言の後を追い身投げでもしてしまったのだろうか。

 それを感じるとぞっとした。

「白川殿っ」

 彼女を呼び、墓の周辺を探った。林の中に入り声をあげ彼女の名を呼んだ。

 ふと足をとめ夏基は声をあげるのをやめた。雨の音の中、女性の泣き声が聞こえてきた。


 白川殿………。


 その声の方へ近づくと地面が急になくなっており、崖となっていた。

 下の方をみると白川殿が身に着けていた袿がみえた。そこかた声が漏れているようである。

 崖はそう高くない。簡単に降りれられる。

 夏基はゆっくりと崖を降り、白川殿の傍によった。

「白川殿」

 横からそう声をかけると白川殿は驚いた表情で夏基を見つめた。

「もう大丈夫ですよ」

 そう笑いかけると白川殿はぐしゃぐしゃの顔で夏基にしがみついた。

「さぁ、寺に戻りましょう」

「うん」

 幼い少女のように白川殿は頷いた。はじめてであった姿とは全く違う。これが本来の彼女の姿なのだ。

 そう実感し夏基は彼女が自分の傍から離れないように強く抱きしめた。

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