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第二話 どうやら三分が限界みたいだ


 不思議な文字に多少の疑問はあれど、他に頼るものもない。

 賭けだ。もはや俺には何もない。突然ここで服のすべてが弾けとんだとしても、受け入れる覚悟はある。

 俺は右手に集まった魔力を、スマホに叩きつけるように押し付ける。

 途端、スマホが強い光を放ち、リンゴも光りだす。これはもはや一つのランプとして売り出せるレベルの光共鳴だ。

 こんな夜空の中で、地上に咲く光りの花。

 敵に居場所がばればれになるからやめてほしいね。


『な、なんだこれは?』

「わからねぇが……これ以上悪いことにはならないはずだ!」


 スマホの光りが治まり、リンゴの絵があった横に第二形態、と書かれる。

 第二形態? リンゴがラスボスにでもなったのだろうか。となると、もう何回か進化を残しているだろうけど。

 とにかく、リンゴの体は一回り大きくなった。

 牙も爪も鋭くなり、犬というよりも巨大な狼と言われたほうがしっくりくる。ただ、目は可愛らしい感じだ。

 体は強そうになった。あれが張りぼてでなければいいんだけど。


『力が……わきあがる!』

「そうか! ウルフを蹴散らせそうか?」


 やっぱり序盤の魔物といったら、ウルフとかゴブリンとかだし、俺は勝手にウルフと名づけさせてもらった。

 ウルフたちも俺たちを警戒している。

 正確にいえば、俺たちではないと思うけど、俺たちなのだ。


『……ふん、あれに苦戦していたかと思うとさっきまでの自分が情けないな』


 変化の終わったリンゴは強気に口を開いた。あの、そういうのあんまり言わないで。なんだか負けフラグみたいに聞こえてくるから。

 スマホの画面を見る。

 そこには、三分の文字が表示され、今も着々と減っている。

 ……カップラーメンができあがるタイマーなわけねぇよな。それに俺は二分くらいで食べ始める。これでは正確な時間ではない。

 考えられるのは、一つだ。


「どうやら、三分が限界みたいだ! リンゴ、ハリー!」

『ならば……これでしとめる!』 

 

 リンゴが一瞬足に力を入れる。

 ばっとリンゴの姿が過ぎ、風がすぎる。次の瞬間には、ウルフたちの体が引き裂かれ血が噴出す。

 おお! 映画のワンシーンみたいだ。


 俺の前へともどってきたリンゴ……いやもう彼はあれだ、リンゴ様だ。

 それほどまでに俺との格の違いが生まれてしまった。両手を合わせていると、やめろ、と鋭く睨まれ、俺はいつもの態度に戻ることにする。


 俺のスマホが光り、魔物装備欄というものが出現する。

 そこには、ウルフという文字があり、ウルフのスキルとして、『嗅覚アップ』と表示されていた。

 ……どうやら、倒した魔物を俺の補助として装備することができるようだ。


 枠は四つあるため、とりあえずウルフをセットしておいた。

 リンゴがべろりと全身をべろりと舐めてきやがった。


「や、やめろよせっかくの一張羅がばっちい! 甘えるのも時と場合を選んでくれよ」

『違う……どうやら、やはりそうだな』

「……まったく。あれ? 傷が……」


 痛みがない。

 腹の傷がなくなっている。

 あるのは舐められたことによる、ちょっとばかりの臭さだ。


『俺はこれがしたかったんだ。まったく……』

「ありがとな。……さて、これからどうするか?」


 行き場所なくなっちゃったしな。

 異世界に召喚されてその日に国を敵に回してしまっているのだ。俺は友好的な関係を結びたかったのにさ。


『ひとまず、もっと離れた場所でゆっくり考えるようにしないか?』

「……確かに」


 門の外に騎士が集まってきている。

 リンゴが身を低くし、俺はリンゴの足を蹴るようにして飛び乗る。


「痛くないのか?」

『問題ないな』


 よし、逃げよう!



 ○



 しばらくリンゴに連れて行かれるままに移動し、俺たちは森へと身を隠した。

 視界の広い場所を移動していると、どうしても騎士達に見つかると思ったのだが、夜の森とか怖すぎ。

 今すぐに小便を出したい衝動にかられ、しかし移動しなければならない。

 もう出しながら歩いてしまおうか。それはそれで道しるべになるし、いいんじゃないか?


『馬鹿なことをしようとするなよ』


 ズボンを動かしていると、リンゴが声をあげた。

 さて……真面目に考えようか。

 サバイバル経験のない俺たちが森で暮らせるはずがない。

 すでにリンゴの変身は解け、一気に移動できない。

 森の中で程よい長さの木の棒を掴み、近くの木に振るう。


『おまえはそれを使ってどうするつもりだ?』

「いや……敵……というか騎士は剣とか持っているし、やっぱり武器が必要かなと思ってな」


 よく学校の校庭で棒を見つけてはチャンバラして遊んだものだ。

 あの頃はただの遊びだと思ったが、気づけば複数対俺という構図ができていたのはもしかしていじめだったのだろうか。

 なんか嫌なことを思い出してしまった。

 それに、魔物相手に徒手空拳で挑むのはちょっと……という考えもある。


『それ、武器として通じるのか?』

「気分的にはな」

 

 ほどよい長さの棒は、持っているだけで心を強くしてくれる効果がある。

 ちょうど良い形の岩を見つけ、そこに腰かける。

 ようやく、一息つけたな。余裕が出てくると、睡魔もやってきたが、ここで寝るのはダメだ。


「まずは状況の確認からだな」

『……確認するほど、何かがあるわけでもないだろう? 召喚され、殺されかけた。今後どうするか、といったところか』

「おまえ、異世界転移してから賢くなったなぁ。水鉄砲で遊んであげてたときなんか可愛いものだったのにさ」


 そう言いながら、俺はポケットに無理やりねじ込んでいた水鉄砲を見せる。


『いや、あれも俺が遊んでいただけだから。おまえ楽しそうだったじゃないか』

「なに? 俺が遊んでいただけだ。人をガキ呼ばわりするな」


 リンゴに遊ばれていたと思うとちょっとばかり悔しいので言い返す。

 まあ、俺が存分に楽しんでいたのは言うまでもない。

 他にやることがなかったのだ。


『せっかく水鉄砲買ったから遊ぼうと行ってきたのはどこのどいつだ?』

「いいじゃねぇかよ! 夏で暑かったから楽しみたかっただけだっての。おまえも暑そうにしてたから、誘ったの」

『そんな感じだな。公園で遊んでいた俺たちは、謎の光に包まれた、と』

「……良太りょうた。大丈夫かな?」


 たぶん、地球にいるはずの俺の友人にして、リンゴのご主人様の名を口にする。


『ご主人様か。おまえが咄嗟に突き飛ばしたから大丈夫だと思う。……あの光には触れていなかったと記憶している』

「だったらいいんだけどさ」

『この状況でよくもまあ、他人の心配をできるな』

「こんな状況にあいつまで巻き込まれてほしくねぇからさ」


 しばらくそこで体を休めていたのが、休憩は魔物によって妨害される。

 ウルフが姿を見せ、俺たちに唸り声をあげてくる。

 二体ほどきて、さっきの恐怖こそあったが、弱さを見せないようにする。

 つけこまれたら大変だ。人間も魔物も、弱点を見せれば酷いことになりかねない。


「試してみるか」

『水か?』


 この世界にきてから、水鉄砲が凶器とされた。

 それは、中に水を確保でき、さらに前方へと発射することができるからだ。

 安い水鉄砲なのでそれほどの距離はないが、それでも脅威といわれた。

 この世界の人間は水がダメだからだ。この世界にある自然水は、魔力を含みにくい。

 人間たちは、魔力が含まれていない食べ物、水を食べると、体が痺れたり力が入らなくなってしまうらしい。


 人によって差はあり、比較的問題ない人もいる。それでも、多少の問題はあるらしいが……俺は今も問題ないんだよな。

 魔物にもあてはまる。

 人間が生活に使っている水は、飲む前に魔力をいれ、魔力を十分に含ませるなどの一手間が必要なんだそうだ。


「おらよ!」


 近づいてきたウルフに水鉄砲を向ける。

 放たれた水は真っ直ぐに伸び、ウルフに当たる。

 途端、ウルフは四肢でももがれたかのごとく悲鳴をあげる。

 

「……本当なんだな」

『本当に水がダメ、なのか』

「これなら、多少は戦えそうだな」


 一体のウルフとリンゴがぶつかる。一対一ならば、リンゴのほうが強い。

 その喉元を食いちぎり、リンゴがぺっと吐き出す。

 R18だよ。目の前で見せられたら食欲がなくなってしまう。


「お、おまえちょっとグロテスクなんだけど。俺あんまりそういうの好きじゃないんだけど」

『そんなこと言っている場合じゃないだろう。……ひとまず、適当に休める場所を探そう』

「……そう、だな」


 俺たちは森の中を歩き、洞穴のような場所をみつけ、そこで休むことにした。


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