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第二十一話 呼び出し




「リニャ様!」


 助けに行こうと女騎士が剣を振るが、サハギンたちはここぞとばかりに力を入れてくる。

 嫌な魔力が生まれる。


「あんた、下がれ!」


 声を荒げると、女騎士も遅れて気づいた。

 サハギンの口に魔法陣が生まれる。

 放たれた水鉄砲に、女騎士は派手に吹き飛ばされる。

 サハギンたちは、このタイミングで奥の手を隠していたのか。

 剣で水鉄砲を払うと、衝撃こそあったがダメージはそこまでない。

 これなら――。


「……くっ! リニャ様! いま行きます!」

「私のことはいいわ! さっさと逃げなさい! うわきゃ!?」


 叫んだリニャはそのままさらにずるずると連れて行かれる。川までの距離もあとわずかだ。

 水が付着しているせいか、リニャはまるで動ける様子がない。

 ……水ってここまで効果があるんだな。俺は普段、一瞬しかぶつけていなかったが、長時間つけられるようにすれば、それだけで無力化できるのか。


 誰も助けにいけないのは近づけば、サハギンの水鉄砲の餌食になるからだ。

 ……あのカエルめ! ぬるぬるとリニャの体をいやらしく舐めており、なんとも目に悪い。

 このまま放っておけば敵の戦力が大幅に減るが、まあ女を放っておくわけにはいかないよな。


 さっき助けてもらった恩もあるし。

 よし、やるか……っ。

 俺はリュックサックを近くの冒険者に投げ渡し、一気に駆けだす。サハギンの攻撃が飛んでくるが、剣で捌き、拳で魔力を奪っていく。

 痛みはあったが、水魔法ならば対応できなくはない。

 サハギンの列を抜ける。


 そのまま真っ直ぐにカエルへと迫り、その舌へと剣を振りぬく。カエルは即座にリニャから舌をはずし、俺へ鞭のように叩きつけてくる。

 剣で斬ろうとしたが……硬い!

 まるで剣と打ち合ったよな音ともに、俺の体が弾かれる。解放されたリニャがどうにか立ち上がろうとしたが、しなるように伸びた舌が彼女の体を掴んで、川へと引きずっていく。

 まったく……ざっけんなよ!

 戦う前から俺の奥の手を敵にばらしていくとか、ふざけんなよ!

 カナリーも大切だが、リニャだってお世話になったし、助けない道理はない。

 

 川へと飛び込み、カエルと泳いでいく。リニャは……気を失ってしまっているようだ。

 水の中に落とされた人間はこうなるのか、俺もあがってからちょっと演技をする必要があるな。

 川は意外と深く、あんな気持ちの悪いカエルがいるにもかかわらず綺麗な色をしている。

 俺は麻痺粉の用意をし、カエルへと一気に迫る。

 剣を振りぬくが地上とは比べ物にならない威力だ。しかし、カエルがこちらを向く。


「ゲゴ!」


 苛立ったように鳴いたカエルへ、俺は麻痺粉を口から放つ。水にまざって効果があるかどうかは疑問があったが、カエルは呼吸したようで動きが止まる。

 その体に剣を何度も突き刺すと、カエルの紫の液体が川を汚していく。

 呼吸の限界だ。

 俺はリニャを抱えて、地上を目指す。

 

「は!」


 あ、あぶねぇ。

 もうちょっとで俺まで溺れて死ぬところだった。ぬれたリニャを見やりながら、川へと引きずっていく。

 リニャの体を上へとあげ、俺もあがろうとしたところで、俺の足が何かに掴まれる。

 ……まさか、最悪だ!


 俺が手をあげるが、体は川へと一気に引きずり込まれてしまう。

 ……さっきのサハギンのスキルもらっておけばよかったぜ。

 何て後悔しながら、俺は血みどろのカエルと二回戦を始める。

 つっても、舌に捕まってしまっているためにやれることは少ない。

 舌に巻き取られた俺は、振り回し攻撃で壁へと叩きつけられる。

 痛みはあったが、貴重な肺の空気を吐き出すわけにはいかない。

 

 根性で耐えながら、俺は毒霧と麻痺粉の用意をしてじっとチャンスを窺う。

 カエルが舌を巻く。一番近づいたその瞬間に、剣をカエルへと突き刺した。

 怯んだカエルの口に毒霧と麻痺粉の両方をぶちこむ。

 カエルが舌を外し、俺は急いで泳ぐ。

 今度こそ、問題なく川へとあがれる――。

 光へと顔を出し、一気に陸へあがる。

 服が水を吸ったせいでびっしょりだ。

 あがったところには、サハギンが二体いた。


 こんにちは……ちょっと横失礼しますね。ではすまないっての!

 その後方には女騎士がいるのもわかっている。こいつらさえしのげば!

 俺は気力を振り絞り、至近距離で放たれそうになった魔法を破壊して剣を喉へと突き刺す。

 もう一体のサハギンの攻撃をモロにくらったが、ゴーレムのおかげか気を失わなくてすむ。

 ていうか、気合とともに体を維持していると、女騎士に支えられる。


「大丈夫ですか!?」

「……だ、ダメかも」

「が、頑張ってください!」

 

 肩を貸してもらう形で歩いていく。

 ……水は大丈夫なんだけど、カエルと今のサハギンの攻撃で体力的にきつい。

 だが、右手が鎧越しではあったが女騎士の胸にあたっている。

 こ、これは……。

 ちょっとばかりの役得だ。黙っていたら殴られそうだけど、このくらい報酬でもらってもいいよね。


 そのまま真っ直ぐに脱出用転移魔法陣へと向かい、どうにか俺たちは帰還した。

 


 ○



 疲労こそあったが、俺は意識を手放すことはなかった。

 スマホが破壊されなければ変装が解かれることはない。だが、気を失ってしまうと何をされるかわからないからな。

 ギルドで報酬をもらったあと、女騎士たちから何度も感謝を伝えられる。

 次からは気をつけてくれ、とだけ伝えて俺も疲れた体を引きずるようにして、どうにか宿へと到着する。

 水に落ちてもそれなりに耐性があったことは、小さい頃に一度川に落ちてしまったことがあるからとか言っておいた。

 適当な嘘であったが、何でもそういう実験が過去に行われたことがあるようで、意外にもすんなりと受け入れられた。


 宿についたところで、俺は濡れた体を洗いなおすために、公衆浴場へ向かう。

 ……それにしても、本当に水がダメなんだな。

 ポチャンポチャンと風呂を叩いて遊びながら、迷宮での出来事を思い出す。

 例えば、この浴場は魔力を追加する魔道具により、人々は風呂を楽しむことができている。


 だが、その魔道具が故障した場合……大惨事になるな。

 町にも川はあるが、その川の入り口近くには、魔力を追加するための魔道具が設置されている。

 ……そこは、女騎士達が常に見張っているが、それを破壊すればもしかしたらこの町の機能が一時的にストップするかもしれない。


 スマホは言っていた。やり方は色々あると。

 裏工作はあんまり好きじゃないけど、俺は一人なんだ。

 やれること全部やらないと、とてもカナリーを助け出すことなんてできないよな。

 風呂からあがり、スマホを取りだす。


『……びしょびしょになりました。あの女を助けたのは一体どういう心境で?』

「女の子を放っておくなんてできないからな」

『仮にも敵ですよ?』

「あのときは仲間だっただろ?」

『……マスターはその変がちょっと甘いですね。もっと非情にならないといけませんよ。……まあ、ちっちゃいのを助け出せなくても構いませんがね』

「おまえってなんかちょっと冷たいよな」

『安心してください。マスターには激甘で行きますから』

「その一割くらいを周りに向けてくれないか? むしろ俺は厳しいのも慣れているから、そんなに気を遣わなくても」

『マスターは厳しいのがお好きと。更新しておきます』

「それだとただのドMになっちゃうから。俺は今までの扱いが厳しい感じだったからな。あんまり優しくされるのは慣れねぇの」


 思えばこっちにきてからもカナリーには冷たい目を向けられるし、リンゴには嘆息されてばかりだった。


『とにかく、危険に突っこむ場合はもう少し考えてから行動してください。それと、ちっちゃいの救出作戦は思いついたのですか?』

「まあ、色々と思案しているよ。成功するかはともかくな」

『マスターはこれから騎士団を相手にするんですから、出来ることのすべてをやってみるのが良いと思いますよ。どれかは成功しますし、ほとんどは失敗するはずです。けど、マスターならきっとできます』

「ありがとな。元気出たよ」

『ふふん』


 スマホにお礼をしてから部屋へと入る。

 リンゴと合流して、情報をいくつか聞いてみたが、リンゴを狙った理由は、俺が聞いたものとそう変わらないことがわかった。


『カナリーがいる場所だが、どうにも地下のようだ。地上からの臭いがなくなっていて、かすかに下から届く程度だがな』

「……地下、か。穴を掘れるような力があれば、いいんだけどな」

『さすがにヘビに掘ってもらうのはきついか?』

「きっついだろうな。失敗したら、その時点でかなり危険だし」


 せっかくカナリーの居場所がわかっているのだから、別の場所へ移動されるようなことは避けたい。


『それよりもだ。この服になってからというもの、すれ違う子どもに触れる機会が増えたんだが?』

「ようやくワンコとして見てもらえるようになったってことだろ? よかったじゃねぇか」

『良いわけがあるか。おかげで何度も目立ち、騎士に怯えていたのだからな?』


 ……リンゴもリンゴで苦労があったのか。

 情報交換を終え、リンゴには買ってきておいた食事を渡す。

 俺も一階におり、宿で食事を頂いてから、眠りについた。



 ○



 次の日。ギルドを訪れた俺の元に女騎士がやってきた。

 軽い一礼の後、彼女は手をこちらへと伸ばしてきた。


「出来れば、城のほうへと来てほしいんだけど……今は時間はあるか?」


 優しい言い方であるが、だからこそかえってあれこれ疑ってしまった。

 騎士の目は厳しいままだ。

 ……これは、俺に警戒しているのか?


「えと……その」


 ……俺のことがばれた……とか?

 いやいや。そんなことはないはずだ。まだ変装だってしているし。

 それでも、不安を完全に拭い去ることはできない。かといって、逃げ出すわけにもいかない。

 逃げ出せば、やましいことがあるとばれてしまう……。


「大丈夫、です」


 俺は出来る限り穏やかな表情で頷いた。

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