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幽霊になった少年は「死」を望む  作者: よくさく木葉
2/2

第1話 勇敢な少年は「死」を迎える

この物語は個人の意見が結構強めに入っているかもしれません

どんな内容でも展開でも下手くそさでも超展開でもご都合主義でも下手くそさでも許せる人だけ、ちらっと読んでください。

「夕日、沈むね」

 オレンジ色に染まる街。その向こうで沈んていく太陽を見ながらユマが呟いた。

「ああ、そうだな」

 何度見ても美しいと思うその光景に目を奪われながらも、ユマの言葉に反応する俺。

 既に誰もいなくなってしまった放課後の教室で、ひと組の男女が沈む夕日を眺めるというなんともロマンチックなシチュエーション。傍から見れば、これから何が起こるのかとドキドキしてしまいそうだ。……俺たちが幽霊じゃなければ、の話だけど。

 全く、幽霊という存在はどんな雰囲気もホラーに変えてしまう厄介な奴だ。

 普通ならロマンチックなこの状況も幽霊がいるだけで、「放課後の教室に佇む幽霊」という怪談的状況になってしまう。といっても、例え俺たちが幽霊じゃなくても相手がユマじゃロマンチックな雰囲気は意味を成さないだろうが。

「お、だいぶ沈んだし、もうそろそろ活動できそうね」

 ウキウキ笑顔でそう言うユマ。幽霊になったからといって性格やらが変わるわけじゃないらしいので、コイツのシンミリブレイカーなところは生前からなのだろう。

 とかとか、まるでユマを理解しているような言振りの俺だが、実はそこまでユマについて知っているわけじゃない。もしかしたらこの状況にしんみりしないのも、もう見慣れた光景だからなのかも知れないし。

 なんたってこいつは俺なんかより長くここで幽霊やってる自称幽霊マイスターだからな。

「今日もやるのか?」

「もっちろん! そのためにナオキはここにいるんだからね!」

「いや、別にいたくているわけじゃないんだが」

「いいえ、きっとそのためにあなたはここにいるに違いないわ!」

「そんな勝手に……。まあ、俺もさっさと『この世』とおさらばしたいし、やるけどさ」

「それじゃあ、今日も特別棟に行きましょうか」

 そう言ってユマは教室から出て行く。

「あ、おい待てよ」

 ユマからあまり離れられない俺は、急いでユマのあとを追う。

 ここから特別棟へ行くには、一度東階段から1階まで降りたあとに体育館の横の廊下を通って――とかなり時間がかかる。他にも特別棟へ行くための道はあるし、そっちの方が断然早い。というか空を飛べて壁などを通り抜けることが出来るのだから外を通って直接向かったほうがもっと早いのだが……ユマ曰くそれはできないとのこと。理由は知らないが、ユマの方が幽霊の先輩なので俺はおとなしくユマの後をついていくことになる。

 というわけで、移動中はユマも会話してくれなくて暇なので、俺はこの空いた時間にあの日のことを思い出してみる。

 一週間前の、末津(まつづ)直樹(なおき)が人間としての生を終えたあの日のことを。そして、幽霊として「この世」に留まる存在となってしまった、あの時のことを。


 ☆

「うわ、雨降ってんじゃん……」

 高校に入学して2週間くらいが経ったある日の放課後の玄関で、俺は久しぶりに降った雨に足止めを食らっていた。

「天気予報じゃ降水確率高くなかったし、さっきまであんなに晴れてたのになぁ」

 そういったのでは俺ではなく、俺と同じように足止めを食らっていた他の男子生徒。

 大きな独り言を喋るその生徒に引き、少し距離をとりながらも心の中ではその発言に共感していた。本当にその通りだよ。

 ここ最近……というかついさっきまで快晴だったのに、いきなりの雨だ。誰かが雨乞いでもしたのかというほど急に降り始めてきやがって。

「どうすっかな……俺傘持ってきてないんだよなー」

 距離を取っても聞こえてくる男子生徒の独り言。

 さらに距離を開けつつ、その発言には共感しない俺。こんなこともあろうかとしっかりと折りたたみ傘をカバンに忍び置かせておいたのだ。……母さんが。まあ俺は天気予報を信じる派……ついさっきまで信じていた派だから、いきなりの雨に備えて置かなかったのも仕方ない。

 さて、そんな折りたたみ傘を持っている、あそこの間抜けな男子生徒とは違う勝ち組の俺が――

「あれ、大智(たいち)そんなとこでなにやってんの?」

「なんだ(あい)か。お前には関係ないことだよ」

「なによその言い方……あ、わかった。大智、あんた傘持ってきてないんでしょ?」

「うるせーな。だったらなんだよ」

「へーそうなんだ。ふーん」

「なにニヤニヤしてんだよ……気持ちわりぃな」

「なっ!? 誰が気持ち悪いですって!!」

「いてっ! いてっ! おい、やめろ傘で叩くな!」

「まったくもう、せっかく人が親切に声かけてあげったてのに!」

「ああ? 親切な奴がニヤニヤしながら人を叩くのかよ」

「そうじゃなくて、せっかく私が勇気を出して……ごにょごにょ」

「え、なんだって? よく聞こえなかったんだが」

「……ああもうなんでもいいでしょ! ほらもう行くよ!」

「いきなり呻いたり叫んだり、お前本当にきも……どうしたんだよ。てか俺傘持ってないんだけど」

「だから…………よ」

「え、なんだって? 小声過ぎて聞こえないんだが」

「だから、入りなさい、よ」

「……は?」

「何度言わせるのよ! この私が傘に入れてあげるって言ってるのよ!」

「……は?」

「あんた耳おかしいんじゃないの。難聴系主人公でも目指してるの?」

「いや目指してねぇし……じゃなくて、なんで俺がお前と同じ傘に入んなきゃなんねぇんだよ」

「なによ……いや、なの?」

「別に嫌だとは……つーかそれぐらいでなくなよ」

「なっ、別に泣いてなんかないし!」

「思いっきり泣いてんじゃねぇか。……あー、もうわかったよ。入ればいいんだろ」

「……は?」

「なにお前難聴系ヒロインでも目指してんの? お前ヒロインって柄じゃねぇのに」

「いや目指してないわよ……って誰が負け幼馴染じゃ!」

「ぐふっ……そ、そんなこと言ってねぇし、いきなり腹殴るなよ……。てか『負け』って何に負けてんだよ……」

「あ、ごめんつい」

「ついで殴るとか本当にヒロインになれねぇタイプだな」

「もう一発いっとく?」

「遠慮しときます。……っと、そろそろ行くか」

「え、どこに?」

「どこって……帰るんだろ? 俺は傘ないんだし、お前が入れてくれるって言ったんだから早くしろよ」

「え、あ、そうだった、わね……」

「ん? どうした?」

「さっきまで入りたくなさそうだったのに、いきなりなんなのよ」

「確かに恥ずかしいから入りたくはねぇけど、傘ないと帰れなねぇし。それに……それに、お前が泣いてると、おばさんが心配するからな」

「大智……」

「ああもう! いいから行くぞ!」

「……うん!」

「…………」

 ――勝ち組の、俺が……なんで、こんなとこに留まっているのかといえば――

「お前の傘なんだからお前が持てよな」

「えー、こういう時は女の子じゃなくて男の子が持つべきでしょー」

「お前女だったのか」

「誰が暴力系負け幼馴染じゃーーーー!」

「ちょ、濡れるから暴れるな! てかそんなこと言ってねぇ! あ、おいこら!」

 雨の中を楽しそうにキャッキャウフフと相合傘をしながら帰っていくカップル。

 ……なんかもう、いいや。持ったぶらずにさっさといってしまおう。そして楽になろう。

 俺は普段自転車通学で、今日も晴れていたわけだからもちろん自転車できた。けど、雨が降っているのでどうしようかと考えていたのだ。流石に傘差し運転をするわけにもいかないし、何より今は無性に家に帰りたくなっている。家に帰って、部屋にこもって、ベッドのなかで一人になりたい。

 ということで自転車は学校においたまま、歩いて帰ろう。一人で、ひとりぼっりで。

「…………」

 急に雨なんきゃ降らなければ、俺がこんな思いをすることもなかったのにな……。

 テンションダダ下がりのままカバンから折りたたみ傘を取り出し、開く――

「……開かねぇ」

 どうやら壊れているようで、どうやっても開かない。つまり傘が使えない。

 雨の様子を見る。傘を差さなければ濡れてしまうが、土砂降りというわけでもなく、差さなくても帰れそうと判断する。

「……走るかぁ」

 もう少し待てば弱まるかもと思ったけど、先ほどの光景はよほど俺の精神にダメージを与えたようで、もう何が何でも帰りたかった。

 「あ、傘使わないなら自転車乗れば良かった」と気づいたのは、校門からでてしばらくたった頃だった。


 ★

「うわぁ~、もうずぶ濡れだよー」

「流石にこの雨にあの傘じゃ二人はきつかったか」

 家まであと半分というところまで来たというのに、急激に強くなった雨のせいでそれ以上進めずにいた。流石に土砂降りじゃ傘がないと無理だ。雨が当たると痛いし水が目に入って前が見えなくなるし。

 ということで、現在俺はシャッターの下りた店のような建物の前で雨宿りをしている。このあたりは寂れていて、ビルなどが多く建っている割にはどれもこれも明かりが灯っていない。真っ暗というわけではないが薄暗い。

「なんか……こんなに暗いとなにか出そうよね……」

「あー、お前昔からそういうの苦手だったよな」

「なっ、別にお化けとか怖くないし!」

「俺はお化けとは一言も言ってないんだが?」

「うっ……」

「それに幽霊じゃなくてお化けって……子供か」

「うぅぅ……」

 ちなみにあのカップルもいる。なんでか知らんけど、運悪くまた出会ってしまったのだ。……イチャイチャしやがって。

「しっかし……雨本当にひどくなったな」

「いつ止むのかな」

「このままだとお化けが出ちゃうもんな?」

「も、もう! からかわないでよ!」

「あはは。わりぃわりぃ」

「はぁ……なんか大智がそんなこと言うから本当に怖くなってきちゃった」

「お化けなんていないし、いたとしても俺が何とかしてやるから安心しろよ」

「っ! な、何言ってんのよ! 大智なんかに守ってもらわなくても平気なんだからね!」

「はいはい」

 イチャイチャ。イライラ。

 リア充めが……べ、別に羨んでなんかいないし。彼女いない歴=年齢だけど羨ましくないし。むしろ恨ましいし。

「……ん?」

「ど、どうしたの大智」

「いや、あそこ……誰か歩いてないか?」

「なななななな何言ってるのよ。誰も見えないんだからっ!」

「そりゃ俺の腕にしがみついて目を瞑ってたら何も見えないだろうよ。まあいいから見てみろって」

「え、えぇ……」

 彼女の方が男子生徒の指差す先を見る。俺もつられてそちらの方を見る。

 うーん……あ、いた。土砂降りの雨のせいでよくは見えないけど、確かに道路を挟んで向こう側に人らしき影がある。

「ホントだ……」

「な、いただろ」

「うん……でも、それがなによ」

「なにって?」

「だから、人がいたからどうしったていうのよ。別にこの雨の中歩いている人がいてもおかしくないじゃない」

「そりゃそうだけど……この状況なら藍は何見ても怖がるかなって」

「大智、サイテー。というか私怖くないし。怖がらないし」

「いや、さっき俺の腕にしがみついていたのはどこの誰だよ」

「わ、私じゃないし。私じゃない誰かだし」

「なんだそれ。こえーな」

 イチャイチャ。イライラ。ムカムカ。

 隣でいちゃついているカップルの話にこれ以上耳を傾けていると精神がもちそうにないので、俺は別のことに意識を集中させることにした。

 雨とかで音がかき消されてると、なんだか耳に聞こえてきたかすかな音とかに無駄に集中してしまうことってあるよね。え、ない? 俺はあるんだけどなぁ……。

 まあなんにせよ、俺はカップルの会話を耳に入れないように、他の音を探すように耳を澄ませていると

 ――キンッ

 と金属同士がぶつかるような音が耳に入ってきた。

「?」

 どこから聞こえたのだろうと辺りを見渡してみる。

 カップルはお喋りを続けている。ただ単に気にしていなかったかもしれないし、お喋りで聞こえていなかっただけかもしれない。しかしそのどちらでもなく、耳を澄ませていた俺にしか聞こえていなかった音だとしたら、音の発生源はこのあたりではないということだ。

 ならどこからだろうともう一度耳を澄ませてみる。

「…………」

 カップルの声と雨音以外は特に何も聞こえない。

 聞き間違えだったのか……? まあ2度目が聞こえないということはそういうことなのだろう。それか特に気にする必要もない音か。というか金属同士のぶつかる音なんて、よくよく考えれば発生源を探すほど重要なことでもないな。

 ――ガシャン!

 また聞こえた。それもさっきより大きく、激しい金属の音。

「今の音なんだろ」

 カップルの彼女がそう呟く。どうやら俺の聞き間違えではなく、この音はしっかりと周りにも聞こえていたようだ。

「さあ? どっかでお化けがドンチャン騒ぎでもしてるんじゃね?」

「もう、またそんなこと言って」

「ははは、冗談だよ。この雨だし、風も強いし、どこかの看板からじゃないか? このあたりビル多いしな」

「看板ってこんな音がするんだ……」

「まあ金属だしどこかにぶつかればこんな音も出んだろ」

「ぶつかるって、看板って固定されてなかったっけ」

「この辺寂れてっしなー。老朽化でボロボロなんだろ。そのうち看板が上から落ちてきたりしてな」

 男子生徒が笑いながらそんな事を言う。もしそれが現実となったら、笑えないだろうな。

 と、ここでまた先ほどと似たような音がする。

 はてさて、さっき音を聞いた時から発生源を探っていたからなのか、それとも男子生徒がそんな話をしていたからだろうか。どっちかなんてわかんないし、もうどっちでもいい。だって今は、そんな場合じゃないから。

「マジかよ……」

 そう発したのはカップルの彼女でも、男子生徒でもなく、俺だった。いや、もしかしたら全員だったかもしれない。

 なぜなら、俺たちの目の前で、男子生徒が話したようなことが起きようとしていたから。道路を挟んで向こう側にあるビルの、屋上あたりに設置されていた看板が、音を立てて、今にも落ちそうだったから。

 あんなのが自分たちの上にでも落ちてきたらひとたまりもないだろうと、あれが俺の上で起こっていることじゃなくて良かったと。そんなのんきなことを思えたのも一瞬のことで、俺はすぐに事の重大さに気がついた。

 道路の向こう側、といえばさっき男子生徒が人影が見えるといった場所。さっき人影を見かけた位置からあの看板のビルまではそう離れてはいなく、あの歩いていた人影の向かっていった方向とペース的には今頃ちょうど

「大智! あれさっきの影じゃないの!?」

 彼女が指さした場所は看板が今にも落ちそうなビルの下あたり、そしてそこにいた人影。

「おい、危ないぞ!」

 男子生徒が声をかけるが雨音のせいで聞こえていないのか、人影はそこから動かない。……いや、動けないのかもしれない。俺たちの声が聞こえなくても、俺たちのところまで聞こえたあの音は聞こえたはずだ。ということはあの人影は音の発生源を確認しようとして上を向いたまま、恐怖で動けなくなったとかそんな感じじゃないだろうか。その証拠に、人影は手に持っていた傘を落とし上を向いている……ように見えるのだから。


『人はいくつかのタイプに分けられる』


 頭の中に思い浮かんだのはそんなフレーズ。確か昨日ネットで見かけたフレーズだ。


『それは思いもよらない場面、緊急時に表に出てくる』


 なんでいきなりこんなフレーズか思い浮かぶのかとも思ったが、なるほど。今がそんな思いもよらない場面だからか。


『真っ先に逃げ出そうとするタイプ』

『とりあえず考えるタイプ』

『誰かを頼るタイプ』

『誰かに指示するタイプ』

『意味もなく騒ぐタイプ』

『考えなしに突っ込むタイプ』


 あのサイトに書かれていたタイプ分け、読んでいるときはなるほどと思ってたけど、よく考えればタイプ分けされているようで全然されてないな。

 しかしまあ、だからといって間違っているわけじゃないんだろう。だって、

「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 その人影に向かって全力で走りだした俺は、確実に『考えなしに突っ込むタイプ』だろうし。


 ★★

 あの後どうしたのか、自分でもよく覚えていない。

 たぶんあの人影に体当たりでもして看板の落下地点から外したとかそんな感じ。で、その代わりに自分が看板の下敷きになったとかそんな感じ。……だと思う。

 朧気な記憶の彼方に、全身が押しつぶされるような激しい痛みと、少し離れたあたりで尻餅をついている誰かがこっちを見ている映像が残っている。それらから考えて、俺がその人影を助けて代わりに押しつぶされてしまったということは確かだ。

 そしてあんな大きな看板があの高さか落ちてきて、その下敷きになった俺が助からなかったというか、即死だったのも確かだ。なぜなら自分のことだからな。よくわかる。

 まあそれはどうでもいいんだ。いや、人生が終了したことはどうでもよくないけど、今となっては過ぎたこと。死人の俺にとっては重要なことじゃない。

 じゃあ死人の俺に何が重要かといえば、そりゃ死んでからのことだろ。

 特に何かの宗教に肩入れしているわけではないけど、死んだ人間がどうなるのかってのは興味がある。天からの使いに導かれて、「あの世」とやらにでも連れて行かれるのか。はたまた死者の国があって、そこで第二の人生でも始めるのか。もしかしたら神的な存在に一度吸収されるのかもしれないし、その後新しい命を授かって転生するのかもしれない。それか、何にもならない、いわゆる「無」という存在になるのかもしれない。

 まあなんにせよ、「この世」とおさらばして何処か違う場所に行くとか存在になるとか、そんな感じだと思っていたし、そうであるべきだと考えていた。


 だから俺は、今この状況が理解できないし、この状態を受け入れたくない。


「しばらく彷徨っていた感想はどうかしら、新人クン」

 どこかの屋上らしき場所に俺はいて、目の前には小学生だか中学生くらいの少女が偉そうに立っている。

 空には月が出ており、幾多の星が輝いていた。そのせいなのかはわからないけど、少女の体、そして俺の体も淡く光っているように感じられる。

「俺、死んだはずじゃ」

 心の中で思い浮かべていた、そんな疑問が口からこぼれる。

「ええ、あなたは確かに死んだわよ」

 少女のその言葉で、自分が死んだということが間違っていないと認識する。しかし、疑問は消えない。

 死んだというのに、なぜ俺はこんなところにいるんだろうか。もしかすると、「この世」にとても良く似たここは既に「あの世」的な場所だとか。それか、むしろこれから「あの世」的な場所に連れてかれるとか。で、この少女はその使い的な存在だとか。

「……ここは『あの世』みたいな死後の世界じゃなくて、正真正銘あなたが生きてきた世界よ。それと、私は『あの世』からの使者じゃないし、これからあなたが『あの世』に行くなんてこともないわ」

 「まあ、死者ではあるんだけどね。フフフ」と最後に付け足されたシャレみたいなセリフは無視して――って、無視できねぇな。こいつも死者なのか。

 とまあそれは置いておいて。なんで俺の思っていることが分かるんだとか、死んだはずの俺……あと死者らしいあんたがなんで『この世』にまだ存在してるんだとか、色々と聞きたいことがある。

 しかしそんな考えもわかっているのか、俺が何か聞く前に少女が答える。

「私があなたの考えていることがわかるんじゃないの。あなたの顔に全て書いてあるから、私がわかるのよ」

 バッと顔を押さえる。マジか。俺そんな顔に出やすいのか。というか「顔に書いてある」ってそこまで的中率が高いものだったのか。

「あはは! 本当に信じて顔隠すやつ初めて見たわ!」

 少女が俺を指さしながら腹を抱えて笑う。

 ……からかわれたのか! こんな少女に! 間抜けすぎる、マヌケすぎるぞ俺。今度は恥ずかしさで顔を覆いたくなってきた。

「あー、笑った笑った。……まあ冗談はこのあたりにしておいて」

 少女がキリッとした顔つきになって仕切り直す。……口元がまだニヤついているせいで妙に仕切り直されていない。というかもうシリアス気味の空気に戻すのは不可能だと思う。

「顔を見れば混乱しているのはわかったし、あなたみたいに死んだばかりの人はみんな似たようなことを考えるからね。だいたい予想して答えたというわけよ」

 ……顔に出やすいのは本当だったみたいだ。いや、まあこんな状況で感情を隠せるほど余裕ないし隠す理由もないし。

「……で、俺、死んだんだよな?」

「ええ、そうよ」

「あんたも、死んでるんだよな?」

「ええ、あなたよりずっと前にね」

 「ずっと前」……なるほど。見た目が少女でも、中身が必ずそうだとは限らないのか。そう思えばさっきからかわれたのも恥ずかしくない――こともないな、うん。年下だろうが年上だろうが普通に恥ずかしい。

 って今はそんなことはどうでもいいんだ。「ずっと前」ということは、この少女は長い間「この世」に留まっていたということだ。もう死んでいるというのに。

「なんで……なんで、死んだ奴がまだここにいるんだよ!」

 自然と声が荒らぐ。

 俺は幽霊というものを信じていない。というのは、死者が生者の世界である「この世」に存在するのが許せない、ということだ。別に昔幽霊によって不幸な目にあったとか、名のあるその道の一族の末裔で幽霊を根絶やしにする使命を負っているとか、そんなことはない。そもそも「幽霊」という存在を否定しているのだ。

 なぜそこまで頑なに幽霊を拒絶しているのかと聞かれても困る。自分でもわからないからだ。でも気づいたときには「死者の魂は囚われてはいけない」という信念のもと「幽霊」という存在はいてはいけない、存在していないと考えるようになっていた。

 再度言うが、俺は特になにかの宗教に肩入れしているわけではない。

「俺は幽霊なんて馬鹿げた存在は認めない! なりたくもない!」

 もう前世の俺がそういう宗教に所属していたんじゃないかとすら思えるほど異常なまでのその考えを持つ俺が、幽霊なんて存在になって落ち着いていられるわけも無く、喚き散らす。

 自分でもなにを言ったのかは覚えてないけど、とにかく「幽霊」に対する罵声だったと思う。……「死者」に対する、罵声だったと、思う。

 ――パチン

 静かな夜の屋上で、その音は良く響く。

「あなた、さっきから『幽霊は存在するな』とか勝手なこと言ってるけど」

 少女が俺の頬を思いっきり叩いた。生きているうちに経験することのなかったビンタを、まさか死んでから経験することになるとは思ってなかった俺は、文句を言うのも忘れて唖然とする。……少女の、真剣な、それでいて複雑な表情を見たせいで、何も言えなくなったというのもあるけど。

「幽霊が、そんなに悪いことなの?」

「幽霊なんて、存在していいはずない、だろ」

 弱気になりながらも自分の主張を押す。

 ――パチン

 もう一度ビンタされた。さっきよりも強い気がする。

「確かに幽霊はもう死んでいる、『この世』の存在じゃないわ」

「……ああ」

「でも、幽霊が存在することが、そんなに悪いことなの?」

「…………」

「幽霊が、わたしが――」

 何も言えない。何も言ってはいけないような気がしていたから。少女の顔が、何も言わせてくれないほど真剣で、その口から発せられた言葉が――

「好きで存在していると、思ってるの?」

 ――深く、胸に突き刺さる。

 その言葉を言った少女は、どんな気持ちだったのだろう。少なくとも、訳も分からず「幽霊」を否定していた俺の言葉よりは重く、そして気持ちが込められていた。

 「ずっと前」、一体どのくらい前のことなのかはわからない。でもきっとすごく前だ。そしてその「ずっと前」から「今」に至るまで、幽霊になったばかりの俺なんかじゃ理解もできない思いを抱えていたわけで。

「わたしも幽霊はいない方がいいと思っているわ。でもそれはあなたとは違って、幽霊にならなくて済むことを願って」

 確かに少女の言う通りだ。

「幽霊になるってことはそれだけの理由があるの。そんな理由も持ったまま死ぬなんて辛いでしょ」

 俺はわけのわからない信念に囚われ過ぎて、人として大事なことを忘れていた。

「好きで幽霊になった人なんて、いないのよ」

 そりゃそうだ。だって

「幽霊を否定していたあなたも、なりたくてなったわけじゃないでしょう? 幽霊に」

「……当たり前だ」

 幽霊になりたくないと思っていても、なってしまう人はいるんだ。俺とかな。


 幽霊というのは、「この世」に存在してはならない。死者の魂は囚われてはならない。

 俺の中にあったその信念を、俺は勝手に、自分のいいように解釈していたのかもしれない。

 幽霊というのは、「この世」に存在してはならない。幽霊というものは、強い想いを持った抱き、この世界に囚われてしまった、死んでも死にきれない存在だから。死者の魂は囚われてはならない。こんな辛い思いをさせてはならない、楽でないといけない。


「ほっぺ、いてぇなぁ……」

 少女に叩かれた頬を押さえる。もう死んでるというのに、死んだ時にあれだけ痛い思いをしたというのに、まだ「痛い」という感覚が残っている。

 「幽霊」は死んだのにこの世界にしがみついて好き勝手にやっている、そんな創作の中で見る悪霊みたいなものかと思っていたけど、そうではないらしい。

「死んだからって、辛いことからは逃げられないの」

「……幽霊も、大変なんだな」

「ええ、そうよ。わかってくれたかしら?」

 「痛い」ほどよくわかった。幽霊も人間とそこまで変わらないということと、生きてても死んでても辛いことがあるということと。

「そしてあなたもこれからそんな幽霊の仲間入り。よろしくね、新人クン」

「……よろしくしたくねぇな」

「そんなこと言わないで、仲良くしましょう。長い付き合いになるんだから」

 少女が右手を突き出す。

「……直樹だ。幽霊を認めるわけじゃないし、『この世』に留まるのも許せないし嫌だけど、まあ、理由しだいでは我慢する」

 そう言いながら俺は右手を差し出す。

「一体何様よと言いたいところだけど――まあいいわ」

 少女が俺の右手を強く握り

「わたしはユマ。幽霊マイスターのわたしがあなたにいろいろ教えてあげるから、協力しなさい」

 俺はなりたくもない幽霊になった。でも、自分を幽霊マイスターと名乗る少女ユマと出会ったことで、何かが変わる。そう思うと、なんだか幽霊になったのもそこまで悪くはない気がした。

ウッスオラ木葉ダゾ!

第1話投稿終了時点で第2話が投稿されるのか自分でもわからない状態っす。

いやね、書きたいとは思うのだよ。しかし、しかしだね、頭の中に住み着いたネタの泉の女神さまが邪魔してくんねん。


「幽霊」を主人公にしたのはいいけど、イマイチ扱いきれなくて困ってます。

あと物語のオチすら考えずに書き始めたので終着点が見えずに困ってます。

それと今更の話自分にあった小説の書き方がわからなくて困ってます。

全部自分の責任ですね、はい。でもこれらの課題をクリアしなければ次話が投稿されることは……なくはないけど当分先になりそうっす。

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