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第二十話 迷宮の戦闘

 入った瞬間、騎士は周囲をなぎ払うような風を放つ。

 そこまでかするか、とも思ったけど、風には大量の魔物が飲み込まれている。

 俺も剣を持って走り出す。

 どんどん冒険者たちが入ってくるため、入り口で固まっているわけにはいかない。

 迷宮の景色は先ほどまでいた大地と変わらない。

 しかし、空は紫色だ。それだけで、違いは明確となる。

 

 ウルフ……とは少し違う色をした魔物がいた。

 噛み付きを寸前でかわし、脇から切り上げる。


「動きが大きすぎるわよ。もっと小さく動きなさい!」


 リニャの指摘に軽く頷きながら、右足で踏ん張って体を止める。

 そのまま両手で剣を持って振り下ろす。着地した瞬間のウルフ亜種を切り伏せることに成功する。

 スマホで確認すれば、魔物の情報などはわかるが、今は操作している余裕はない。

 騎士たちの戦いをみながら、俺は手の足りていない場所や、苦戦していると思われる場所へと力を貸す。


 全体を見るのはそれなりに得意だ。ずっと、気にしながら戦ってきたおかげだな。

 魔法の用意をしている騎士の盾となり、追撃を求めていた冒険者に協力したり――。

 リニャたちの班に拘ることはない。それが果たしてよいのかわからないが、怪我をすることもなく迷宮での初戦闘は終了した。

 一度態勢を整えることになり、その場で班のメンバーで集まる。

 もちろん、いつ魔物が出現しても大丈夫なように警戒はしている。

 

「いいサポートじゃない」


 リニャの班へ戻るとそんな声をかけてもらった。

 他人からの評価を聞くのはこれが初めてなので、少し照れくさい。


「そうですか?」

「なんでもこなそうとする態度はいいけど……そのせいであんた個人の力が発揮されたようには見えないわね」

「ぶっちゃけると、あんまり戦闘は得意じゃないんですよ」


 戦闘を始めたのはつい先日だ。ここまで戦えるのは、僅かながらに残った力のおかげだ。

 しばらくリニャがこちらを見てきて、首を振る。


「あんた、別に腕が悪いってわけじゃないと思うわよ。あんた、剣の訓練積んだことないでしょ?」

「え、そこまでわかるんですか?」

「まぁ、これでもそれなりに見てきているからね」


 見た目若そうだけど、隊長だし、それなりの年齢なのかもな。

 なんて失礼なことを考えていると、リニャの視線が鋭くなった気がする。


「あんたがやるべきなのは、今のままの我流で行くのか、誰かに師事して教えてもらうかのどっちかね。我流がはまれば、そっちのほうがいいけど、そういうのってあんまりいないから師事したほうがいいとおもうけど」

「まあ、機会があればそれもやりたいですけどね」

「いい相手が見つかるといいわね」


 なんて話していると、周囲の冒険者の鋭い視線に気づく。

 いかんいかん。針のむしろにいるような状態になってしまう。

 人目がない場所で、俺は服でスマホを隠すように取りだす。そうしながら、先ほど倒した魔物たちを確認する。

 ラインドウルフ、ラージゴブリン、バルーン、ショットラビット。

 この四体であるが、ラインドウルフとラージゴブリンの魔物装備も普通のウルフたちと同じだ。


 効果は上昇しているかもしれないが、状態異常系を外してまで使いたいものではない。

 バルーンも、ゴーレムにタイプが似ている。ショットラビットは髪の毛を飛ばすらしい。

 遠距離攻撃は嬉しいが、ハゲそうだから却下だ。


『あの女騎士にあまり近づかないほうがいいですよ』

「なんでだ?」

『顔を覚えられると厄介です』

「まあ、変装しているし大丈夫だろ」

『ですが、クセなどを覚えられる可能性もあります。いつもとは違った動きをするとか必要かもしれません』

「それは一理あるな。俺のクセって何かあるか?」

『困ったときに頭をかきますね。後は苦笑が多いです。それと、悩むときに眉間に皺を寄せながら腕を組みます。後は、やることがないときに右手をグーパーしたり……』

「良く見ているな。……なるほど、まあ、とにかく気をつけるよ」


 結局、魔物装備は変えずにスマホをしまった。


「そろそろ出発するわよ」


 服についた汚れを払いながら、リニャたちとともに先頭を歩いていく。

 平原を歩いていくと、森の中に二階層へ繋がる転移魔法陣を発見する。

 

 リニャたちが色々と調査をしたところで、まずは様子見として俺たちが乗ることになる。

 転移と同時に周囲へ魔法を放つが、魔物はいなかった。

 背後から続々とやってきて、再び進んでいく。

 二、三、四、五と問題なく移動していたのだが、第六階層へと移動したところで、リニャが片手をあげた。


「……ここは、川があるわね。危険だわ」


 第六階層は、木々が減った代わりに、大きな川が一つあった。

 それが、中央から北と南でわけるように、中央にある多少ヘビのように先が曲がっており、俺たちの魔法陣近くにその先があり、湖のようなものが形作られている。

 対岸へと渡るには、魔法などを使う必要があるかもしれない。


 癒すようにせせらぎが耳に届く。大きな川であるため、彼女たちからすれば、警戒すべき地形なようだ。

 ……俺は水が大丈夫だから気にしていなかったな。

 仮に、濡れるようなことがあった場合、演技をしなければならないのか。

 けど、人それぞれ、それなりに水への抵抗力は違うとも聞いた。過剰なまでに気を配る必要はないかsもりえない。

 と、考えていると――。


「足元よ!」


 俺は初動に遅れる。

 リニャに突き飛ばしてもらったおかげで、敵の奇襲を回避できた。


「ありがとうございます!」

「気にしないでいいわ! それより、すぐに戦闘態勢を――」


 リニャが叫ぶと、周りを囲むように魔物が出現する。

 第五階層までは第一階層で出会った魔物しか遭遇していなかったのだが、六階層では違った。

 半魚人と思われる人型の魔物が、威嚇するように声をあげる。

 全身を青みがかった鱗が覆っており、その足や手には水かさのようなものがついている。

 頭はカッパを彷彿とさせる皿のようなものが乗っている。

 それらが三十体ほどいるために、頬がひきつった。


「とりあえず……全員が転移されるまで、生き延びることを優先したほうがいいですよね?」

「……そうね。この数相手となると、範囲魔法を放つためのチャージ時間もないわね」


 リニャと顔を見合わせ、お互いの死角を守るように固まる。

 敵は連携しながら攻めてきた。

 反撃をしても、すかさず別の半魚人がカバーするように動いている。

 ある程度の知能まであるようだ。


 時間を稼げばこちらが有利となる。

 転移魔法陣から援軍がやってきて、半魚人の群れを押し返していく。数で上回ってからは早い。

 敵を一気に押し込んでいき、半魚人は逃げていく。


「……迷うわね。攻め込む必要もないかもしれなけれど、逃がして仲間を呼ばれても厄介よね」


 リニャが女騎士たちと話をし、そして決断したのか顔をあげる。


「一度態勢を整えるわ。各班、警戒しながらついてきて。この階層は水があるから、かなり危険よ。脱出用転移魔法陣の防衛を何班かに残ってやってもらうわ」

「それじゃあ、私たちと……どこか一つの冒険者班お願いします」


 女騎士たちが手を上げると、出会いのチャンスとばかりに男冒険者のパーティーが手をあげた。

 人目から隠れるようにスマホを取り出し、先ほどの魔物を調べる。

 サハギン 水中呼吸+。


 水中か……あれば便利かもしれないけど、今ある中だと毒霧や麻痺粉、変身、眠り粉のどれかを削除しなければならない。

 変身は論外だし、毒霧、麻痺粉、眠り粉も奇襲するうえでかなり必要になると思っている。

 外すとしたら、毒か眠りかな? けど……やっぱり状態異常攻撃は暗躍するためには必須ともいえる。


 これからやることを考えれば、水中呼吸は今のところ必要ない。

 サハギンは諦めよう。

 短い休憩の後第六階層の調査を開始する。


「ここの調査が終わったら、一度地上に帰還するわ。水対策もしてこないとね」

「水対策ですか?」

「あんた、そんなのも知らないのに冒険者なの?」

「いやぁ……あはは」


 水への対策手段があるとか、冗談じゃねぇぞ。

 俺がヒーニアに唯一勝てるとしたら、水による不意打ちとかくらいしか思いついていないってのに。

 

「対策っていっても、水を弾く加工がされている鎧を着るくらいよ。それでも、普通の鎧よりかは全然マシだけどね」

「……へぇ。メモメモ」

「何もないじゃない」


 手に文字を書くように動かすと、びしっとチョップされた。

 魔物は最初のでほとんどいなくなったのか、第六階層の移動中に襲われることはほとんどない。

 問題は、やはり川だ。俺なんて汗かいたし、川で泳ぎたいなんて思っているが、みんなは常に川の水に怯えているようだ。


 ……大変なんだなぁ、とかのんびり考えていると、正面からサハギンの群れがやってきた。

 各班ごとに戦闘準備を整え、それぞれが迎撃していく。


 だが、半魚人の数が多い。段々と押され始め、リニャが後退の指示を出していく。

 こちらも負けるわけではない。数こそ多いが、こちらのほうが総合戦力は上だ。

 逃げようとした先から、さらに半魚人が襲い掛かってくる。

 ……これは、何か意図的な動きがあるように感じる。


「まさか、リニャさんっ」

「……まずいわね」


 リニャに声をかけると、彼女も気づいているようだった。

 こいつら、川に俺たちを落とそうって作戦だな。

 賢い奴らだ。

 ここまでまるで襲い掛かってこなかったのは、俺たちの警戒心をなくすためと戦力の用意といったところだ。


 相手は魔物ではあるが、人間と同じくらいの知能はあると思って挑まないといけない。

 ……こういう魔物もいるんだな、と冷静に観察していたが、他の面々は違う。

 確実に川が近づいている。俺以外の人たちからすれば、そこはギロチンのような恐怖があるのだろう。


「私が道を開くわ! その隙に、行きなさい!」


 リニャの剣に魔力が大量に集まっていく。

 俺がまだ射線上にいるんだけど……!

 みんなが横へと避けている中、俺も急いで跳ぶ。


 同時に、リニャが剣を振り下ろすと、炎の渦が真っ直ぐに伸びていく。

 避け切れなかったサハギンたちが燃え尽き、リニャが剣を構えなおす。

 ……すげぇ、威力だな。リニャの魔法の先にあった木々も魔物も消滅し、真っ直ぐの道が確保された。


「早く行きなさい! 殿は私がやるわ!」


 リニャはそういいきったが、俺は少し心配だった。

 みんなは迷いなく走り出している。それは、彼女への信頼なのだろう。

 サハギンたちが襲い掛かってくるが、相手の力を利用するように流し、俺も走っていく。

 後方を気にかけながら走っていると、視界の端で何かが揺れた。


「きゃぁ!?」


 リニャの悲鳴に振り返る。

 ……長い舌がまっすぐにリニャの足へと巻きついている。

 それには大量の水が付着しており、リニャは力が入らないようで、剣をこぼしてしまっていた。

 ずるずると引きずられるリニャを見て、女騎士が動きだす。

 が、サハギンたちが道を塞ぐように跳んでくる。


「ちょっと……何よ!」


 リニャがどうにか攻撃をしようとするが、魔法も構築できないようでいた。

 川へとどんどん引きずられていき……そして、その舌の主が姿を見せる。

 水をうち上げるように飛び出したのは、巨大なカエルだ。

 不気味な斑点模様の入った巨大カエルは、げらげらと笑うように、舌を巻き取っていた。


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