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memento mori  作者: 麻埜ぼったー
2/10

2

「雨、やみませんね」


唐突に通路を挟んで隣の座席にいる女性が声をかけてきた。

自分と同じくらいの歳だろうか。現実離れした金色の髪と青い目をしていた。


容姿からするに外国人なのだろう。

脱色やカラーコンタクトといった人工的なものとは違う。ハッとするような美しさだ。


思わずじろじろとその姿を見てしまう。



「もうどのくらいになりますっけ」


続けられた言葉にふい と意識が現実に引き戻される。

無遠慮な視線にさして気分を害した様子もなく、薄らと笑みを唇に乗せていた。


きっと慣れているのだろう。

この見た目だ。外国人慣れしていない日本人なら……いや、そうでなくても自分のような態度をする奴ばかりじゃあないだろうか。



「ふた月くらいじゃなかったですか? 異常気象って何だか怖いですよね」


そう、雪が降らなくなったと思ったら雨が降り出したんだ。それから勢いこそ違えど、一日たりと雨が途切れたことはない。

川は溢れかえり、ダムは最早機能しているのかすら怪しい。

どこぞでは民家が流されたという。この先の生活がどうなるのか、皆が皆不安を抱えながら過ごしていた。

まぁ叶多にその不安を分かち合うような相手はいなかったのだが。



「もう、ふた月になるんですね……」


長い睫毛を伏せるその表情すら絵になった。まるで同じ人間だと思えないくらいに。




ふと、思う。彼女はなぜ平日のこの時間にこんなところに居るのだろうか。

こんなきれいな人間が自分と同じような境遇にいるとは思えなかった。



「そういえば……あ、いや」


それを直接尋ねるのも失礼だろう。

第一名前すら知らない。なんと話しかければいいのか、まず普通に会話をしていいものかも――相手から話しかけられたとはいえ まるでわからない。

大体名前を名乗るような関係性じゃないのだ。このバスを降りたらもう会うこともない。それが無性に勿体なく感じて、そのことに恥じる。

意識とは別のところが自分の口を不自然にまごつかせた。


「ふふ」


それが滑稽だったのだろう。

伏せられた睫毛は再び青い月を縁取った。



どうにも恰好がつかない。目の下が妙な熱を持つ。

人に恰好をつけようと思うのすらいつぶりだろうと頭の端で考えた。




その時だった。


ガタリ と車体が大きく揺れる。


「ぅわっ」


揺れを認識した瞬間。反射的に目の前の取っ手を掴むが、勢いの乗った自分の体重を支え切ることはかなわず 空しく指先がすべった。

体が宙を浮く。どこか懐かしい感覚だった。



「波だ!」


誰かが叫ぶ声が、どこか遠くで聞こえた。

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