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memento mori  作者: 麻埜ぼったー
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分厚い雲が切れ目なく空を覆っている。

光を拒むように。街を飲み込もうとするように。


降り続ける雨は、止むことを忘れてどのくらいになるだろうか。

本来なら日が高く上がっているだろう時間にも関わらずバスの窓から見える景色は薄ら暗く、まるで季節感というものを感じさせない。


今は何月だっただろうかとぼんやりと考える。

……5月。春だ。桜は見なかった。花を開く前に無粋な雨に叩き落されてしまったのかもしれない。



何気なく腕時計を眺めると短い針は9を指していた。

車内にごったがえしているイメージのある学生や社会人たちは既にそれぞれの持ち場に着いている時間だ。

雨のせいなのか車通りも少ない。このペースだと予定より早く職場――アルバイトだが に辿り着くだろう。


本来ならば、自分も大学で講義を受けている時間だったかもしれない。

雨を理由に大学をサボって、家に閉じこもっていても許されていたのかもしれない。





……何が本来ならば、だろうか。自分が今こうしていることは全て自己責任、なるべくしてなったのではないか。

俺――如月叶多は浪人生をしている。フリーターとも言う。


子供の頃から夢は医者だった。ただうちは一般家庭で……ともすれば一般よりも貧しい方だったんじゃないかとも思う。

親にはそれはもう反対された。どんだけ金がかかると思ってるんだ、と。


元々親との仲はあまりいい方じゃなかった。酒飲みの父は特に好きになれなかった。




高校3年、進路希望を固めた俺は家を出た。親は何も言ってこなかった。

それまで勉強ばかりしていた俺にはこれといって仲のいい友人もおらず、それはもう孤独な戦いだった。




そしてつい数ヶ月前、戦争に敗れた俺の新しい戦場はアパートからバスで30分のドラッグストアだ。







いっそのことランクの低い大学に行くことも考えた。すべてを諦めて就職することも考えた。

でもそれはプライドが許せなかった。


小煩い親や見栄を張らなきゃいけない友人なんていう、自分に後ろ指をさしてくるような存在なんてない。

自分に関心を持ってわざわざ馬鹿にしてくるような人もいない。


それでもそこで諦めることでいつか誰かに貶されることが怖かった。

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