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『ニュース速報です』
『2ヶ月前の3月25日、○○川で遺体で発見されたバスの運転手が運転していたバスが本日発見されました』
『運転手の発見された川の上流にあたる山間の川に沈んでいたようです。山道で運転を誤り落下したとみられ――』
『近隣地域での捜索依頼が全く出ていないことから乗客はいなかったのでは……と考えられていましたが、バスの中には4名の遺体が確認され――』
「所持品等から個人が特定されたらしいですね」
「でも皆身寄りという身寄りがないってことで、遺体の引き取り手がないという話ですよ」
「それで捜索依頼もなかったんですねぇ」
「いやぁ、嫌な話ですね……現代の闇といいますか」
『発見された遺体の死因は外傷性ではなく餓死や溺死、凍死だったそうで、もっと発見が早ければ……と思うと心が痛みますね』
「もしもそのうちの誰か一人でもちゃんと探されていたら、発見は早くなったんですかねぇ……」
「怖いね叶多。ね、聞いてる?」
「聞いてるよ」
物騒なニュースだった。少なくとも、恋人と二人の時間に見るようなものではない。
叶多はチャンネルを変えるべくリモコンを手に取った。
「身寄りが無くて、誰も誰にも探されてなかったって」
どうやら恋人はこの話題に食いついてしまったらしい。番組が変わったあとも表情を変えるでもなく続けてくる。
あまり気のりしないままに「らしいね」と返した。
「叶多も早くご両親と仲直りした方が良いと思うよ? 何かあった時助けてくれる、自分を好いてくれてる自分以外の誰かは必要だよ」
「なんだよ、今更。律がいるだろ」
本当に今更だ。そんな気がないってことは何回も――言った、か?
記憶が混乱する。そういう話を律としたことがあっただろうか。
「うん、そうだね。 だから、助けてあげたでしょう?」
「……」
「え、……俺、お前に助けられたことって、あったっけ?」
ニコリと笑った恋人がその問いに言葉を返すことは無かった。