対決
「紀穂、F伸ばして」
「はい!」
「うーん、ちょっと低いな」
「はい!」
あれからお母さんとも志穂とも喋ってない。むしろ、喋りたくない。
あれから毎日コンビニ弁当だし。お母さん自身も私の分用意してないみたい。……やっぱり、私はいらないって思われてるんだ。
「よしっ。基礎練おわり。10分休憩していいよー」
「「はい!」」
「あれ?チューナーがない……」
「あー、準備室に置いてあったやつじゃない?」
あ、そうかもしれない。さすが麻由里先輩。
「とってきてもいいですか?」
「うん。いってらっしゃい」
「すみません」
あったあった。
さて、さっさと練習にもどろ。
ガラッ。
「紀穂、」
なに、志穂。
「……なに」
「お母さんが、今日話あるから来いって」
「……」
戻ろう。こんな話してたら、練習時間がどんどん削られていく。
バンッ!
志穂が私の背中を強く叩いた。
「ちょっとなに。痛いんだけど」
私が睨んだら、志穂はうつむいた。
「…んないの」
「は?」
「紀穂は志穂が吹部に入った理由、なんでわかんないかなぁ!?」
「なによ! じゃあ聞くけどあんたは私の気持ちがわかるわけ!?」
こんな言い合い、はじめてだ。
志穂はカッとなったのか知らないけど、私を殴った。
しかもグーで。
私ももちろん殴り返した。
なんども殴り合った。はじめてだった。志穂からこんなことしてくるなんて。
「紀穂!?」
千郷先輩。だけど今はそれどころじゃない。
「なによ! 吹部に入った理由!? そんなの私が知るわけないじゃない!」
「紀穂は気づいてないかもだけど、お母さんは2人平等に扱ってくれてるよ! 紀穂が志穂に妬むの、それはただの被害妄想じゃないの!?」
「どういう意味よ!」
ガッ!
最後に志穂が私を突き飛ばし、ドラムと私がぶつかった。私は倒れこんだまま、志穂を蹴った。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
「お前ら、なにしてる!」
うわ。最悪。先生がきた。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」
お母さんは深く教頭センセーにお辞儀して、
私たちをそそくさと車にのせた。
「紀穂。帰ったら話をしましょ」
なぜかお母さんは優しい顔で私に言った。




